『閉鎖された第一女子寮の謎3』

 場所は、第一女子寮。先ほど、アゲハさんに頼んで鍵を借りてきた。ある条件を付けられたけど。


 まあ、それはさておき。


 第一女子寮の鍵を開けて、玄関に入る。そして、私は鴨居かもいを指差した。


「ほら、あれ、私はくぐれないわ」


 高さは、目測だけど、百六十センチ程度に思える。

 天井はもう少し高いが、移動するたびにあの低い鴨居を潜るのは、骨というか、(物理的に)首が折れる。

 というか、折らないと通れない。


「とても低いですね!」


「昔の人の身長なら、この高さで十分だったのだと思うわ」


 第一女子寮が閉鎖になった理由。それは、現代人の平均身長が伸びたから。

 建物自体が昔の人、しかも十代の女子の平均身長を想定して作られていたため、平均身長の伸びた現代人には、この第一女子寮は窮屈過ぎる。


 その証拠に、私は無理だし、司くんはもっと無理だ。市子だって、鴨居を潜る時にジャンプをしたら少し危ない。大丈夫なのは、一人だけ。

 その大丈夫な人は、鴨居を潜りながら上を見上げた。


「アゲハさんが管理人なのも、それが理由か。百六十センチ以上あると、頭をぶつけちゃうもんな」


 司くんは、鴨居の前に立って、頭をコツンとぶつけてみせた。


「自分はまず、住めないですね」


「司は、デカいもんな」


「この家ですと、巨人になった気分を味わえますよ」


「そう、だから住めなくなった生徒は他の寮に移動させられたの。つまり、身長が伸びた生徒は、他の寮に移ったの」


 第二女子寮の建設理由もおそらくそれだ。第二女子寮は天井かなり高いし。


「だからね、萌舞恵っ子っていうのは、特別視されてるけど、その理由は多分––––小さくて可愛い、みたいなニュアンスもあったのだと思うわ」


 中学から大学の卒業まで、第一女子寮だったのならば、身長も––––まあ、伸びなかったのだろう。

 これは、あくまで私の推測になるが、第一女子寮を「小さな子の寮」だとか、「チビの寮」と、呼ばせない為に、「萌舞恵っ子」という、羨ましがられるような勲章を与えたのだろう。

 その結果、第一女子寮は格式が高い寮と特別視され、今も多くの入寮希望者を出していると。

 あくまで、私の推測だけどね。


「じゃあ、ちーちゃん先輩は萌舞恵っ子まっしぐらですね!」


「どうだ、羨ましいか?」


「私もギリギリ行けますよ!」


 市子は鴨居を何なく潜り、室内へ入った。

 私はそれを見て、ニヤリと笑う。


「じゃあ、井斉先輩と市子に任せますね」


 井斉先輩と、市子はキョトンとした表情を浮かべていた。


「鍵を借りる条件として、アゲハさんにここの清掃を頼まれたわ」


「なんでそんなの受けるんだよ!」


「私と司くんの身長だと、ここの清掃は難しいわねー」


「音羽ちゃん、それ絶対ワザとですよね!」


 私は再び、ニヤリと笑ってから、早口にまくし立てる。


「箒とチリトリで軽く掃くだけでいいって言ってたわよ。そこのロッカーに全部入ってるから。じゃあ、司くん。私達は、戻って仕事を片付けちゃいましょうか」


「あ、了解です」


 背後から聞こえる市子と井斉先輩の抗議の声を聞きながら、私達は第一女子寮を後にする。


 邪魔者を片付けたので、今日はちょっとだけ早く、仕事が片付きそうだ。

 頑張れ、萌舞恵っ子。

 たまには働け、埃を叩けっ。

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