第101話・ねぇ今どんな気持ち?
俺はミアからスマホを借りて、女神様と話し合うことにした。話になるかは別にしても、冒険者たちを止めなければならない。
「もしもし、女神様? 俺はユーキ・レイジィだ。ちょっとわけがあって、こんなふうに転生した」
女神様はキョトンとし、頬を濡らした涙を拭う。そして穏やかな微笑みをたたえて、俺の復活を祝福しだした。
『ユーキ・レイジィ、ついに身体を得たのですね? おめでとうございます』
しかしルチアが割って入り、いたずらっぽく女神様を煽ってきた。本当に嫌いなんだな、女神様が。
「MHK総裁バハムート・レイラーを継いだのよ。あなたが復活しそこねたレイジィが魔族の長なの。今、どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?」
「煽るなって! 女神様の聖なる力も込みなんだ! だから女神様、城攻めしている冒険者たちを止めてくれ。ちょっと話がしたいんだ」
そう懇願すると、ルチアはおもむろに扉のほうへ歩いていった。そして、誰もいない廊下に向かって声を張り上げる。
「のこちゃーん、たまちゃーん、冒険者を止めて」
すると壁から丸ノコと、廊下いっぱいのデカい玉が現れて、玄関に向けて駆け出した。
ギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャン!!
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……。
「逃げろ! 逃げろ─────!!」
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」
しばらくすると冒険者たちが尻尾を巻いてMHKから飛び出して、腰を抜かしてへたり込んだ。遺恨を残さなければいいのだが……。
「それでレイジィ、女神に何の話なの?」
ルチアに促されてスマホを見ると、女神様はチア✕チア☆ダブルチアグッズに囲まれながら、恨み言を呟いていた。話が出来るのか、心の底から不安でならない。
『いけ好かない魔女が、チア✕チア☆ダブルチアのルチアだなんて……嘘よ、嘘だわ、嘘だと言って』
「本当でーす、イヤイヤやってまーす」
「だから煽るなっての! 俺には話があるんだよ! 女神様、MHKと手を組まないか?」
女神様は丸くした目で画面越しに俺を見つめた。やった、興味を示したぞ。
「幽霊だった俺は、ミアとルチアと世界樹まで旅をした。すべてではないが、世界のあらゆる人たちと触れ合ってきた」
俺はスクリーンを宙に浮かばせ、今までの出会いの中から「これは」という人を映し出した。
俺が憑依して復活させたミルル。
「ミルルたん、ハァハァハァ」
「ロリコン勇者、エクスカリバー返せ」
エクスカリバーはブレイドの手を離れ、光り輝く天井へと吸い込まれ、俺のアイテム一覧へと戻っていった。
「俺は復活を否定しない。たとえ運命だとしても、救いたい人がいるからだ」
女神様は言うまでもなく納得し、ミアもうんうんにゃ、とうなずいた。復活否定派のルチアであっても母に会いたいと強く願い、身体に帰ったミルルを思い返せば認めざるを得なかった。
「だが、安易な復活はダメだ。捨て身が当たり前になっては、自身も他人も生命が軽くなってしまう。そこは、死んだらそれっきりと覚悟している魔族が勝る」
チートスキルに欲が出た爺さん、サロハユニフに討たれたゲイス、そしてMHK支部で【自主規制】まくったミアをスクリーンに映した。
「うう……ごめんなさいにゃ」
「すまないな、嫌なことを思い出させて」
「ミアのせいじゃないわ、アホ女神がホイホイ復活させるからよ」
女神様はカチンとしたが、返す言葉が見つからず口角をヒクヒクさせた。ルチアが「べぇーっ」と舌を出すと、女神様はレチアを思い出し頬をほんのり染めていた。
どうしても嫌いになれないんだな、チア✕チア☆ダブルチアが。
「復活に制限を設けないか? 対象を子供や事故に限るんだ。そのほか、魂の声を聞いて復活させるか精査する。アサラッシュの飼い主を天使にした女神様だ、出来るだろう?」
しかしこれにはルチアが頬を膨らませ、不服を申し立ててきた。死を司る魔族としては納得いかないらしい。
「女神なんか、救ってばっかりじゃないのよ。罪人はどうするの?」
「それは、魔族が裁きを下す。ルチアがルデウスにやっただろう?」
「あら、レイジィにも出来るんじゃない? やってみたら? ブレイドに」
サラッと地獄へ落とす、これが魔族の恐ろしさ。人の心がある俺は、躊躇わずにはいられない。ブレイドを地獄に落とすなど──。
『俺には、ミルルが必要なんだ。世界を救うため、俺に預けてくれないか!?』
『はっはっは、ミルルはいい子だな。気長に待っているぞ』
『ハァハァハァ、ミルルたん、ハァハァハァ』
『ミルルたん、ハァハァハァ』
俺の気持ちが百八十度変わった。総裁の間を暗転し、ブレイド以外の足元に魔法陣を出現させた。
「ブレイドに裁きを言い渡す。幼女略取未遂、幼女婚約、幼女の卑猥な妄想をした罪で、懲役56億7千年の刑に処す」
「「「どうぞどうぞ」」」
パーティーのみんなは賛成し、女神様も止めようとしていない。この裁きは適正だ、そう確信を得た俺は拳を突き合わせ、両肘を張ってゆっくり広げていった。
「ああ、あ、ああ、あああ、あああああああああああああああ!!……」
ブレイドの足元に穴が空き、闇より暗い奈落の底に落とされた。
重度のロリコンは地獄行きに値するのか、やったのは俺だけど。
しかしこれでは魔王というより、閻魔大王のポジションだな。まぁ……それがチートの俺の役目か。
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