「美味しいメロンソーダの秘密2」

「あのっ、二人とも、ちゃんとメロンソーダのこと考えてますか?」


 市子が真面目に考えない私達に注意をしてきたが、それを言うなら、そんなこと考えてないで仕事しろと言いたい。

 全く。メロンソーダの件なんてさっさと片付けて仕事に戻りましょう。


「二人ともメニューにメロンソーダが追加された時のことを覚えてる?」


「覚えてますよ! 夏休み明けに来たら、急にメニューにあってびっくりしましたもの!」


「代わりに、かき氷はメニューから消えてて、ショックだったよなー」


「それはまあ、夏が終わったらかき氷は無くなると思います」


「ちなみにあたしは、いちご練乳が好きだった」


「あ、私もです!」


「それは同意ね」


 去年、夏季限定で販売されたかき氷は大人気で、特にいちご練乳は毎日食べている生徒もいると聞いたことがある(というか市子が毎日食べていた)。


 秋になり、かき氷の販売が終了した後、丁度かき氷と入れ替わりで、メロンソーダが入って来た。

 しかし、メロンソーダを飲みたくなるのは、暑い夏がメインな気もする。

 夏に合わせてかき氷を出すのだから、メロンソーダも秋ではなく、夏に出すべきだったのではないだろうか?


「ねぇ、メロンソーダって秋でも飲みたくなるものなの?」


「そうだな……コーラとか、そういう炭酸系のジュースと、変わらない感覚な気もするな」


 と、井斉先輩。


「そういえば炭酸といえば、学食のメロンソーダはあまりパチパチしませんよね」


 市子の意見に井斉先輩も「だなー」と同意した。


「炭酸が薄いというのは、評価ポイントになるのかしら?」


「どうだろ……でも、市販のメロンソーダとは明らかに違う味がすると思うかな」


 ふむ、少し考えれば分かりそうな所まで来ている気がする。

 いくつかの疑問点があるので、一旦整理してみよう。


 1.ドリンクメニューがメロンソーダだけなのはおかしい。

 先程も軽く触れたが、ジュースはメロンソーダ以外にもある。りんごジュースとか、ぶどうジュースとか。

 なぜ、メロンソーダだけがドリンクメニューに載っているのだろうか?

 他にも、自販機のラインナップにメロンソーダがあるのに、学食でメロンソーダだけ販売するのは、絶対におかしい。

 何か理由があるはずだ。

 、とか?


 2.メニューに乗った時期が季節外れ。

 冷たい飲み物が売れるのは、どう考えても夏だ。

 上にアイスを乗せてクリームソーダにしたらもっと売れそうだし。

 なのに、売り始めた時期は秋から。

 秋から売る理由があった?

 それとも、秋にならないと販売出来ない何かがあったとか?


「んー、他に何か気付いたことってある?」


 市子は少しだけ考えてから、


「何となくですが、日によって濃さが違う気もします」


 なるほど、日によって濃さが違うね……。

 市子って、食いしん坊なだけはあり、結構味覚に敏感なのよね。

 なので、この情報はある程度信頼出来ると考えていい。

 日によって味が違う理由。

 それは、毎日味噌汁の濃さが違うように、毎回手作りされているからでは?

 つまり学食のメロンソーダは、お手製のメロンソーダだと考えて間違いない。

 メロンソーダの作り方。最も簡単で、誰でも作れる方法。秋になって、急に学食のメニューにメロンソーダが追加されたのは––––


「あっ、音羽ちゃん! その顔、さては答えが分かったんですね!」


「そうね、分かったわ」


「ズルいです!」


 プリプリと怒る市子。


「なんか、そうやって知った顔されるとむかつくな」


 井斉先輩も若干不満顔だ。

 市子はいつものように自分で答えにたどり着きたいらしく、井斉も私だけ答えが分かったのが気にくわない様子だ。


「はいはい、じゃあまたヒントだしてあげるから……」


 それを聞くと市子は、今日も元気に「やりました!」と胸を弾ませた(物理的に)。私はそれを見ないフリして話を進める。


「まずは、と思わないかしら?」


「……なりますよ?」


「なるだろ」


 井斉先輩は、緑色の舌を私に見せてきた。


「じゃあ、市販されているメロンソーダを飲んだら、舌が緑色になるかしら?」


「なりません!」


「は、はらはい!」


 井斉先輩は、舌を出したまま喋ったので何を言っているか分からなかったが、とりあえず可愛い––––と思っていたら、井斉先輩は私を見てニヤっと笑う。


「今、可愛いと思ったろー?」


「自分で自分のことを、可愛いと言う人のことを、日本では可愛くないって言うんですよ」


「ちぇ、雲母坂は鉄仮面だなぁ」


 内心少しだけ可愛いと思ったのを上手く誤魔化せたようだ。これ以上その話をされるのも嫌なので、私は次のヒントを提示する。


「じゃあ、次のヒントね。いちご練乳以外のかき氷の味を覚えているかしら?」


 二人は途端に黙ってしまった。覚えてないのだろう。


「まあ、覚えてなくても問題ないわ。ポイントは、いちご練乳が一番人気だったということよ」


「かき氷は関係ないと思うんですけど……」


 それが大有りなのだ。


「じゃあ最後のヒント」


 というか、答えなのだけれど。


「メロンソーダの作り方って知っているかしら?」


「そんなの知りませんよ!」


「じゃあ、カルピスソーダの作り方なら知っているわよね」


「カルピスソーダ……カルピスを炭酸で…………あっ、もしかしてっ……」


 井斉先輩も市子同様に、答えが分かったようで「なるほどなぁ……」と頷いていた。


「じゃあ、答え合わせの時間ね」

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