第7話 出生証明書


「有能な人のようね。ヒューゴ―も有能だった」


「そうだ。ヒューゴ―はクレアの子で間違いなかった。パウェル家からでの文書では確認できなかったが、王室公文書の記録に残っていた。彼はコンラッドが死去するとすぐに分家のダンヒル家に出された。後に4代目当主として長きにわたりダンヒル家を盛り上げていくことになる。その時、干拓事業を始めた」


「事業をやりだしたのはそもそもダンヒル家だったのね」


「事業は成功を納め、本家をしのぐ財力を築く。そこにパウェル家9代当主アダムの早世。アダムは後継ぎを残さなかったからその当主は分家筋が継ぐことになる。ヒューゴ―は元パウェルではなく、ダンヒル家の人間としてパウェルに入った。面白いことにヒューゴ―もそのことは一切言わなかったようだ」


「元パウェルと言えば、復讐とか、本家乗っ取りとか、変なイメージが付いちゃうものね。それよりかは既定路線の陞爵しょうしゃくという形と、富をもたらす者というイメージの方が領地経営には断然有利だもの」


「だが、その賢さが今回の件を引き起こした」


アレクシスは懐から紙を出した。そして、私に手渡す。


「ヒューゴ―の出生証明書だ。授爵諮問会議じゅしゃくしもんかいぎ発行の正真正銘のやつ」


「すごいじゃない。これで婚約はなかったことになる」

「今日、カレッジが終わったら君に見せようと思ってたんだ」


私は手にある証明書をアレクシスに返した。


「さっそくキャロルに渡して」


「いや、これは君の手柄だ。君からキャロルに手渡すのが筋だ」

「やだよ。キャロル知らないし、あなたに任せる」


うるうるした目で見つめてみる。


「そうか。君が言うなら仕方がない」


納得いかないアレクシスだったが、私のお願いは断れない。しぶしぶ証明書を懐に入れた。


「さて、もう15番街よ。アレクシス、もう一仕事お願いね」

「分かった」


馬車が止まった。私たちは馬車をおり、3階建ての建物を見上げた。チャドの話によれば愛人の子供とメイドだった者はこの建物の2階にいる。


階段を上り、チャドがドアをノックする。どなた、という返事が返って来た。チャドはオリビア様からのお手紙です、と答えた。ドアが開いたかと思うとチャドが押し入った。アレクシス、私と続く。


チャドはドアの脇で待っていた。私たちが入ると素早くドアを閉め、ドアの前に立つ。


突然雪崩れ込んで来た私たちに、メイドだった女は驚き、身を硬直させていた。子供用ベッドには赤ちゃんがすやすや眠っている。


「御心配なさらずに。我々はあなたを助けに来ました。僕の名はアレクシス・ウォルトン。彼女はソニア・バニスター嬢。ドアの前の男はバニスター家のバトラー、チャドです」


女は、はっとした。私たちの名は当然知っていよう。雰囲気からも私たちが平民ではないのを職業がら、感じ取っている。そしてなにより、彼女はジュード・ゴードンの子を預かっている。貴族が突然訪ねて来ても何ら不思議ではない。


一歩二歩下がり、それから壁まで後ずさるとかしこまった。


「まず、あなたに残念な知らせをしなくてはならない」


え? って顔を女はした。息を飲んでアレクシスの続く言葉を待っている。


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