『私が生徒会長になった理由1』
「音羽ちゃんって、どうして生徒会長になっちゃったんですか?」
「こっちが聞きたいわよ!」
放課後、生徒会室にて。
ついに市子のなぁぜなぁぜは私をターゲットに捉えた。
……まあ、私も同じ疑問を抱かなかったと言えば嘘になるけど。
新学期が始まって以来、放課後になったら生徒会室で仕事の毎日。
こうなってしまった原因は、私が生徒会長になったからだ。
「まあ、アレだな、
井斉先輩は私の顔を見てニヤリと笑った。
「井斉先輩だって、可愛いって持て
「アイドルと政治家は違うだろ」
あ、なんか分かりやすい例えだ。
「人気があるって言っても、雲母坂はあたしと違って真面目だし、頭もいいし、言うことねーだろ? 学園のことを任せんなら、どー考えても、可愛いだけのちーちゃんより、雲母坂だ」
「でもそれが、立候補してないのに投票率一位になる理由とは思えないんですけど……」
「会長さんは圧倒的でしたよね」
そう、司くんの言う通り、私は二位以下に圧倒的な票差を付け当選した。
まあ、二位の人は今目の前でお菓子をボリボリと頬張っているけど。
「立候補していたのなら分かるけど、してないのにあの結果は不思議よね」
「そう、不思議なんです!」
市子がずいっと私に駆け寄って来た。
私はすかさず市子の額にデコピンを炸裂させる。
「ていっ」
「あたっ……ちょっと音羽ちゃん! 何するんですか!」
「近い」
全く、油断するとすぐコレなんだから。市子は私に対する距離感がバグっていると思う。
「お前らほんと仲いいよなぁ」
「ふっ、もはや夫婦ですよ!」
「親子の間違いでしょ」
「酷い!」
実際、それくらい精神年齢に差はあると思う。
「で、でも、音羽ちゃんが生徒会長になった理由が分かれば、来年私がセーラー服を着るためのヒントを得られるかもしれません!」
「あなたが生徒会長になったら、学園が破滅するわ」
「先程から、言葉が刺々しくありませんか!?」
いや、事実でしょ。
市子が生徒会長なんかになったら……三日で解任されると思う。
「そもそも、市子は生徒会長になりたかったの?」
「もちろんです! 私も伝統ある萌舞恵のセーラー服を着たかったんですから!」
市子は私の周辺をウロウロとしながら、「いーなー、セーラー服、いーなー」と、おもちゃを欲しがる子供みたいな視線を向けて来た。
全く。
「セーラー服が着たいから会長になりたいだなんて動機が不純過ぎるわ。若王子市子、落選」
「酷いです!」
酷いも何も無いでしょうに。
「でも、若王子先輩はちゃんと当選しましたよね」
そう、司くんの言う通り、市子はちゃんと当選した。迷惑なことに。
つまり。
市子は生徒会選挙に立候補し、そこそこの票を集めた。迷惑なことに。
「私が生徒会長になったのも謎だけれど、市子が生徒会に入れたのも謎よね」
「なんか、今日の音羽ちゃん……私に対してキツくないですか?」
「そりゃあ、日頃の行いのせいだろ」
井斉先輩が私の内心を代弁してくれた。
「まあ、若王子はな、おっぱいブーストがあるからな。学園内で一番デカいって有名だぞ」
「それは胸を張れますね!」
ノーコメント。絶対にノーコメント。
「でも、なんて言うか、そういう外見の良さだけで決まるものなの?」
「実際決まっちまってるしなぁ」
と井斉先輩は生徒会メンバーを見渡した。
ふむ、井斉先輩に言うことも一理ある。
今年の生徒会メンバーは、ビジュアルチームと実しやかに噂されているのを耳にした事があるからだ。
「投票数が面のいい順だったりして」
「それだったら、
私は井斉先輩の意見を真っ向から否定した。
というか、糺ノ森先輩が生徒会長なら、私はこんなに苦労しないで済んだのでは?
そうね。私が生徒会に入るのは、百歩譲って仕方ないとしよう。
でも、例えば––––
会長、糺ノ森先輩。
副会長、私。
書記、委員長。
会計、司くん。
この編成なら、生徒会業務をスムーズにこなして、学園内の問題にも適切に対処出来たのでは?
糺ノ森先輩は、学園内で一番の有名人だし、美人で、成績優秀、人格者で、生まれもいい。
生徒会長として、最も相応しい人物と言える。
というか、次期生徒会長候補の本命と言われていたのに、立候補しなかった。
「まあ、みたらの奴はな、普通でいたいんだよ」
「何ですか、それ?」
「ほら、みたらは、産まれも育ちも特別だから、一般生徒でいたかったんじゃないか?」
と、井斉先輩は私の制服を指差した。
「それを着たら、否が応でも特別になっちまう」
セーラー服。
学園内で唯一のセーラー服。
生徒会長のみが着用する制服。
特別な存在だというのが、見た目で視認出来る服だ。
「糺ノ森先輩にそう聞いたんですか?」
井斉先輩は首を横に振り、
「いーんや、あくまであたしの考察だ。ただ、美化委員と生徒会の兼ね合いは不可能で、自分は美化委員の方がいいから––––立候補しないってのは聞いたな」
糺ノ森ガーデン(私命名)の手入れを糺ノ森先輩が楽しんでやっているのを私も知っている。
美化委員って名前をしているけど、実は園芸部的な側面も持ち合わせいるのよねぇ。
糺ノ森ガーデンは、学園一のオシャレエリアとの呼び声が高い場所だ。
様々な草花が色鮮やかに咲き誇るメルヘンチックな場所で、まるで童話の世界に入ったような気持ちになれる。
高台にある屋根付きのベンチに腰掛け、お茶をすれば気分はお嬢様。
女の子の好きがこれでもかと詰まった素敵な場所だ。
「つまり糺ノ森先輩は、糺ノ森ガーデンのお手入れを今年も続けたかったから、立候補しなかったってことですか?」
「多分な」
ふむ、糺ノ森先輩がどんな理由であれ、立候補しなかったのは、おそらく何らかの影響があった可能性が高そうだ。
「でも、糺ノ森先輩が立候補しないって聞いた時は、私も驚きました」
「そうね」
市子の意見に私も同意した。
「しかも、当選が確実視されてたものね」
「まあ萌舞恵の生徒会長はなぁ、選挙って形を取ってるけど、実際のところ出来レースみたいなもんだからなぁ」
それは、私も把握している。今年はこの人だよね––––という人が周りに押される形で立候補し、当選する。
そしてその絶対的な候補が、糺ノ森先輩だった。
「その糺ノ森先輩が立候補しなかったので、会長さんに票が集まったんですかね?」
「私も立候補してないのよねぇ」
となると、立候補してない私に多数の票が集まる"何か"があった?
それは、何?
「つーかさ、来年は雲母坂でほぼ確だったんだから、一年前倒しになっただけじゃねーの?」
「そんなことは無いと思いますけど……」
「他にいんのか?」
私の頭には、一人の女生徒の顔がくっきりと浮かんだ。
「委員長とか?」
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