たまにはおやつ、いかがでしょう?
CHOPI
たまにはおやつ、いかがでしょう?
殺人的で容赦ない日光が照り付ける。背負ったお気に入りの黒のリュックサックがその光を散々吸収して、ありえないくらいに背中が暑い。肌着を着ているのに、その上に着ているはずのTシャツがじっとりと汗を吸っているのを感じる。今日も今日とて、懲りずに本当に暑い。
ギラギラと照り付けてくる日差しの中、ヒィヒィ言いながらなんとか自宅の最寄りの駅へと付いた。屋根の下に入って日差しをよけただけで、体感温度が数度変わる気がするのは気のせいだろうか。背負っていたリュックを前に抱えて中から小さめのタオルを出して、もう一度背中へと背負い直す。タオルで汗を拭きながら改札口に向かい、いつものようにICカードをタッチして、電車の来るホームへと歩いた。すると、たまたまタイミングよく電車が滑り込んできて、『ラッキー』、なんて思いながら電車へと乗る。車両内がキンキンに冷やされていて、思わず息をついた。空いている席を見つけて腰掛ける。
周りを見回すと、みんな大きな荷物を背負っていたり、キャリーバッグを引いていたり。小学生くらいのお兄ちゃんが自分より小さい女の子の手を引いていたり、高校生くらいの子らがグループで、お揃いの部活のバッグを持っていたり。そんないつもとは少しだけ違う景色の中に自分も溶け込んで、『あぁ、夏休みだもんな』なんて納得したりして。
いつもならとっくに会社にいる時間に、悠々と自宅を出て電車で移動する。休みの日のだからこそ出来ること。
乗り込んだ駅から乗り換えなしで行けるけど、とはいえ距離的には少し離れた比較的大きめの駅を目指す。今日の目的地はこの辺では一番行きやすい、大型のショッピングモール。
あー、きっといつもよりも賑わっているんだろうなー……
そういう予想は大概、的中するもので。いつもより人で溢れているショッピングモール内を一人歩く。ファッションや雑貨類で溢れているその場所で、同時に視界に入る、家族、カップル、友人らと連れ添っているグループetc. その中で一人フラフラしているのが、ほんの少しだけ居心地が悪く感じられて、ちょっぴりここに来たことを後悔した。
……特に何も、欲しい物、無いなー
そう思いながら、ファッションフロアを早々に離脱するため、出口を目指して移動する。すると、どこからともなくいい香りが漂ってきた。甘くてふんわり、優しい香りだ。
いいにおーい……
そこで今日、ここへ来た本来の目的を再確認。甘い香りに誘われて、その香りを頼りに食べ物を主流で売っているフロアへとたどり着いた。探し方、野生動物かよ……、なんて自分に一人ツッコミつつ、キラキラしたショーケースの中を見て歩く。パイやクッキーのような小麦とバターの焼けるいい匂いの中、涼しげなゼリーを売っているお店を見て、思わずそこでも夏を感じたりして。
これ、きれいでいいなー……
涼しげなその見た目に惹かれて、爽やかな柑橘をベースにしているというゼリーをいくつか買う。キレイな水色の中、柑橘の黄色やオレンジが浮かんでいる涼しげなゼリー。こういう物をめったに買ったことが無いから、心の片隅がソワソワして少し落ち着かない。お金を払ってゼリーを受け取ってから、落ち着かない心持のまま、幾分早歩きで、今度こそ出口を目指した。
来た時と同じように電車に乗って、だけど自宅の最寄りを過ぎて。そうしてショッピングモールとは反対方向、一時間くらい電車に揺られると、窓の外に見えるのはよく見慣れた安心する景色。
「あら、おかえり」
「うん、ただいまー。これ、お土産」
「え? どこの?」
「あそこ。あのショッピングモールの……」
遠く離れているわけじゃないし、だから頻繁に顔も出すけれど。珍しく手土産を持って帰っただけで『帰省』感を感じている、なかなかコスパの良い自分。
たまにはおやつ、いかがでしょう? CHOPI @CHOPI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます