第8話

学校の終了を告げるチャイムがなる。いつも俺がシャールを迎えに参上するのだが、それを知ってのことなのか。


俺に向かって急いで走ってくる女の子がいた。それはさっき話しかけてくれたクランちゃんである。短い髪を揺らしながら、俺の机の前に陣取った。


「ワトソンくん、さっきはごめんなさい。ちょっとびっくりして……。今日良かったら一緒に帰りませんか?」


ホームルームが終わってからすぐのことだったので、まだまだクラスメイトがいた。クランちゃんはクラスの不可侵領域であり、暗黙の了解があったのだ。


だから俺は殺意の目を向けられているということである。


「急、だね?」

「いやいや、ワトソンくんの方が急です」


そう言って、頬を膨らまらすクランちゃん。普段はクールな分、デレているところを入れるなんて眼福でしかない。しかし、それにひたっている暇はない。


「あれはなんというか……仕方ないことなんだ。俺もびっくりしててさ」

「そ、そうなんですか。なんか周りが騒がしいですね。そんなあたしが男の子と話しているのが珍しいでしょうか?」

「ま、まぁ……」


撃墜王と呼ばれるくらいには……。男絡みが少なすぎて俺たちのことを平等に扱う神なのでは、と一時期、噂になっていたくらいだ。


「一応、性欲はあるんですけど」

「ん、んん?今なんて?」


彼女は手をパタパタと横に振った。俺が一瞬聞こえた言葉とは真逆の爽やかな笑顔である。


「なんでもないですよー。その珍しいあたしが帰ろうと言ってるんです。駅までで良いんです」


男たちからの目線がいっそう強くなった。絶対に帰るなよ、と言わんばかりに。


「帰りたいのは山々なんだけど、俺には助手の仕事があってね?シャールと帰らないとだし」

「そ、そうですか……」


クランちゃんは少しだけ悲しそうな顔をした。でも、切り替えるようにクシャりと笑った。


「仕方ないですね。シャールちゃんを優先してあげてください」


その声とともに男たちから、あいつクランちゃんの誘いを断ったぞ。あんな顔をさせて、殺そう、という声が聞こえてきた。


「ちょっと俺、シャールに聞いてくる。一緒に帰っていいか」

「いや、いいんです。急に言ったあたしが悪いんですから」


や、やめてくれ。それ以上言うと、一緒に帰るどころか、二度と学校に登校出来なくなる。


というかいつも俺と一緒に帰るのを嫌がっているシャールなら快く送り出してくれるだろう。


俺は急いで、シャールの元に向かった。俺が彼女の元に着いた時にはライオンがそこにはいた。

いや、ライオンではなくホワイトタイガー?


背後にその動物が除くだけで顔を可愛く笑っている。目以外は。


「あの、シャール?クランちゃんと一緒に帰っていいかな?」

「だめです」

「え、でも」

「だめなんです」


何故だ。シャールはいつも「仕方ないなぁ、しゃーなしだよ?」と言ってるのに。あと、どんどんクラスのでの立場が危うくなってる気がするんだけど……。


気のせいだよな。


◆◆

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