『落とし物の多い噴水1』
「最近、噴水の中に落し物が多いという話をよく聞きます、どういうことでしょうか?」
放課後、生徒会室にて。
今日も
しかも、ちゃんと問題だ。
噴水への落とし物が一つや二つならまだしも、複数あるというのは完全に問題だ。
市子はおバカだし、問題児だし、ぱっぱかぴーなのだけれど––––定期的に生徒会として対処しなくてはならない問題も持ち込んでくるので、完全な役立たずとは言い切れないのよねぇ。
まあ、総合的に見たら完全なマイナスなのは否めないが。
私は作業中の手を止め、市子に問いかける。
「その噴水って、中庭の方? それとも正門の方?」
噴水は、二つある。
正門の方の噴水は、毎日決まった時間に水が上がるのだが、水が三メートルくらい高く上がるので、周りにいると
逆に中庭の噴水は、真ん中に女神様がいて、ちょっとオシャレな感じの噴水だ。
「中庭の方です」
「じゃあ、落し物って言うと……お弁当のオカズとか?」
中庭の噴水はお昼休みの人気スポットだ。あの噴水の周りに座り、昼食を取る生徒はとても多い。
私も天気のいい日は、市子とよくあそこで食べたものである。
なので、落ちているとしたら、食べ物だと思ったのだけれど、
「それが落ちているのは、全てお金だそうです」
どうやら違うらしい。
「お金ねぇ……まあ、落としたら拾えないものね」
噴水はそれなりの深さがあるので、落としたら拾うのは––––まあ、困難だと思われる。
濡れるのを覚悟すれば、拾えなくはないが。
でも、お金ばかり落ちているのはどう考えもおかしい。
これは本当に問題である。
「うーん、あり大抵かもしれないけれど、ポケットに小銭を入れていて、落ちちゃったとか」
「確かに落ちているのはお札ではなく小銭だそうですが、一度に落としたとしても、かなり広範囲に落ちているそうですよ」
「噴水全体ってこと?」
「そうです」
「となると、落としたのは複数人の可能性もあると」
「そうなりますね」
「もうなんか、一種の怪異現象みたいね」
「妖怪金食い虫ー!」
「はいはい、ふざけてないで真面目に考えてね」
私がそう言うと、市子は珍しく「むむむっ」と真剣な表情で考え始めた。
正直期待はしていない。黙ってくれればそれでいい。
だが、市子は何か思い付いたようで、にんまりとした笑顔をしてみせた。
「何よ、その顔……」
「ふっふっふー、この名探偵市子にかかれば、こんな事件はお茶の子さいさいです!」
「うん、期待はしてないから早く言ってちょうだい」
「ずばり、カラスさんです!」
なるほど、と思った。市子にしては、目の付け所はいい。
「前にカラスさんが賽銭箱のお金を盗んで、ハトさんのご飯を自販機で買っているというニュースを見たことがあります!」
「私も公園の水道をひねって、水を飲んでいるというカラスの話を聞いたことがあるわ」
「つまり、あのお金はカラスさんが取ってきたお金で、あの噴水を貯金箱にしてるんです!」
正直、悪くない推理だと思う。
でも、これは間違いなくハズレである。確かにその可能性はあり得る。あり得るが、うちの学校の噴水ではあり得ない。
「じゃあ、噴水の底に沈んだお金をどうやって拾うのかしら?」
「えっと、その、潜って……とか」
「水深は、カラスの二倍以上あるのに?」
「むぅ……」
「まあ、市子にしては悪くない考えだったわ」
お金を落としたのではなく、外的要因によってお金が落ちていると考えるのは、目の付け所がいい。
でも、結局お金を持っているのは人なのだから、お金を落としたのは人と考えるのが妥当な気はする。
「お金が落ちている理由ではなく、お金を落としてしまう理由を考えた方がよさそうね」
しかし、市子はポカンとした表情を浮かべる。
「音羽ちゃん、何が違うんですか?」
「おバカな市子にも分かるように言うなら––––」
市子は「私はおバカではありません!」と抗議したが、無視して続ける。
「自販機の下にお金が落ちているとしたら、それは何故だと思う?」
「それは、誤って落としてしまったからです!」
「そうよね、自販機で飲み物を買おうとして、お金を出すから、落としてしまうの。じゃあ、噴水周りでお金を使う要件って何かしら?」
そう、そこが分からない。
あの辺りには自販機も無いし、購買や学食からも離れている。
お金を取り出す要件が無いのだ。
だが、市子は「お金を落とした、お金を……あっ」と何かを思い付いた様子だ。
「分かりました!
銭洗弁天。鎌倉にあるお金を洗ったら、何倍にもなって帰って来ると言われる、神社だ。
「そういえば、中等部の頃に一緒に修学旅行で言ったわね」
だけど、市子がそんな事を覚えているのはちょっと意外だった。
「あそこでお金を誤って落としてしまったのを思い出しました」
「だから、覚えていたのね……」
「それに洗う所の下を見ますと、私のようにお金を落としてしまった人が他にもいるではありませんか! つまり、みんな落としちゃうんですよ!」
確かに市子の言う通り、銭洗弁天のお金を洗う場所の下には水が溜まっており、そこにはそこそこの小銭が落ちていた。
「じゃあ、みんな中庭の噴水でお金を洗って、誤ってお金を落としちゃった、って言いたいの?」
市子は元気よく「そうです!」と答えた。自信満々に。
だけど、これもあり得ない。
「あのね、学校の噴水で銭洗弁天と同じご利益があるわけないでしょ」
「あっ……」
「お金を洗って、それでお金が増えるなら、水道水で洗えばいいじゃない。あれは、銭洗弁天って言う特殊な場所だから効果があるのよ」
「なるほど、硬貨だけにってことですね」
「余計なことは言わなくていい」
「"高価"な"硬貨"を洗うと、とてもいい"効果"があります! さあ、銭洗弁天に行"こうか"!」
「市子、黙りなさい」
こんなにもつまらないギャグを聞いたのは、生まれて初めてかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます