第28話・いた!
ミルルの幽霊を追いかけて、ルチアが先陣を切りダンジョンを行く。そのすぐあとをミアがピッタリとくっついて、幼女の身体である俺は屈曲で空っぽなアーマーナイト……あーまさんに抱えられた。
相手が子供といえど幽霊だからか、いくら走っても追いつけない。
「ミルル! 身体を届けに来たんだぞ!?」
「生き返って、お父さんお母さんと会うにゃあ!」
「どうして逃げるの!? 早く家に帰りましょう!?」
ガシンガシンガシンガシンガシンガシンガシン!
ルチアが不思議なことに気がついた。曲がり角や分かれ道で、ミルルが待ってくれているのだ。速く走れば速く逃げ、迷いがあれば導いてくれる。それでずっと一定の距離を保っている。
「ミルルは逃げていないわ、道案内しているのよ」
「ミルルちゃんは、どこに連れて行こうとしてるのかにゃ?」
「あーまさん、何か知っているんだろう?」
カシャ! カシャ! カシャ! カシャ!
喋る代わりに、アイシールドを開け閉めした。
「……ルチア、何て言っているんだ?」
「……ごめん、レイジィ。言いたくないの」
ルチアの顔が険しくなった。怒っている、ミアが死にまくったときよりも、遥かに怒っている。こうなりゃミルルとルチアについていくしかない。
廊下を走り、階段を上がり、いくつかの大広間を抜けた先、一番上の一番奥に行き着くと、袋小路。[MHK]の紋章が掲げられた扉をミルルはスゥッとすり抜けた、らしい。
早く中に入ろうとミアがドアノブに手をかけた。が、唇を固く結んだルチアが制して
「ダメよ……ミア」
ついこの間までは領主の部屋、魔族が乗っ取った今はボスの部屋だ。このダンジョンに入って死んでばかりのミアには、荷が重すぎる。
同じ魔族のルチアだが、凝り固まって躊躇って扉を開く気配はない。
そんなに危ない奴がいるのか、俺たちの間に緊張が走る。
いいや、俺はカンストのチートなんだ、この世界の誰よりも強い。戦闘経験は皆無だが、最強スキルでラスボスだって倒せる、はずだ。
ただしルチアやあーまさんへの義理があるから、防御に徹する。
よし、作戦は決定だ。あーまさんの腕から下りてドアノブに手をかける。
「防御は最大の攻撃だ、俺が食い止めているから、ルチアは時間稼ぎをしてくれ。その隙に、ミルルが帰ってくればいい。ミア、ミルルの説得を頼む」
「わかったにゃ! でも、あたしにはミルルちゃんが見えないから……あーまさん、協力してにゃ!」
これでフォーメーションは完璧だ、ミルルの魂を取り返してみせる。
と、思いきやルチアとあーまさんが困った様子で視線を交わした。
「どうしたんだ? ルチア」
「うーん……何ていうか、ちょーっと違うんだなぁーって」
「違うって……何が?」
カシャ! カシャ! カシャ! カシャ!
あーまさんがアイシールドをパクパクさせて、何かを訴えかけている。が、それをルチアは訳そうとせず、作り笑いをしてみせた。
「あ、あのさ、私は行かなくても、いいかな?」
「それは困る。防御している間、ミルルの魂が身体に帰ってきたら、誰が攻撃を食い止めるんだ」
「あたしが守るにゃ!」
「「やめとけ、やめとけ」」
カシャ! カシャ! カシャ! カシャ!
あーまさんも、やめておけと言っている、多分。
この騒ぎを聞きつけてか、俺たちの誰もが押していないのに、扉がズズズ……と開かれていった。
俺は構えた手の平で防御魔法を錬成すると、ミアは攻撃の構えをした。
あーまさんは背筋を伸ばして腰を折り、ルチアは隠れる場所はないかと右往左往し、結局あーまさんの背後にピッタリついて、そーっとボス部屋の様子を覗っていた。
禍々しい霧が立ち込めている、部屋の奥。
玉座に腰を下ろしていたのは、ドラゴンの仮面に
『我が名は、バハムート・レイラー。MHK、魔族放蕩協会総裁だ』
本当にいた。しかもMHK総裁なら、マジでラスボスじゃないか。そして、そういう正式名称だったのか。
日本語やないか。
「俺は、ユーキ・レイジィ。ミルルに身体を返しに来た。ミルルの魂を返せ!」
威勢よく啖呵を切ったが、バハムート・レイラーが注視するのは、あーまさんの肩から覗く白い指。
久々に無視された、この寂寞に懐かしさを感じてしまう。
『ルチア……ようやく見つけたぞ』
「へへっ……バレちゃった」
ルチアはバハムート・レイラーにペロリと苦笑を晒していた。しかし、緊張感が肌で伝わる。さすが総裁、実質ラスボス、最強クラスの魔女さえも畏怖させてしまう迫力だ。
しかし、どうも様子がおかしい。ルチアが睨みを効かせて前に出ると、バハムート・レイラーはそれを避けるように仰け反った。
「私が近くに住んでいるから、ここに支部を作ったんでしょう? それで総裁自ら支部にお出まし?」
バハムート・レイラーは押し黙る。何故か動揺が透けて見える。
「大挙して押し寄せて城を乗っ取るなんて、みんなにどれだけ迷惑をかけるのよ!?」
いかなるスキルも、もういらない。今、この場で一番強いのはルチアの言葉だ。それが証拠に、バハムート・レイラーはみるみる背中を丸めていった。
そしてルチアは、とどめの啖呵を切った。
「私を追い回すのは、やめてよね!? お父さん!」
「……お父さん……?」
ポカンとしている俺とミアに、あーまさんはアイシールドをカシャカシャ鳴らした。
「ルチア様は、バハムート・レイラー総裁の娘なのです」
そう言っていた、気がした。
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