『下着紛失事件3』
場所は、委員長が下着を無くして、そして見つけたという体育館にあるお手洗い。
個室の一つに張り紙が貼ってあり、『故障中』と書かれている。
「これは––––ウォシュレットが故障しますね」
「正確には、赤外線センサー周りの故障よ。ウォシュレットは基本的に、座っていないと作動しないの」
これが先程報告のあった、「早急性の無い軽度の水害」だ。
試しに便座を開いてみると、ボタンを押していないのにウォシュレットの作動音が鳴り、勢い良く水が飛び出してきた。私は、素早く蓋を閉めて回避した。
「ほらね」
「音羽ちゃん、今のは間一髪でしたね!」
その通り。ちょっとだけ危なかったのは内緒だ。
「分かってればこうやって回避出来るけど、分からなかったら直撃でしょうね」
「ということは……」
「多分委員長は、これに当たって下着を濡らしてしまったのよ。それで濡れてしまった下着を脱いだってわけね」
これは私の予想になるが、それは体育の後だったと思われる。この威力ではどう考えても下着以外も濡れてしまう。
推測だが、その時の委員長の格好は体操着だった。
体操着は制服に着替えればなんとかなるが、濡れた下着はなんともならない。
だから、委員長はショートパンツも、ショーツも着用出来なかったのだ。
結果、下着を着用せずに過ごすことになってしまった。
「これで解決ね」
「ちょっと待ってください」
「今度は何よ?」
「それなら最初から嘘をつかずに、下着が濡れてしまったから穿いてないと、素直に言えばよかったと思います」
そう、委員長のついた下着が無くなったという嘘こそが、今回の事件を引き起こすきっかけとなった。
「それはね、下着が濡れたなんて言ったら勘違いされちゃうでしょ。だから、あなたに聞かれた時に、『下着が無くなった』って嘘を付いたのよ」
「なるほど! 確かに、『下着が濡れたから穿いてない』と言われたら、お漏らししたと、勘違いしちゃいますからね!」
要するに委員長は、市子に勘違いをされたくないから嘘をついた。
ウォッシュレットの誤作動で、下着が濡れてしまった。
事実を話したとしても。
そんなの、漏らした人がしそうな言い訳に思われてしまう。
そう委員長は考えたのだろう。
だから、隠した。
下着ごと。
その事実を。
委員長にとってそんな勘違いをされるのは、ノーパンで過ごすことより、恥ずかしいことだったのだろう。
さて、今回の事件を軽くまとめましょう。
まず、委員長はウォッシュレットの故障により、下着が濡れてしまい、仕方なく下着を脱いだ。
その後、下着を身に付けていないことを市子に気付かれ、変な誤解をされない為に、嘘を付いた。
下着は最初から委員長の手元にあり、無くなっていなかった。
最初から持っているのだから、見つける必要もない。
急に消えて、急に現れたのではなく。
自らの意思で隠した。
市子が私に相談しようと提案した時に断ったのも、自ら吐いた嘘を事件にしたくなかったからだろう。
友達とはいえ、生徒会長である私まで話が行ってしまえば(実際来てしまったが)、話が大きくなるのは避けられない。
まあ最も。
それら全部が、市子がノーパンであることに気が付かなければ起こらなかったことだが。
ノーパンに気が付いたから、委員長は市子に嘘を言い、その嘘の不可思議な箇所––––下着が急に消えて現れた点––––を疑問に思った市子が私に報告したことで、この事件とも呼べない何かが起こってしまった。
「まあ、何にしても、事件性が無くて良かったわ」
「これにて一件落着ですね!」
「そうね」
「じゃあ、そろそろ私たちも帰りましょうか」
「帰れないわよ」
「へ?」
「だから、帰れないわよ」
「何故ですか、問題は解決しましたよ」
「そうね、まず、ウォッシュレットの故障状況を詳細に書いたレポートを作成して、それを生徒会顧問の先生に確認してもらってから修理依頼を出して、今日の分の生徒会業務を終わらせて、明日行われる朝会用の原稿を仕上げないと」
「そ、そんなぁ……」
「あなたが下着が無いと騒ぎたて、私の時間を奪うからこうなるのよ」
「これでは、自業自得ではなく仕事地獄ではありませんか!」
「それは別の意味で笑えない」
いや本当に。
こうして、今日も事件とも呼べない何かを解決した生徒会であった。
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