『私が生徒会長になった理由3』
気を取り直して。
発想の転換と言うか、考え方を少し変えてみましょう。
私が生徒会長になった理由は一旦隅にやりつつ。今度は私達三人。つまり、私と井斉先輩と司くんが、立候補してないのに当選した理由を考えてみましょう。
「私と井斉先輩と司くんの共通点って、何かしら?」
「見た目ですね」
市子が即答したが、それは先程話したことなのでスルー。
「他には?」
「
確かに井斉先輩と市子には無いものだ。他には勤勉性とかね。
「ちーちゃん先輩と音羽ちゃんは、性格が悪いです」
『は?』
ハモった。
「おい、若王子、そいつは聞き捨てならねーな」
「そうよ、井斉先輩はむしろいい性格をしてるじゃない」
「おい」
井斉先輩から鋭い視線を浴びたが、上手いこと言えた気がするので満足だ。
「てかさ、結局のところ、あたし達は学園内で知名度のある生徒って括りでいいんじゃねーの?」
その認識は––––間違いではないと思う。
立候補してないのに票が集まる理由になるかと言われたら、完全な答えにはなってないけど。
うーん、ちょっと考え方を変えてみましょう。
例えば––––票が集まったのではなく、票が割れた結果、相対的に私達の票が多くなったとかはどうだろう?
糺ノ森先輩が立候補しなかったことが、票を分散させたのは間違いない。
私の外見の良さというのは、票を集めた理由にはなるだろうが、それは理由の一つであり、決定的な理由ではないと思える。
複数の理由があり、尚且つ、決定的な理由があったと考えるべきだ。
「他の候補者はどうだったのかしら?」
「確かリストがあるはずですよ」
司くんが手早くパソコンを開き、候補者リストをクラウドに共有してくれた。
そして、何故か市子が私の背後から(胸を押し付けつつ)パソコンを覗いてきた。
「……誰も知りませんね!」
「こら、失礼なことを言わない」
でも、市子を叱った手間言い難いのだが、私も知らない人ばかりだ。
三年の先輩方や、二年生の名前は知っているけど話したことのない生徒とか。
「ま、それが答えなんじゃねーの?」
と井斉先輩。
「その中に、知名度がある奴がいなかった。それでみたらが立候補しなかったのもあって、票が割れに割れ、知っている名前を記載したような奴もいんじゃねーの?」
その結果、知名度のある井斉先輩、司くん、そして私が立候補してないのに当選してしまった、とか?
「で、
「えっへん!」
市子はまーた胸を張って威張った。
「おバカ代表としても有名ね」
「今日の音羽ちゃん、なんか酷すぎませんか!?」
私は事実を淡々と述べてるだけなんだけど。
「案外、若王子を会長にしない為に、若王子を抑えられる
つまり、私は市子が立候補したせいで票が入った可能性があるの?
……いや、それは本当に迷惑なのだけれど。
ふむ、ここら辺で一度疑問点をまとめてみましょう。
1.立候補してないのに票が入る。
まずはこれだ。立候補していないということは選択肢に無いということなのだけれど、私を含め、井斉先輩、司くんの名前が書かれた投票用紙が多数投票された。
絶対的な候補(糺ノ森先輩)の不在で票が割れたのは分かるが、その票が立候補していない生徒に投票されたのは何故?
だってそれは、アルゼンチンの大統領にメッシの名前が投票されるようなものでしょ?
全体の数パーセントとかなら分からなくもないが、当選してしまうくらい投票されたとなると、理由が分からない。
それに、一人ではなく三人も当選したのは絶対に何か理由があったはずだ。
……あっ、もしかして……投票が多かったのではなく……。
……ああ、なるほど。
そういうことね。
2.私に多数の票が入った理由。
そして、これだ。
私は、井斉先輩や、司くんよりも票が入り、その結果として生徒会長となった。
以前、井斉先輩は私のことを「自分を上回る学園のアイドルになってる」と指摘したが、それは生徒会長となり、このセーラー服を着ているからだと思っていた。
しかし、圧倒的な票を得ているということは、それ以前から私には人気を得る要素があった?
それは、"なに"?
井斉先輩や、司くんを上回る程の票数を得た理由は?
井斉先輩は可愛いから。
司くんはカッコいいから。
私は?
顔?
学力?
特待生という立場?
分からない、どれもあり得るけど、決定的ではないように思える。
「まあ、結果論にはなるけどさ、雲母坂が会長になって良かったって生徒は多いと思うぜ。教員からも絶賛されてるらしいじゃん」
「あ、音羽ちゃんってば、『将来は萌舞恵で働かないか?』って、えみちゃんからスカウトされてましたよ!」
「それは、冗談で言ったと思うわよ」
まあ、アゲハさんみたいに寮長先生になれたらいいな––––とはちょっとだけ思う。
給料いいらしいし。
給料いいらしいし(二回言うほど重要)。
「アレですかね、会長さんは生徒会長として相応しい器を持っていて、みんなそれを察して投票したとか?」
司くんの推理は、なんて言うか、私のことを高く見積り過ぎていると思う。
「それは私のことを持ち上げ過ぎよ」
「わっしょい!」
両手を高く上げ、
全く。
「なにそれ、私が祭り上げられたとでも言いたいのかしら?」
その持ち上げられる理由が分からないのよねぇ。
んー、この学園で、私だけが持っている特別な要素があるとか?
市子が一番胸が大きい生徒であるように。
司くんが一番背が高い生徒であるように。
井斉先輩が一番可愛い生徒であるように。
私だけにある特別なものは?
考える。
私にだけある特別なものを。
…………。
…………。
……ああ。
あるじゃない。
なるほど、なるほど。
じゃあ、私が生徒会長になった理由は。
これかしら?
「分かったわ、なんで私が生徒会長になったのか」
私がそう言うと、いつもの如く市子が勢いよく詰め寄って来た。
「また、音羽ちゃんばかりすぐに分かってズルいです! しかもあの顔もしてますし!」
してないっての。ヴァーカ。
「ヒントは?」
市子は今日も元気に、「いります!」と胸を(物理的に)弾ませた。
まったく、調子だけはいいんだから。
「じゃあ最初のヒント、
市子は首を捻り、
「それは、糺ノ森先輩が立候補しなければ、音羽ちゃんの票数は伸びなかったということですか?」
「そうね、それどころか、井斉先輩や、司くんもここにはいなかったかもしれないわ」
「じゃあ、あたしが生徒会に入っちまったのは、みたらのせいってことか?」
「間接的には、そうなります」
井斉先輩は、「あのみたらしたんこぶめ」と謎の罵倒の言葉を吐いた。
そして市子は頭を抱えて唸っていた。
「うぅー、分かりません」
「じゃあ、次のヒントね。投票数を見れば、なんで立候補してない私達が当選したか分かるわ」
「それは、他の候補者と比べて自分達の票数が多い理由ってことですか?」
そう言って司くんは、パソコンの画面をスクロールした。
「そうね、票数というか、投票方法の違いが当選理由に関わっているわ」
「んー、さっぱり分かりません!」
「じゃあ、最後のヒント」
私が生徒会長になった理由。
私が人気になった理由。
それは––––
「きょうびの人は、こないなけったいな話し方せーへんやろ?」
「京言葉がヒントってどういう……あっ」
「ほな、答え合わせの時間と行きまひょか」
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