第2話:百合の母達の馴れ初め



「それにしても」


 食後のケーキも食べ終え、紅茶を飲みながら、アカネが誰にとなく語り掛ける。


「二人の誕生日が同じだなんて、不思議な偶然よね」


 それを聞いた母・美里が首を傾げながら答える。


「あら? 言ってなかったかしら?」


「何? 何の話?」

「ボクも聞いてない、かも?」


 アカネも雪人も何の話だろうと、美里に食いつくと、


「そう言えば、ちゃんと話した事はなかったかも、ねぇ」


 母・雪枝が美里の肩を抱きながら言う。


「アカネちゃんと雪人がぁ、私達の出会うきっかけで、愛のキューピットだったのよぉ」


 雪枝と美里が語る、二人の馴れ初め。



 当時。


 佐川雪枝と相本美里の二人はたまたま偶然に同じ病院で出産した。


「あれはビックリしたよねぇ、陣痛が始まったのもほぼ同じだったし」


「出産したのもほぼ同時だったのよねぇ」


 産後の入院期間も、同じ病棟で過ごした二人。


 同じ日に出産したこともあり、また、同じシングルマザーだったことから意気投合。


「お互いの境遇とか、考え方がすごく似てたのも驚いたわぁ」


「ええ、『夫は要らない、けど、子供は欲しい』なんて考えてる人が、こんな近くに居るなんて想像もしてなかったわ」


 退院後も二人で協力して子育てをしようと言う事になった。


「大変だって覚悟はしていたんだけどぉ」

「二人でなら、ずいぶん楽になるかな、って」


 美里が雪枝宅に居候する形で同棲を始め、会社を経営している雪枝が、美里を自分の会社に登用。仕事場で育児もできるように会社の環境を整えた。


「最初は、お互いが協力して子育てするパートナーってだけの筈だったんだけど……」

「一緒に暮らしている内に、ねぇ……」


 そんな二人の協力関係が友情になり、友情を超えて愛情に変わるまで、さほどの時間はかからなかった。


 そして、願うようになった。


「本当の、家族に、なりたい……って」


 どうすればいいか?


 同性婚についても色々と調べた。あまりいい結論は出せなかった。


 じゃあ、どうすればいいか?


 愛し合う二人を、より、強く結びつける、絆としての、証。


 女性同士で子供を作る事も、現代の医学、科学では、不可能。


「アカネ……」

「雪人……」


 二人には、それぞれ子供が居る。


 男の子と、女の子。


「「そうだ!」」


 二人は、思い付いた。


「雪人、雪人は将来、アカネちゃんのお婿さんになるのよぉ」


「アカネ、アカネは将来、雪人ちゃんのお嫁さんになるのよ」


 まだ乳飲み子だった雪人とアカネは、ベビーベッドの中、抱き合ってすやすやと眠っていた。



――――――




「そっか、それが母さん達の出会いだったんだね」

「すごく素敵ね……」


 母達から話を聞いた息子、そして娘は、


「だから、わたし達は生まれた時から、ずっと一緒だったのね」

「生まれてすぐに出会った、って事か……」


 感慨にふける。


 二人が、同時期に同じ病院で生まれていなければ、おそらく、二人の母親が出会う事も無く、二人の子供もまた、出会う事が無かっただろう。


 二人が、同時に生まれたからこそ。


 二人の誕生日が同じだからこそ。 


 雪人とアカネは生まれた時からずっと一緒に育った。


 兄でもなく、弟でもなく。


 姉でもなく、妹でもなく。


 『幼馴染』、ともまた微妙に異なる距離感。


 そして、母達から幾度となく『将来、結婚する』と聞かされ、意識としては『許婚いいなずけ』であり、既に互いが夫であり、嫁であり、伴侶であると。


 母達の本懐。


 子供達が結婚し、母二人の血族となる、子……孫を成す事。




 今日は二人の十六歳の誕生日。


 本懐を成し遂げるまで、およそ、二年。


 母達の期待を胸に、でも、日常は、坦々と過ぎ行く。




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