第3話 変わる日常

 今日も長くて、痛くて、つらい一日が始まる・・・・。今日は何されるんだろう・・・・学校、行きたくない・・・・。


 ゆっくりとした足取りで校門を通り校舎の中に入っていく。


 自分の教室に入り席に座ったと同時にチャイムが鳴り教室に先生が入ってきた。


 帰りたい・・・・。

 今日やる授業や、放課後のことを考えると自然にそう思った。


 廊下を歩いてるだけで活気を感じる魔法科の先生とは違い、学科の先生は気怠さを感じるゆっくりとした足取りで教壇に立ち、締まりのない声で授業を始める。


 すべてが、長く感じる。一時間が二時間に感じる。

 麗華といた時はもうちょい授業の時間も楽だったと思う。


 長い長い一日の時間が進み、進むと同時に胸の動悸は激しくなる。その都度思う帰りたいと。


 そんなことを考える頭に授業の内容なんて入ってるはずもなく時間が過ぎ――。

 

 ――――――下校を告げるチャイムが鳴った。


 みんな帰れるのに何で私だけ・・・・・まだ帰れない・・・・。


 教室に誰もいなくなったころ教室を出て、下駄箱で靴を履き替え、校舎を出るとすぐに女子二人が近づいてきた。

 あや由奈ゆなだ。


「来るのおせーよ、みんなが帰ったら出てこいって言ったけど、さすがにおせーわ」


 由奈がそう言いながら私の腕を力強くつかみ体育館の方に歩く。


「痛い・・・」

「腕つかんだだけで痛いのかもっと力入れてやろうか?」

「痛い・・痛い・・・や・・めて・・・・」

「じゃあ、遅刻したこと謝れ」


 力強くつかんでいた腕を放し、土下座しろと言わんばかりに由奈と綾は私を睨んだ。

 そして言われたとうり、逆らうこともなく土下座をして謝る。


「ごめんなさい・・・・」

「くっくく・・・・あははははぁ・・・・こいつマジかよ。土下座しろなんて言ってないのに、土下座したぞ!」

「由奈笑わないで、こっちまで面白くてうふふふ・・・・」

 土下座を見て嘲笑う二人。


 土下座しなければ、しないで、無理やり顔を地面に押し付けられるのだ。


 早く家に帰りたい・・・・もうダメかも・・・。

 

「早く顔上げろよ!そんなことしてる暇はないんだよ、今日は先輩を待たせてるんだから早くしろよ!」

「ごめん・・・な・・・さい」

 由奈に髪を引っ張られながら立ち上がり、また強く腕をつかまれた。


 痛い・・・・痛い・・・・帰りたい・・・・でも帰っても、明日は来る・・・・こんな日常いつまで続くんだろう・・・・このまま時間が止まればいいのに・・。


 私の視界が霞んでいくのがわかる。それと同時に周りの色が消えていく。

 目に映るすべての色は灰色になるが、人が纏うオーラの色だけ見える。

 まるで、現実を受け入れたくない私に、現実を突きつけるみたいに人が纏うオーラを私に見せる。

 

「先輩連れてきましたよ」


 綾の声に気づくと、体育倉庫の中だった。

 目の前には綾と由奈が先輩と呼ぶ、がたいが良くて、赤いオーラを纏った男がそこにいた。


「おせーよ。まぁ~いいか、じゃっ、始めますか」

「嫌だ嫌だ嫌だ・・・・」

 その男の下品な笑みを見た時、自分がこれから何をされるのかを一瞬で理解する。


 覚えていた。この男が麗華に何をしようとしたのかを。

 

「今日は、怖くないよ?楽しくて気持ちがいい遊びをするんだよ」

 そう言いながら男は下品な笑みを浮かべ、一歩ずつ近づいてくる。


 それを拒絶するように由奈につかまれた腕を振り払おうと私は暴れた。

 

「おい!暴れるな!」


 その時、由奈の手が強く掴んでいた腕を放し、私は由奈を突き飛ばし逃げる。


「ハアハア」

 学校の校門まで走しり、本能的に自分の家の方に走り始めた。まだ下校中で歩く同じ制服を着た人たちを追い越す。


 いつも通る見慣れた道を何も考えず全力で走る。

 走る私に太陽は容赦なく、強い光で私を照らした。

 着てる制服が汗で、張り付く。


 足がだんだん重くなってきた。けど、足を止めれば捕まってしまうかもしれない。

 

 綾たちは、逃げれば必ず追いかけてくるのを知っている。

 綾たちは、力があるから私に必ず追いつけるのだ。

 

 逃げても、逃げても捕まるから、逃げるのをやめた。けど、今日は逃げないと、あの男に何をされるのか・・・・・。

 

 周りを気にせず真っ直ぐ走った。その時、角から出てきた人にぶつかってしまった。


「いってー、なんだよ急に・・・・」

「ハアハアハアハァ」


 早く逃げないと追いつかれちゃう・・・・つかまりたくない。

 痛みはあったがぶつかった人がクッションになったおかげで怪我は一つもない。

 それよりも動悸が激しいせいで胸が痛く、息苦しくなる。


「おい、大丈夫か?」

 低い声が耳に入る。

 声がする方にゆっくりと視線を向けると、小柄な体に真っ黒なパーカーを着て、黒髪で隠れたつり目の青いオーラ纏った男がいた。


 私と同じ青、この人に迷惑かける前に離れないと。

 

「見つけたぞ!」

 後ろから聞いたことある男の声が耳に入る。


 ヤバい逃げないと。

 すぐに誰の声なのか理解する。

 

「ごめんなさい・・・・」


 逃げないといけないという気持ちが私の足をまた動かした。


「ハアハアハアハァ」

 足が痛い・・・・このままじゃ追いつかれちゃう・・・・どうしよう。

 足は動かすたびに痛みを感じる。普段走らないから体力にも限界が来ていた。


「もうあきらめて俺と遊ぼうよ~」

 さっきまで遠かった声がだんだんと近づく。


 やだやだ捕まりたくない。

 何かないかと周りを見ると目に留まったのは『立ち入り禁止』と書いてある黄色い看板。

 何かと思い看板の奥の方を見る。

 そこには廃墟と化した学校があった。


 学校の校門をよじ登り、残った体力で校庭を走り、開いてる昇降口から校舎の中に入った。

 昇降口から校庭を見ると、綾たちが走ってきてるのが見える。


 すぐに階段を上り、その後、男の声が校舎の中を反響する。


「おーい廃校に隠れても無駄だよすぐに見つけちゃうから」


 三階まで登り埃が舞う廊下を歩き奥の教室に入る。


「ハアハアハア」

 早く隠れないと見つかっちゃう・・・・。


「おーいどこに行ったのかなぁ~」


 男の声が響きわたり私を余計に焦らせる。

 教室の中に置いてあるロッカーの中に急いで身を隠す。


 ――――ガシャン。

 まずい・・・・。

 焦って隠れたせいでロッカーから音が出てしまった。


「―――ん?こっちから音がしたな・・・・ここかなぁ」


 男が綾と一緒に私が隠れている教室に入ってくるのを、ロッカーの隙間から見る。


「おい綾、匂いで分かるか?」

「クンクン・・・・あそこのロッカーから匂いがする」

「先輩ーーー!・・・・綾ーーー!・・・・誰でもいいから助けてーーー!」

 ―――ドスッ。


 突然、由奈の声が響く。

 そして、声は大きい音とともに途切れる。


「由奈ーーー!何があったの!」

 綾が声をかけるが返ってこない。


「私、由奈を見てくるから先輩はあの女捕まえて待ってて」

 そう言うと綾は走って教室を出た。


「そこにいるのは知ってるから早く出てきなよ~」


 ロッカーに少しづつ近づく、じわじわゆっくりと。


「早く出てきて遊ぼうよ・・・・出てこないなら開けちゃうよ~」

 ロッカーの取っ手に男が手を伸ばした時。


 ―――――うッ!

 いきなり押しつぶされそうな圧力で体が重くなる。


「―――――なんだこの量の魔力」

 この感じ、覚えてる・・・・あの時と一緒だ。親が殺された時と一緒だ。


「先輩・・・・」

 何故か、片手がなく、血まみれの綾が教室の前に座りこんでいた。


「タス・・・・ケ」

 綾が何か言おうとすると、体が両断して血が噴き出した。

 そのまま、綾の体はたくさんの血を流して倒れた。


 教室の中に馬面で斧を持ち、赤いオーラを纏う魔物が姿を現した。


「は?なんだよこれ・・・・どうなってんだ?・・・・夢か?夢なのか」

 男は現実を受け入れられないのかそんな言葉を吐く。


 魔物はドスドスとでかい体を動かしながら男に近づいた。


「やめろ・・・・俺はまだ死にたくない」

 近づく魔物から逃げようとするが、魔物の巨体に追い詰められる。

 男は抵抗しようとパンチやキックをするが、突き飛ばされる。


「ヤダ・・・俺はまだ死にたくない!」

 男は立ち上がり、また魔物に突っ込む。


「うらあああああああ!」

 その時、男の顔が魔物の持つ斧によって一瞬で吹き飛んだ。


 男の顔が床を転がるのを見て、動悸が激しくなる。


「ハアハアハア」

 怖い・・・・死にたくない・・・・誰か・・・・助けて・・・・。


 その魔物は、馬面で斧を持ち赤いオーラを纏っていたあの時、親を殺した魔物そのものだった。


 ロッカーの中で震える私は、自分がうるさいと思うくらい心臓が鳴っていて、何とか息を手で抑えて、激しくなる呼吸を止めようとするが激しくなる一方だった。


「ハアハアハアハア」

 魔物はロッカーの中で激しく呼吸する音が聞こえたのか、ロッカーの方へと近づく。


 私、死ぬのかなやだな・・・・でも・・・いつも死にたいと思って何度も自殺しようとしてたし・・・・別にこのままロッカーの外に出て、この魔物殺されてもいいのかも・・・・・・・。


 そう思いながらロッカーを開けようとしたが、ロッカーを開けようとする体がピタリと止まる。

 そして頭の中に誰かの声が響く。


「自殺は絶対ダメだよ、どんなにつらくても生きていればそのうち良いこと、楽しいことがあるから」


「霞、生きて・・・・」


 私に何度も言い聞かせるように言っていたお母さんのセリフ。そしてあの日、親が魔物に襲われて、死に際に言っていたお母さんの最後のセリフが頭の中で流れた。


 やっぱり怖い・・・・いつもそうだ、自殺をしようとすると、お母さんの言葉が私の体を止める・・これから先私に楽しいことが訪れること何てないのに・・・だって今、死の目の前にいるのだから・・・・。


―――――パリーン!

 突然、窓ガラスが割れたと思ったらフードを被った小柄な男の人が入ってきた、そして勢いのまま魔物に攻撃を仕掛けた。


 魔物に突き飛ばされ、霞の入ってるロッカーの前に立った。

 フードを被った男は青いオーラ纏い、赤いオーラを纏った魔物に立ち向かおうとしていた。


 この人が魔物に勝てるはずがない・・・・だってさっきやられた魔力が多い人だって勝てなかったのに・・・・。


 ナイフを持ち、男は魔物に向かって走る。

 戦いは一瞬で終わった。

 男が魔物の胸にナイフを刺し、魔物は暴れまわるが、次第に弱っていくそして気づいたら動かなくなっていた。


 私の目の前に立っていたのは、青いオーラを纏ったフードを被った男だった。


 その時、霞んだ視界が広がり、男の青いオーラを中心に色が戻っていく。

 

 私は見てしまった。私が弱者と思っていた魔力の少ない人が、魔力の多いい魔物を倒すところを。

 もし、私が強くなって今の弱い自分を変えられるのなら、もし、無力の自分を変えられるのなら、私は力が欲しい。


 後先考えず、ロッカーの中から飛び出す。


「あのッ!」

 男がその時、獣を見るように私を睨んだ。


「助けてくれてありがとうございます・・・・」

 睨まれたことに怯えて声が小さくなる。


 こんなんじゃダメだ・・・・こんなんじゃ今までと同じだ怖くない大丈夫だ。


 自分に喝を入れて、大きく息を吸って吐く。

 そしてもう一度。


「あのッ!私の名前は雨下霞あましたかすみといいます―――――!」

 また、さっきと同じような目で男がこっちを睨む。


「私、あなたみたいに強くなりたいです。だから私を強くしてください」

「は?」


 男はさっきよりも、鋭い目つきでこっちを睨む。


「何でお前は強くなりたいんだ?」

 恫喝するように質問してきた。


「私は、今の弱くて何もできない自分を変えたい・・・・」

 恫喝に負けて、声が小さくなる。


 私が強くなりたい理由それは・・・・トラウマに怯える自分を変えたい、弱い自分を変えたい、一人じゃ何もできない自分を変えたい、そして弱い自分に負けないようになりたい――――――。


「――――だから強くなりたいです!」

 最後は男の恫喝に負けないように叫んだ。


「わかった。強くなりたいならこの手を取れ」

 男が前に手を出す。

 おずおずと男に近づき、差し出す手に自分の手を置いた。


「俺の名前はかげだ、行くぞ!」

「え?」

 その時、ゆっくり置いた手を男が強く握り、連れ出されるように割れた窓から三階の教室を飛び出した。


「いやあああああああ」

 胃が浮いた、まるでジェットコースターに乗ったみたいだった。


 すぐに地面に着地して、影さんにお姫様抱っこみたいに受け止められる。


「どうだ楽しかったか?」

 満足げに聞いてきた。


「怖かったです」


 私がそう言うと影さんは笑った。 

 

 でも、少し楽しいと思った自分がいた。


 ここから、何か変わるかもしれない。


 強くなって、今の自分を変えよう。


 恐怖に負けないように、私は強くなってこの世界で生きよう。

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大嫌いなこの世界を変えるために ‐変わりたい私は暗闇の中で光を見る。 フォッツ @fottu0405

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