第6話 15番街
私たちは馬車に乗った。もちろん、チャドもいる。馬車が走り始めた。
「あなたを呼んだのは他でもない。ゴードン家の使用人のことよ」
「ああ、愛人な。そんなことでなんでわざわざ君が」
「手切れ金でアザレア近郊の土地を買って、小さな農場を経営してたんだけど、昨晩住居が全焼した」
アザレアとは王都トレニアの衛星都市である。
「殺されたか。ゴードンの仕業に違いないが、平民が貴族に罪は問えない。例え何百人殺されてもな。残念ながら君の出る幕ではない」
「そんなことは分かってる。さっき言ったでしょ。私はアザレアに向かってない」
「あ、それもそうだ。じゃぁ、この状況はどういうわけ」
「15番街に、その使用人の子供がいる」
「え? ええ!」
ふふ。想像通りの反応。わたしもまさかとは思ったが、そのまさかが当たった。
「もしかして、ジュードの子か」
「そうよ。チャドの調べではね」
アレクシスは反論しなかった。チャドを毛嫌いしているが、彼の手腕はかっている。
「なるほど。子供がいたとなれば話は別だ。執政カーティス・ゴードンとブラッド・アーサーズ辺境伯の約束はその時点で成立しない。で、子供を消そうとしてたわけか」
「でも、そうはいかなかった。使用人の女は賢い女だったのね。まるでこうなることを見越してたよう。子供を人に預けてた。一番仲良かったメイドだそうよ。もちろん、養育費は払ってね」
「それも時間の問題だろうな。現場検証して、子供の遺体がないとすればゴードンは黙っていない。あるいは、住居に踏み込んでおいて女を殺害した後に火つけた。それなら最悪、昨日の時点で子供がいないことはバレている」
「だから、急いでるの」
「ということは、君はその子供を助けようとしているんだね。助けてどうする。まさかそれを盾に警察へ訴えるって馬鹿なことはしないよな。平民の一人や二人殺されたとしても警察は動かないよ。ましてや警察のトップは治安官で王都トレニアの代官が兼ねている。トレニア代官は組織上、執政の傘下。つまり、何をしても無駄ってことだ」
「その通り。ごもっともだわ」
「じゃぁ、なんで」
「メイドごと雇おうとしているんですが、なにか?」
予想外の返答だったようだ。キョトンとしたアレクシスだったが、ニヤリと笑った。
「悪趣味だが、君のそういうところも好きだ」
やっぱ悪趣味か。確かに嫌がらせみないな部分はあるけど、全部知っちゃったもの。乗り掛かった船だし仕方ないじゃない。
「ところでそっちはどうだったの。クレアとヒューゴ―」
「君の推理通りだった。クレアはオルグレン侯爵令嬢でパウェル家に嫁いだ。コンラッドと男子を設けている。その後すぐにコンラッドが亡くなり、一旦実家に帰されるのだが、すぐにアーサーズ家のクラークと結ばれた。彼女は80才まで生き、当主を三代に渡って補佐した。今のアーサーズ家の繁栄は彼女のおかげと言っていい」
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