第96話・どうしてこうなった

 MHK本部の入口には、黒いローブが雑然と打ち捨てられていた。受付担当の死神だ。

 青龍から降りた俺たちは、バラバラになった彼のもとへ駆け寄った。

「あたしが組み立ててあげるにゃ!」

「ああ、ミア、そうじゃないわよ」

「ああ、もう、めちゃくちゃだ」

 そうして出来上がったのは……


 ┌(^o^ ┐)┐


 ……これだ。それで喋ってみれば

「何よこれ!? 鎌を構えられないじゃないのよ!?」

 オネエになっていた。あらやだもう、とくねくねして声が裏返っている。鎌は構えられないが、立派なオカマだ。ひょっとしたら、本当に女子になったのかも知れない。


『お主ら、我らはここまでだ』

『せいぜい、頑張んなさいよ!』

 と、白虎を乗せた青龍は逃げるように、というか逃げた。両手両足を蜘蛛のように広げて、這いつくばってナヨナヨとする骸骨に、引いてしまったようである。


「ぐずぐずしてるんじゃないわよ! 行くわよ!?」

 まるっきりキャラが変わってしまった死神が、俺たちのイニシアチブを執っている。怪我の功名ではあるが、城を攻められているのだから、よかったのかも知れない。

 終わったら、ちゃんと直してあげよう。


 玄関を抜けると、魔物が死屍累々と倒れていた。ヒュドラは首を切り落とされて、キマイラはそれぞれの部位ごとに分割されて、ゴーレムは土に還ってしまった。

「ひどい……」

 ルチアが慈しんでいるそばで、死神はこれも命運なのだと悔しそうにかぶりを振った。


「ヒューちゃんもマイラちゃんもゴレちゃんも、魂はMHKのものになったのよ? バハムート・レイラー様の力になるわ」

 なるほど、魂を売るとはそういうことか。ということは、魔族を倒せば倒すだけブレイドたちは苦戦するのだ。

 しかし死神のオネエ言葉には妙な説得力があり、ルチアも涙を呑んでうなずいた。これは、戻さなくてもいいのかも知れないな。


「さぁ、二階に上がるわよ」

 暗い廊下を奥まで進み、ぽつりぽつりとろうそくが灯る階段を踏みしめた。するとミアは、ぐにゃりとした感触に足を止め、視線を落とす。


 〜 しばらくお待ちください 〜





















 そうだった、この階段でブレイドが戦ったのは、無数のゾンビだ。それを倒したわけだから、階段はゾンビの部品があたり一面に飛び散っている。

 そしてミアは魔族になったのに、目を回してぶっ倒れた。やっぱり、お試し契約には限度がある。


「やっだぁもう、しっかりしなさい」

「それじゃあ使い魔になれないわよ?」

 ルチアはドサクサに紛れて、ミアを使い魔にしようと目論んでいる。そんなに猫が欲しいのか。


 死神は気絶しているミアを背中に乗せて、階段をひたひたと上がっていった。案外役に立つぞ

 ┌(^o^ ┐)┐

の身体。もう、ずっとこのままでいてもらおうか。


 二階へ上がると、そこもまたブレイドに倒されたアーマーナイトが死屍累々、鎧も兜も腕や脚の防具もみんなバラバラになってしまっている。

「うわ……何てひどい」

「直してあげるにゃ!」

「うわぁ、何てひどい」


 ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐


 アーマーナイトが蜘蛛のように這っている。復活したのはめでたいが、これでは剣を構えられない。ブレイドたちと、どう戦うんだ。

「ミア、そうじゃないでしょ? よく思い出して」

「俺たちみたいに直立二足歩行するんだよ。俺には足がないけど」

 うまくいかないにゃあ、と眉間にしわを寄せつつミアが再び組み立てる。


 ≡≡≡└(┐卍^o^)卍 ドゥルルルルル。


 変わり果てた姿になったアーマーナイトは、手足を回して俺たちの足元を舐めるように走り出した。ルチアは「ヒィッ」と悲鳴を上げて、ミアは「何か違うにゃ」と口を尖らせている。

 じゃあ、やるなよ。


 しかし死神は、同族意識を発揮したのかアーマーナイトを必死にかばう。

「きっと役に立つわよ! 私たちの仲間だもの!」

「そ、そうだ。ブレイドたちを牽制出来る、きっと役に立つ。なぁ? ルチア」

「そ、そうね。ちょっと近寄りがたいわね。だから私に近づかないで」

 俺とルチアが合わせたものだから、ミアはフフンと鼻を鳴らした。これは間違いなくミアの才能だ、どうしてこうなったのかが、俺たちにわからない。


「みんな、ブレイドさんを止めるにゃ!」

 自信を持ったミアが先陣を切り、死神とアーマーナイトがあとに続く。

 ≡≡≡└(┐卍^o^)卍 ドゥルルルルル。

 ≡≡≡└(┐卍^o^)卍 ドゥルルルルル。

 ≡≡≡└(┐卍^o^)卍 ドゥルルルルル。

 ≡≡≡└(┐卍^o^)卍 ドゥルルルルル。

 ≡≡≡└(┐卍^o^)卍 ドゥルルルルル。


 少し間を空けてから引きつり顔のルチアが続き、俺もその隣に並んで浮かぶ。

 三階、四階と上がりながらアーマーナイトを見つけては、ミアが同じように組み立てる。ルチアは間を詰めないから、次第にミアが遠のいていく。


「ルチアが組み立てたほうが、よかったんじゃないか?」

「今さら前になんか出られないわよ。このアーマーナイトたちを追い越すのよ!?」

 俺たちの前方を埋め尽くす


 ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐ ┌(^o^ ┐)┐


 コレモンになったブレイドに、どれだけの効果があるだろうか……。

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