紙の塔

梅林 冬実

紙の塔

砂煙が視界を歪める

遥か向こうに微かに見える高い塔

あの中で暫し休もうと考え

真っ直ぐそれに向かって歩く


「あんなものに意味はないよ」


あるかどうかは確かめてみた者にしか分からない

目線をほんの数秒そちらに向けただけで

容易く切り捨てる誰かを私は信じない

一歩一歩踏みしめる両足に伝わる感触を

知らない人の言葉にこそ意味はない


けれどそんなことを口にすれば

なんて酷いやつだと糾弾される


何が酷いんだ

酷いのはお前らの方だ


ほんの少し視界にとらえただけで

その温度も味も臭いも

何をも知ろうとせず「あんなもの」と言い捨てる

否定されるべきはお前らなんだ


私は歩く 休むつもりはない

歩いていればほら

朧気だった塔の象がくっきりと見えてくる

お前らが早速に目にすることを止めた

塔の高さや扉の位置 人の有無を

私だけが知れたのだ


仮令それが紙でできた

今にも吹き飛ばされそうな建造だったとしても

知らないお前らよりいくらか

こちらの方に分がある


紙の塔にも扉はあって

私だけが中に入れたことを取ってもな

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紙の塔 梅林 冬実 @umemomosakura333

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