第6話・エンペラーは出てこない
「ごめんなさいにゃあああああ! って、あれ? レイジィ?」
大泣きしていたミアの魂が、俺に気づいて涙を拭った。やっと気づいてくれたんだ、そう思うと嬉しくて仕方がない。
「ミア、また会えたな。何だかホッとするよ」
「嬉しくなんかないにゃ! また即死しちゃったんだにゃあああああ!」
また泣いている、めっちゃ泣いてる……。なだめようと歩み寄って、ミアの頭を優しく撫でた。
うおお、幽霊でももふもふだ。超気持ちいい。
「くっ! リバース」
ホーリーが復活魔法を唱えるとミアの魂は光り輝き、治癒した身体へと吸い込まれた。
「ああ、レイジィさぁん……
……最強の冒険者がいたんだにゃあ! あたしをなでなでしてくれたんだにゃあ!」
生き返るなり、戦闘態勢の仲間たちにお前は何を言っている。そんなことをしていたら、またやられちまうぞ。
「ミア! 構えろ! また来るぞ!」
そう言ったのは俺だが、仲間のほうを向くミアには届かなかった。ルチアは詠唱することなく、どす黒い火球をミアに放った。
「ミア─────!!」
それを剣で跳ね返したのはブレイドだ。さすが勇者、さすがリーダー、もうミアを傷つけないという意志を感じる。
それが俺のほうに飛んできた。ギリギリセーフで
「ぬわっ!? 危ねえ……。何やってんだ! ちゃんとよく見ろ!」
って、見えないんだった。あれを喰らったら幽霊の俺はどうなるんだろう……。
「
鋼を帯びたレスリーの拳が俺を通過し、涼しく佇むルチアへと襲いかかる。が、ルチアがひらりと手の平を振るだけでレスリーは俺をすり抜け、遠くへ吹き飛ばされてしまった。
「やべぇ、こいつ強え……」
身体を得れば倒せるのか、チートの俺でも不安を覚える。
「やられてばっかりの、あたしじゃないにゃ! バーニングサン!!」
「ミア! やめとけ!」
俺の制止を躱したミアが、爪をむき出して飛びかかる。どうして真っ直ぐ来てくれないんだ、俺を通り抜けるのは男ばっかりなんだ。
ピンと立てたルチアの指がくるりと回り、ミアは弾き飛ばされレスリーの上に重なった。強い、強すぎる、これはヤバい、早く逃げろ。
「黒魔術には負けないわ、覚悟なさい。いでよ、ダンシングドール!!」
ホーリーは虚空からメイスを取り出し、無数の人形を召喚した。それらがルチアに狙いを定め、高速で舞い踊って竜巻を起こす。
渦巻く砂塵に飲み込まれても、ルチアは黒衣を煽らせるだけで、まったく動じる様子はない。
身体を包む砂嵐から腕を伸ばし、指先ひとつで人形たちを部品に変えて、足元へと叩きつけた。
「判断を誤ったわね? 大人しく回復に徹すればよかったのに」
ルチアが冷たく呟くと、ホーリーから血の気が引いた。寒さに震えているようにガチガチと歯を鳴らしている。
そしてルチアは、ホーリーの真似をするように虚空から木の根の杖を取り出した。詠唱などせずホーリーに向けて杖を振ると、砕け散った人形がニヤリと
「きゃあああああああああああああああ!!」
人形はホーリーから魔力を吸い出し、ついには
俺は恐怖しながら、ルチアの意見に同意した。ミアとレスリーを回復させて、次のターンに備えるべきだった。この戦い──。
「大事な仲間たちに、何ということを……。許さないぞ、魔女ルチア!!」
「やめろブレイド、逃げろ!!」
俺の声は、最後まで届かなかった。ブレイドは剣を振りかざし、髪を撫でるルチアを襲う。
これではダメだ。魔法を相手に全員が、魔法を使うホーリーまでもが接近戦で挑んでいる。
この戦い、負ける。
「一撃必殺、シューティングスター!!」
斬りかかったブレイドは、ルチアを目前にして鏡に囲まれ足を止めた。躊躇ったほんの一瞬、鏡の虚像が本物のブレイドに
ガキィン! ガキィン! ガキィン!
「くっ……
四方八方からの攻撃を剣で躱すのが精一杯だ。ひとつの反撃も出来ぬまま、ブレイドはじわじわと体力を奪われていく。
そして虚像は鏡を飛び出し、パーティー全員と対峙した。
「みんな! 逃げろ! ダッシュで逃げるんだ!」
襲われなかった幽霊の俺は、女神様から賜ったチートスキルを一切使えず、虚しく叫びを上げるだけ。
「ぐぁはあああああああああああああああ!!」
ブレイドの虚像に、レスリーが斬られた。
「きゃあああああああああああああああ!!」
ブレイドの虚像に、ホーリーが斬られた。
「ぎにゃあああああああああああああああ!!」
ブレイドの虚像に、ミアが斬られた。
ルチアが悔しそうに顔を歪め、指をパチンと鳴らすと虚像が消えた。ブレイドとレスリー、ホーリーは満身創痍、ミアは死んで棺桶に納められた。
「チャンスをあげるわ。今すぐここから立ち去りなさい」
傷だらけのブレイドはルチアを睨むと、自身を恨んで唇を噛み、泣く泣く退却を選択した。レスリーとホーリーが肩を落として棺桶を引きずり、そのあとをミアの幽霊がトボトボとついていく。
幽霊のままじゃ、ダメなんだ。攻撃も防御も回復も「逃げろ」のたったひと言さえも届かない。俺はチートでありながら、何ひとつ出来ないんだ。
無力感に苛まれ、俺もそのあとについていこうとした、そのときだ。
「ところで、何であなた死んでいるの?」
ルチアは、俺を真っ直ぐ指さしていた。
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