『体重が急に四キロも増えた理由1』
「音羽ちゃん、私の体重が四キロも増えてしまったのですが、おかしいとおもいませんか!?」
「思わない」
放課後、生徒会にて。
市子がついに、体重が増えた理由を何かの不可思議な現象として捉え、私に聞いてきたのだが?
いや、知らないし。
本日は私と市子しかおらず、井斉先輩は料理部に出かけており(お菓子に釣られたらしい)、司くんは部活。
本来ならこういう日は、市子を軽くあしらってから、仕事に取り掛かるのだけれど、今日のは、流石に……はぁ……ため息。
「あのね、太るのは自然なことなの。運動もせずに、甘い物ばかりバクバクと食べていたら、太るのは当然のことなの。それは、何もおかしくないことなの」
「おかしいんです! だって––––」
私は市子の言葉を遮り、胸元を指差した。
「どーせ、太ったって言っても、また胸が大きくなったとかいうオチなんでしょ」
悔しいけども、市子ならあり得る。悔しいけども。
「そんな急にバストが四キロも増えるわけないですよ」
いや、ある。市子なら、ある。食べた物全部胸に行ってるんでしょ? 羨ましい。
「そもそも、急にって言うけれど、前に計ったのはいつなのよ?」
私が気怠げに尋ねると、市子はとんでもないことを口走った。
「今朝です」
「はい?」
「今日の朝と書いて、今朝です」
「いやいや、おかしいでしょ……今朝測って、それで四キロ増えていたって言うの?」
「まさにその通りです」
それはおかしい。市子の言う通りなら、明らかにおかしい。確かに、市子は頭おかしいし、胸の大きさもおかしいけど、急に四キロも増えるのはあり得ない。
「体重計の故障とか」
「ですが、四キロ増えていたのは学校の体重計です」
「あぁ、そういえば市子は、健康診断の時に風邪で来てなかったわね」
「その代替日が今日でしたので、保健室で先程測ってきたのですが––––今朝測った時と比べまして、四キロも増えてました」
「んー、市子は毎日体重計ってるの?」
「お風呂上がりに」
「朝お風呂入ったの?」
「はい」
となると市子の体重計が常時狂っているか、学校の体重計が壊れているかの二択になる––––のだけれど、流石に学校の体重計が壊れているのは考えにくい。
他に考えられるとすれば、市子がお風呂上がりに体重を測ってから、先程測るまでに四キロ以上食べたとか? いやいや、流石にあり得ない。それほど食べたら、お腹は間違いなく出るだろう。見たところ市子のお腹は出てない。
胸は出てるけど。萎めばいいのに。
まあ、消去法的に、
「市子の使っている体重計が壊れてると思うわ」
こうなるわよねぇ。
しかし、市子が驚愕の事実を突き付けてきた。
「四つ全部ですか?」
「え?」
四つ? 四つって何? 何が四つあるの? ま、まさか……体重計!?
「ちょっと待って、何でそんなに体重計があるのよ!?」
「えっと、ほら、最近の体重計は色々機能が付いていますので、その……タイプ別に」
呆れて物も言えない。市子が体重を気にしていることは知っていたけれど、まさかそこまでとは思わなかった。
普通四つも買う? 毎朝四つに乗ってるの? 流石に気にし過ぎじゃない?
これは、市子の為に言うわけではないのだけれど、市子は全く太ってなどいない。ただ、胸が大きいだけである。だがその大きな胸が理由で着れない服が多いらしく(市子はブレザーの前を常に開けている。キツくて閉められないから)、それを気にして自身が太っていると思っているらしい。
なんか、ムカつく。
「萎めばいいのに」
「音羽ちゃん!? 急にどうしたんですか!?」
「何でもないわ」
萎めばいいのに。
「じゃあ、今朝四つ全部に乗って、全部同じだったと」
「そうですね、体脂肪や筋肉量は1〜2グラム違う––––みたいな誤差はありましたが、体重は四つとも同じ数値でした」
ふむ。体重計が四つあり、その全てが同じ重さなら、間違いなく正確だと思う。
一つならまだしも、四つも同時に壊れているなんてありえないし。
うーん、やっぱり学校の方が壊れているのだろうか?
「ねえ、今日一緒に健康診断を受けた人、他にいなかった?」
「いました」
「体重計に乗った反応はどうだったかしら?」
「んー、そうですね……ちゃんと見たわけではありませんが、別に普通でしたよ」
体重を普段から気にしない人なら、仮に体重計が故障していて、体重が四キロ増えていたとしても、気にしない可能性はある。
……いや、ありえる? 一キロ二キロならまだしも、四キロって相当だと思う。
「保険の先生には言ったの?」
「もちろん言いました」
「どうだったの?」
「先生は、二リットルのペットボトルを体重計に乗せて、私と一緒にメモリを確認しました」
「二キロ?」
「はい、二キロでした」
ふむ、学校の体重計は、正確だったと。
んー、とりあえず、学校の体重計と市子の体重計が正確だったと仮定して考えてみましょう。
つまり、市子の体重が急に四キロも増える理由の方を考えた方がいいかもしれない。
直ぐに思い付くのは、
「制服のポケットに、何か入れてたとか?」
スマホとか、お財布とか。他にも色々あるけど、そういうのって結構重いし。
ブレザー自体もそれなりに重いと思うので、全部合わせて四キロ、あり得る。
しかし、この考えはすぐに却下となった。
「体重を計った時は体操着に着替えてました。それと私は体操着を脱ごうとしました」
「うん、止められたのね」
「『それでは服の重さが入ってしまいます!』と力説したのですけど、聞いてもらえませんでした」
「うん、当たり前だからそれ」
最近の体重計は服の重さを予め手動でマイナスに出来る機能があると聞いた事がある。
学校の体重計はアナログなものなので、そういうのは出来なそうだけど。
そういえば、朝と夜では体重が少し違うと聞いた事がある。けれど、それを踏まえたとしても四キロはどう考えてもおかしいか。
……そうよ、メモリが違ったのでは?
「本当に四キロだったの? 四グラムとかじゃなくて?」
「体重の桁が変わったので、間違いありません」
それは一の位なのだろうか、それとも十の位なのだろうか?
個人的には、十の位の気がする。市子は、体重が胸に行き過ぎている。
「萎めばいいのに」
「音羽ちゃん! 先程からどうしたんですか!?」
「何でもないわ」
市子に比べて、私の胸はどうしてこう……お淑やかなのかしら。
このままだと、四年に一度『ワールドカップ』と聞くたびに煽らている気分になりそう––––いや、大事なのは胸の大きさなんかではないわ。大事なのは器の大きさよ!
……まあ、私はお椀じゃなくて、平皿だけど。
反対に市子はどんぶりだけど。
「萎めばいいのに」
「音羽ちゃん? 体調が悪いのでしたら、保健室まで付き添いますよ?」
「大丈夫、悪いのは体調じゃなくて、成長だから」
「ちょっと、保健の先生を呼んで来ますね」
市子はそう言うと、小走りで扉へと向かって行く。止めないと。
「大丈夫! 大丈夫だから!」
「だって、音羽ちゃんがつまらないジョークを言うなんて、絶対におかしいです!」
「つまらないって何よ! 市子は普段から言ってるくせに!」
萎めばいいのに! 萎めばいいのに!
「音羽ちゃん、わたくしが先程購入したアイスを差し上げますから、落ち着いてくださいな」
市子は冷凍庫を開き、アイスを取り出した。
スーパーカップと書かれたアイスを、取り出した。
「あああああああああぁぁっ!」
「音羽ちゃんが壊れちゃいました!」
どうして私はこんなにも小さいの? なぜ私は、こんなにも絶壁なの?
しかも『ice cream』と、『I scream』をかけた微妙なギャグまで披露してしまった(市子は英語が苦手なため気付かれなかったのは幸いかもしれない)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます