『私が生徒会長になった理由2』
私達のクラスの委員長、
名前の全ての文字が『あいうえお』で構成された首席番号一番、新学期は教室の右上の席が定位置の彼女は、それはそれは絵に描いたような委員長である。
真面目で几帳面、誰にでも分け隔てなく接する人格者であり、成績も申し分なく、文句の付け所が無い優等生だ。
「委員長って言うと、会長さんと同じクラスの相生先輩ですか? 確か、中等部の頃は相生先輩が生徒会長でしたよね」
「そして、音羽ちゃんが副会長でした!」
司くんと市子の言う通り、中等部の頃は委員長が生徒会長で私が副会長だった。
なので、会長経験のある委員長の方が私よりも適任だと思う。
「しかも委員長の子は、テスト結果毎回一位だもんな」
井斉先輩は、思い出したようにそう言った。
委員長は成績優秀と言ったが、それはトップという意味でだ。
委員長は、中等部の頃から全科目成績一位を守り続けている。
「そして、こちらが万年二位の音羽ちゃんです」
「黙りなさい、万年最下位」
「酷い!」
要するに、私は委員長に成績面では手も足も出ない。
「テストの後に張り出される順位表の一番上に相生、その下に雲母坂。見慣れた光景だよな」
「自分は二位でも十分凄いと思いますよ」
「あら、司くんだって、部活で忙しいのにトップ5には必ず入ってるじゃない」
「あはは、いやぁ、学生の本分は勉強って言いますし、疎かには出来ませんよ」
何という、優等生発言。市子も司くんを見習うべきだと思う。
「で、雲母坂と委員長の子は仲悪いのか?」
「音羽ちゃんと委員長は桃鉄九十九年やるくらい仲良しさんです」
「マブじゃねーか」
その通り、別にテストの点で競っているからと言って、関係が険悪だとか、表面上の付き合いだけでそんなに親しく無いとかもなく、普通に仲良しなお友達だ。
週末に市子が補講でいない時なんかは、二人で遊びに行ったりするしね。
「だけどよぉ、学力で雲母坂が委員長の子に叶わないのは分かるけどさ、それが評価の絶対的な基準になるわけじゃねーだろ?」
「それはまあ、そうですけど……」
学歴社会って言葉はあるけれど、必ずしもそれだけで人間の優劣が決まるわけじゃないしね。
「ま、あくまで学力なんて一つの評価基準に過ぎねーし、そもそも一位と二位なんてお前からしたらそれなりの差を感じてるかもだが、周りからしたらどっちも凄いだからな」
「では、学力の差は関係ないと?」
「そもそも、どちらも立候補してなくて、雲母坂だけが圧倒的な票数を得てる時点で勝負にすらなってねーだろ」
そうなのよねぇ。私と委員長、どちらが生徒会長に相応しいか以前に、私達はそれを争う立場にすらなかった。
井斉先輩は小腹が空いたのか、冷蔵庫の扉を開きながら、
「ま、選出方法の違いはあるかもな」
と言い、冷蔵庫の扉をバタンと閉めた(目ぼしいものが無かったのだろう)。
「確か、中等部はクラス代表を選出して、そのクラス代表の中から、生徒会長を決める––––みたいなやり方でしたよね」
司くんの言う通り、中等部は一年から三年まで各クラスから代表を選出し、そのクラス代表が集まる代表委員会から、生徒会長を選出する。
司くんは指で長方形を描きながら、
「それで、高等部は白紙の用紙に候補の名前を書いて投票すると」
と言い、用紙を投函する仕草をしてみせた。
市子が小首を傾げ、
「何故、選出方法が違うんでしょうか?」
と私に聞いてきた。
「んー、クラス代表って結局はクラスの人達から選ばれた代表ってことでしょ? 仮に私たちのクラスの代表が生徒会長になったとして、他のクラスの生徒はそれを心から納得出来るかしら?」
「それは……出来ないかもしれません」
中等部の生徒会長は、あくまで代表委員会の話し合いや、その中での投票で決まるのであって、一般生徒はその決定に関わることが無い。
「だから、全校生徒が納得がいく方法として、投票って形にしてるんじゃない?」
逆に、高等部の生徒全員に投票権が与えられる方法なら、全ての生徒がその決定に関わることになる。
「なら、中等部が高等部とは違う選出方法を採用しているのは何でてしょう?」
市子にしては、まともな質問だった。
ふむ、ここははぐらかさずにちゃんと答えてあげましょう。
「二段階の選出方法を用いて、より優秀な人物が生徒会長になれるようにしてるんじゃない? まずはクラス代表に選出される、今度はクラス代表の中から、優秀な人物を生徒会長に選出する。こうすることで、お調子者で人気があるためクラス代表に選出されてしまった市子のようなおバカを生徒会長にしないで済むでしょ?」
「音羽ちゃんは私のこと嫌いなんですか!?」
「そう説明した方が分かりやすいでしょ?」
逆にそのシステムがない高等部では、一歩間違えば市子が生徒会長になっていた可能性があると。
そういう意味では、私の投票数が多かったのは救いだったかもしれない。
私にとっては、苦労の日々の始まりだけど。
「私の投票数が伸びた理由って何なのかしら……」
市子が私の顔を指差した。
「それは見た目ですよ! 流石秋田小町!」
「色白で顔の形がお米みたいってこと?」
「間違えました、秋田美人です」
「すげぇ、言い間違えたのに意味を通しやがった」
井斉先輩が謎の関心をしていた。
「でもさ、雲母坂って東北の出身なのに訛ってねーよな」
「おばあちゃんも母親も、元々は東京に住んでいたので。それに父親も京都出身なので、身の回りに東北の訛りを話す人がいなかったんです」
「じゃあ、京都弁は話せんのか?」
「そないなこと急に言われはっても、長年京に居たんとちゃいますし、困ってまうわ」
「プロやん!」
「音はん、素敵どすえ!」
井斉先輩と市子が大きな歓声を上げた。
「いやいや、大袈裟過ぎでしょ」
「いや、今のは自分もいいと思いましたよ。艶っぽさというか、上品さというか、そういう雅な雰囲気を感じました」
え、司くんまで、そんなに褒めるの?
「そんなに良かった?」
「とっても素敵でしたどすえ!」
「あのね、語尾にどすえを付ければいいわけじゃないからね」
「でも、そういう、方言みたいな特別な話し方っていいですよね!」
市子の意見に井斉先輩も「だな」と同意した。
「雲母坂が京言葉を話してたら、一年の時からセーラー服だったろーな」
それは流石に飛躍し過ぎだと思う。
そんな言葉遣い一つで、生徒会長になれるわけないでしょ。
というか、お嬢様学校なのだから、「わたくしが、生徒会長の雲母坂音羽ですわ!」って感じの方がいいんじゃないの?
絶対にやりたくないけど。
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