第102話・新しい世界

 ブレイドが堕ちた地獄をそっと覗き見てみると、先輩のルデウスと一緒に鬼の責め苦を受けていた。事情を知らないホーリー、レスリー、アレックに、ルチアが突き放すような説明をする。


「あいつ、悪魔と契約をして魔術書を人間に流したのよ。それで火事が起きたから、生きながらにして地獄に堕としたっていうわけ」

「悪魔は人の心に宿る、そういうことだ」


 決まり文句を決めゼリフにして、みんながそうだと納得すると、バタバタとした羽音が近づき窓からアムンが入ってきた。

「ミア様のお試し契約が満期になったので、参りました。それとルチア様、定期契約の更新時期です」

「レスリー、アックス、本物の悪魔よ!」

 ホーリーがメイスを構え、レスリーが拳を握り、アレックは槍を突きつけた。突然来たくせに、突然のことにアムンはタジタジである。


「待った待った、ホーリー抑えて。こいつは真面目な営業マンだ。アムンも話がややこしくなるから、そこで待っていてくれ」

「そういうあなたは……レイジィ様? おめでとうございます、身体を得た上にMHKと契約されたのですね?」


 どうなんだ? バハムート・レイラーと女神様の祈りを取り込み復活した俺は、MHKと契約を強制的にしてしまったのか? そうルチアに目配せすると、首を横に振っていた。


「契約していないよ。女神様の祈りも身体の一部になっているんだ」

「ええっ!? 何ですって!? それで契約したら、どうなるんだ……総裁に相談を」

「その総裁も、俺の一部になっている。俺はMHKと教会側のどっちでもあり、どっちでもないんだ」


 アムンは愕然とした。それから思考を整理して、バハムート・レイラーは討たれたのだと理解して、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。

「おのれ貴様ら……我らが総裁を倒すとは……」

「でも、今はレイジィになって半分生きてるのよ」

「はぁ、そうなんですか。半分ねぇ、そうですか」

 アムンの怒りが引っ込んだ。よくわからないと首をひねっているものの、何と素直な悪魔だろうか。


「それで、レイジィ様がMHK新総裁でしょうか」

「何か……そうなる流れだな。もう半分は女神様の祈りだから、これからは教会と提携する。魔物には冒険者ギルドと手を組んでもらい、ダンジョンエンターテイメント事業を行おうと思う」


 するとスマホの女神様が小さくなって、エルフのいすゞが割り込んできた。

『いいわね、レイジィ。その仲介役、私に任せて。互いに殺し合わないようにするのね?』

「ありがとう。いすゞは鉱脈をミミックに守らせているから、信頼出来る。スキルの制御は四獣に聞くといい、封印の御札をチケットにするんだ」

『さすがね、レイジィ。さっそくギルドと四獣とも交渉するわ、レイジィも頑張ってね』


 いすゞは頼りになる、出来れば女神様と交代して欲しい。交代して欲しいが、そうなれば世界がアレ✕スリまみれになるんだろうなぁ……。

「……って、ダンジョン制覇の賞品をアレ✕スリ本とか、アレ✕スリのトロフィーにするつもりか!?」

『布教するでござる、デュフデュフデュフデュフ』

「もしもし、いすゞ、もしもーし、もしもーし!」


 いすゞとの交信が断ち切られた、ダンジョン制覇の賞品がアレ✕スリグッズになるのは確定だ。

「ダンジョン制覇するわ! いつオープンするの!? どこにオープンするの!? リピーターになるわ! ハァハァハァ」

 と、ホーリーが賛同してくれている。本物がそばにいるのに、まだグッズが欲しいのか。


 当のアレ✕スリは、頬を赤らめいちゃいちゃしている。当然、ホーリーは鼻血を吹いてハァハァハァと荒い呼吸だ。

「アレック……俺、恥ずかしいぜ……」

「人目なんか気にしないだろう? レスリー」

 いちゃいちゃするのは構わないが、少しは人目を気にしてくれ。ともかく、著作権も肖像権もこれでクリアだ。


 しかし、スマホの中の女神様は納得しきれず眉をひそめる。魔族と女神様側が手を取り合う計画に、何の不満があるというんだ。

『レイジィ。私はまだ、いいとは言っていません』

「どうしてだよ!? この世界から争いをなくそうとしているんだ、真似事は残るにしてもエンタメだ。あなたは愛を愛する女神様だろう?」


 次の瞬間、女神様の人差し指がスマホいっぱいに映し出された。その指先は、俺のそばで画面を覗くルチアを差している。

『この魔女は、人間はおろか私までも【状態】魅了に陥れ、あざむいたのです! この世のすべてを魔族とするつもりでしょう!?』


 これにカチンときたルチアは、かじりつくようにスマホを睨みつけて歯を剥いた。

「だまされたのは私よ! 歌わされて踊らされて、しかもそれを全世界に晒されて! だいたいあんたが動画なんて公開するから! ガルルル」


 犬猿の仲のふたりを何とかしなければ、世界平和が叶わない。これを解決する手立てとは……。

 俺はハタと思い立ち、壁際で大人しく座っているアムンに声をかけてみた。

「アムン、ルチアの契約はいつ切れるんだ?」

「それが、ずっと移動されていましたのでギリギリになってしまいまして……もう間もなく」


 これはチャンスだ、女神様を納得させられるかも知れないと、俺はルチアの肩を掴んだ。

「ルチア、一度でいいからMHKを抜けてくれ」

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