第95話・(おはよーございまーす)
『(みなさん、おはよーございまーす。私ホーリーは、魔族を倒して奪い取ったアレックとレスリーの寝室前に来ていまーす。魔王の城にはほとんど窓がありませんが、外を見るとまだ真っ暗でーす)』
夜も明けきらぬ頃、女神様チャンネルではライブ配信が行われていた。就寝前にホーリーがこっそりと予告をしたから、城攻めをすると踏んで早起きをしたら、よりにもよって女神様が好きそうな内容である。
『(アレックとレスリーは、どのような寝姿なのでしょーかー。それではさっそく、寝室にお邪魔してみたいと思いまーす。おはよーございまーす)』
音を立てないよう、そっと扉が開けられた。真っ暗な部屋の中を、映し身の精霊がほんのり明かりを灯している。浮かび上がったのは寝息を立てるアレックと、彼の胸を枕にしているレスリーだ。
「こんな動画を見ている暇はないぞ」
スマホを凝視するミアをツンツンし、先を急ごうと促してみたが、動画に夢中で反応がない。
「そうよ、ミア。今は朝風呂を浴びるときだわ」
手ぬぐいを片手に下げて、ルチアは険しくもウキウキした表情を浮かべている。MHK総裁の娘が、これだ。城攻めに焦っている俺のほうが、よっぽど魔族らしいじゃないか。
『(胸枕! 尊い! 尊い! すみません、よだれが……じゅるり。この光景を愛でていたいところでありますが、魔王を倒すためにふたりを起こそうと思いまーす)』
ホーリーは稲荷
『何をノンキに寝とんのじゃオラァ!』
『『うわぁっ!? ロリコーン!?』』
『わしゃあブレイドじゃあ! 寝ぼけたこと抜かしよんなゴルァ!』
思っていたより面白くなかったのか、ミアは動画を閉じてスマホを仕舞った。
「行くにゃ、ロリコーンを倒すにゃ」
「待って! すぐ戻るから、朝風呂に行かせて」
「朝風呂に入ってる場合かよ!? 魔族の一大事じゃないのかよ!?」
♨ ♨ ♨
朝風呂に浸かりほこほこツヤツヤになったルチアは、満足そうな笑みをグッと噛みしめ、ようやく箒に跨った。ミアも朝風呂に付き合って、ふたりの間に掴まる俺もぬくぬくだ。
「温泉で全回復したから、一気に飛ぶわよ」
「あたしも体力バッチリにゃ!」
嘘くせぇ、欲望を満たしただけじゃないのか。
一方、魔女船長は迷った末に俺たちを見送ることにした。それでもまだMHKを案じており、迷いが垣間見えている。
「子分を回収しないといけないからね。頼んだよ、ルチアにミア、それとレイジィ」
「わかった、船長の分も戦うわ」
「あたしたちに任せるにゃ!」
「ベレルって子に頼んで、
まぁでも、これで悔いなくMHK本部に行ける。バハムート・レイラーを倒す前に、ブレイドたちを追い払えば目標達成……。
「あれ? いつの間に魔族の肩を持つようになったんだ?」
「レイジィもお試し契約するといいにゃ!」
「定期契約もお勧めよ?」
ふたりに契約を勧められて、これから向かうのがMHK本部。俺は魔族になってしまうのか、と一抹の不安を抱きつつ空を舞う。
闘技場を見下ろして、島が次第に小さくなって、寒々しい海の向こうに淋しげな海岸が、その先には荒涼とした大地が、そして忽然と鬱蒼とした暗い森が広がっている。
MHK本部が、ぽつんと見える。
「……遠いな」
「ドラオさん、速かったにゃ」
「くっ!……間に合うかしら……」
のんびり朝風呂しているからだ、とツッコミたくなる気持ちを抑えていると、西の空からこちらへと朝日を浴びて飛んでくる一筋の光が差してきた。
青龍だ! 首根っこには白虎がしがみつき、ツンとしている。
『玄武より知らせがあり、迎えに来た。MHK本部まで連れて行ってやろう、我が背に乗るがよい』
『べっ別に、助けに来たんじゃないんだからね!?』
助けに来てくれとるやん、ありがたい。
「白虎さんは、何で来たにゃ?」
『わっ……私は、青龍と離れなくないとか、一緒にいたいとか、そんなんじゃないんだからね!?』
なるほど、そうですか、理解しました。すっかり仲良しじゃないか、安心した。
箒ごと青龍の背に乗っかると、鎌首を北に向けて飛んでいく。目を開けていられないほどの勢いで、海も荒野も暗い森もまばたきする間に越えていく。
その荒野はボコボコで、地中の魔物たちが本部へ向かっているのだとわかる。
暗い森からはゴブリンやオークが棍棒を振り回しながら本部へと走る。
過ぎ去った海を振り向けば、クラーケンが空飛ぶ帆船に腕を伸ばす。その後ろからアレ✕スリグッズを満載にした帆船が、渡り鳥のように押し寄せる。
そこへ向かうのは、闘技場から海へと戻った魔女船長の漁船。飛沫を上げて東の港へ一目散、行く手を阻む帆船に黒魔術を撃ち込んでいる。
「船長……ひとりで大丈夫かしら……」
『むぅ、ならば朱雀を遣わそう。白虎、頼む』
『はぁ!? 何で私なのよ!』
唐突に名前を呼ばれて、白虎は牙を剥きつつ頬を赤らめている。そこはツンデレするところではないだろうに。
「青龍は全速力で飛んでいるんだ。頼む、白虎」
『まったく、青龍ったら使えないわねぇ。代わりに私が呼んであげるわ』
面倒くせぇ、重度のツンデレ面倒くせぇが、味方になってくれるのは、ありがたい。礼を告げようとした、そのとき。羽ばたく火炎が西の空から東の海へと舞い降りて、帆船の下を旋回し蒸気で包んだ。モヤの中を魔女船長が操る船が通り抜け、東の港へ南下していく。
「青龍、白虎、ありがとう。でも、どうして俺たちに、ここまで……?」
『恩義がある、それだけよ』
白虎がそう呟いてそっぽを向くと、青龍はフッと笑ってMHK本部へと降りていった。
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