『プリン消失事件3』

 市子はそれを聞いて、ハッとした様子で急いでスプーンを取り、三つのコーヒーゼリーを一口ずつ食べた。

 その後、二つのカップを指差す。


「この二つがプリンです!」


「三つとも口を付けるなんて、お行儀が悪いわよ」


 市子の行動を注意したものの、私は別にそんなに気にはしていない。いつもの事だし。

 まあ、私だから良かったものの、他の人の前でそういうことをしないように今度から––––って、私は市子のお母さんじゃないわ!

 市子は私のそんな気も知らずに、興奮気味な様子で私に詰め寄ってきた。


「音羽ちゃん! どういうことですか!?」


「さっきので分かったんじゃなかったの?」


「このうちの二つがプリンだという事は分かりましたが、色が同じに変化した理由までは分かりません!」


「プリンを感知するセンサーの感度は高いようだけれど、回答に対する意識は低いようね」


「早く教えてください!」


 さっきは『自分で当てたい』と言っていたことを、もう忘れてしまっている。

 まあ、いっか。別に意地悪してもしょうがないし、素直に教えてあげることにした。


「それはね、プリンが溶けてカラメルと混ざったものの色合いが、コーヒーゼリーとミルクが混ざったものに、そっくりだったってことよ」


 カラメル色と、プリンの黄色が混ざった茶色。

 コーヒーゼリーと、ミルクの白が混ざった茶色。

 溶けて混ざった色が、それぞれ同じ色であった。

 三つとも同じ色に変色してしまったため、気が付かなかった。

 判断が付かなくなってしまった。

 それを


「ですが、どうして溶けてしまったのでしょうか?」


「それはほら、最初に電源の入ってない冷凍庫に入ってたでしょ。しかも、今日は割と暑いし。一時間以上も常温保存したら、既製品ならあり得ないかもだけど、手作りとなると流石に少し溶けちゃうわよ」


「なるほど、そういうことだったんですね!」


 今回の事件を簡単にまとめると、料理部の子が間違って冷蔵庫ではなく、電源の入っていない冷凍庫に入れてしまい、プリンとコーヒーゼリーが少し溶けてしまった。

 そして、溶けたプリンとコーヒーゼリーが両方とも茶色に変色したので、プリンが無くなり、コーヒーゼリーが三つあると勘違いしてしまった––––というわけだ。


 なんと言うか、『冷凍みかんが、ただのみかんになっちゃったよ事件』を少しややこしくしたのような事件だった気もする。

 まあ、これにて一件落着……と思いきや––––


「音羽ちゃん! このプリン本当に美味しいですよ!」


「じゃあ、一口貰えるかしら?」


 市子にあーんとしてもらい、私はプリンを頬張る。

 ……この味わい、この深いコク、甘みを抑えた上品な風味。前に一度、理事長の差し入れで食べたことがある。

 これは間違いなく––––


烏骨鶏うこっけいのプリンじゃない!」


「美味しいです〜!」


 事件は、なんとも意外な幕引きで終わったのであった。

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