第2話 日常

 ――――一年がたち学年が上がり高校二年生になった。

 学校には、魔法科と学科があり、魔法科は人数が多いいからクラス替えがあったみたいだけど、私たち学科は人数が少なくクラス替えがないので、二年になっても麗華とクラスは一緒だった。

 

「そういえばさ、うちのクラス転校していく生徒多くない?」

 麗華がクラスを見渡して聞いてきた。


「確かに一年の時、五人くらい転校したよね。クラスの人数がもとから少ないせいでなんか寂しく感じるよね」


 転校だけではなく、学校に来なくなってしまったり、学校をやめてしまった人もいた。


「何でだろうね」

「私も、わからないよ」

 本当にどうしてだろう?何か、理由があるのかな?


 ―――――――次の日、私は風邪をひいて学校を一周間、休んだ。

 麗華はお見舞いに行くと連絡がきていたが来なかった・・・・。


「お見舞い行くとか言って一日も来ないことある?」

「ごめん、ごめんいきなり用事が入っていけなかった・・・・」

 お見舞いに行かなかっただけならまだいいが連絡すらしてこない。


「何で連絡してこないの?」

 少しキレ気味に聞く。


「ごめん、連絡は色々あってできなくて、ごめん・・・・」

「家に麗華が来るの楽しみにしてたからちょっと残念だった・・・・」

「ごめんね、これコンビニで売ってた季節限定のスイーツ上げるから許して」

 私のご機嫌を直すためだけに買ってきたであろうスイーツを麗華の手から取る。


「いいよ、風邪ひいた私が言うことじゃないけど連絡すらしてこないから心配しただけだから・・・」


 麗華はいつもの笑顔に戻して、口角を上げてからかうように言う。


「霞は可愛いなぁー」

「もう!からかわないでよ・・・・」

 恥ずかしくなって顔の温度が上がった。


「そうだ麗華、放課後久しぶりにぶりに遊ぼ!」

「ごめん・・・・今日予定があって遊べない・・・」

 思い出したように顔から笑顔が消えて、寂しそうに、辛そうに、小さい声で謝る麗華。


 普段、麗華からの遊びの誘いが多いいが、今回は数少ない私が遊びに誘ったのに断られた。


 不断なら「珍しい」とか言いながら即答で決定するのに、今回はなぜか迷うように断った。


「全然いいよ、何で麗華が謝るの?予定は仕方ないよ」

「そうだよね!・・・謝る必要ないよね」

 そう言って麗華は今まで見たことない笑顔を作る・・・・。

 それは笑っているのかわからない笑顔。


 その日から麗華とは遊ぶことがなくなり、気づいたら、話すこともなくなった。


 私のバイトのせいもあるけど、ここ最近は遊んでないし、会話もしてない。


 よし、今日は声を掛けてみよう。


 そんなことを考えていると教室に麗華が入ってくる。

 近づいて顔を見ると、いつも綺麗な顔が暗く疲れ切った顔をしていた。


「大丈夫、なんかあった?」

 心配して声をかけたが「大丈夫」と言っていつもの笑顔を作った。


 この、笑顔は麗華が無理矢理作っている笑顔だと私は知っている。

 最初はわからなかった。けど、最近の麗華を見てればすぐにわかる。

 この笑顔は、私に何か隠してる。


「本当に大丈夫?」

「本当に大丈夫だから・・・・心配しないで」

 前まではあんなに元気だったのに、今はその面影も見えない。


「そんな顔して大丈夫って言われても説得力がないよ。なんかあるなら話してほしい私たちは友達でしょ?」

「うるさいッ!・・・・ごめん、でも・・・・」

 麗華は突然大きな声で叫んだと思ったら、周りを見て落ち着いてまた「大丈夫」と言う。


「わかった、授業始まるし席戻るね」

 問い詰めるのをあきらめて自分の席に戻る。


 麗華が大丈夫ではないのは、わかるけど麗華自身が話してくれないしなぁ、どうしよう?

 麗華とは一年間一緒にいたけど、そんな私にも話せないことってなんだろ?


 まだ、私は麗香のこと全然知らないのかもしれない。


 授業中なのに全然、集中できない。

 どうしたら今の麗華を知れるかな?


 あっ、良いこと思いついた。

 今日、さっそくやってみることにした。


 下校を告げるチャイムが鳴った。

 私は早めに教室出て、校舎の外にある木の陰に隠れた。

 これしか方法がなかった、今の麗華を知る方法それは・・・・。


 ―――――――バレないように後をつける。

 つまり尾行。


 それにしても麗華のあんな顔初めて見たな・・・・・。

 私を睨む目にはクマができていて、血色のよかった肌は荒れていて、前より少し痩せていた麗華は、私に「うるさいッ!」って張り上げた声で怒りをぶつけてきた。

 その時の麗華の大きい声と元気のない真っ青な顔が私の頭をよぎる。


 正直、あれが怒りなのかもわからない。溜まったストレスを私にぶつけてきたようにも感じた。


 下を向いて考えていると麗華が校舎から出てきた。


 あっ、出てきた。ん・・・・?あの子たち誰だろう?


 麗華が校舎から出てきたと思ったら、さっきから校舎の前で話してた女子二人に話しかけられてる。


 あれは、魔法科の生徒だ。


 女子二人の胸に魔法の「魔」と書かれたバッチをつけているのを見て気づいた。

 魔法科と学科を分けるためにそれぞれ別のバッチが制服についている。

 ちなみに学科は「学」の文字がついたバッチがついてる。


 このバッチは、魔法科の生徒と学科の生徒をわかりやすく分けるものだけど、バッチのデザインというか、見栄えというか、ダサい気がする。


 私の目には一人は緑のオーラを纏っていて、もう一人は赤いオーラを纏っているのが見えた。


 あれ、どこ行くんだろ?

 少し話した後、移動を始めるが、何故か校門の方に行かず体育館のある方へ歩き始めた。麗華は先を歩く二人の後をついて行く。


 二人の女子は楽しそうに話して歩く中、麗華の歩く後ろ姿は弱々しく見えた。

 私はその後をバレないように物陰に隠れながらついていく。

 そして麗華たちは体育館の横にある体育倉庫に入った。


 麗華、体育倉庫で何の用事があるんだろう?

 私はゆっくり体育倉庫に近づいて少し開いたドアの隙間を覗いた。


「私もう・・・・痛いのヤダからやめない・・・・?」

 麗華が震えた口調で二人の女子相手に話していた。


「私たちが飽きるまで、やめるわけないだろッ!」

 その時、一人が話しながら麗華を思いっきり殴る。

 もう一人は麗華の苦しむ姿を見て、笑っている。


 何これ?虐め?


「ゲホッゲホッ・・・・もう・・殴らないで・・・」

 麗華は倒れて、腹部を殴られたからなのか、咳き込みながらしゃべる。


「誰がしゃべっていいって言った?」

 そう言いながら麗華をまた殴り始める。


 私はその光景を見て気づいた。

 そうゆうことだったの・・・・。


「ごめんなさい・・・・ごめ―――」

「だからしゃべんなよ」

 何度も何度も殴られながら、春香は何度も「ごめんなさい」と口にした。


「由奈、今日は先輩に来てもらってるし、こんだけ痛みつければこいつも動けないでしょ」

「そうだね、あとは先輩に任せちゃお」

 二人が殴る手を止め、ニヤニヤしながら麗華から離れた。

 

「先輩ヤっちゃっていいっすよ」

 一人がそういうと後ろから大柄の赤いオーラ纏い、「魔」の文字のバッチをつけた男が出てきた。


「この子の初めてもらっちゃっうよ~」

 体育倉庫の奥から下品な笑みを浮かべ、男がズボンのベルトを緩めながら麗華に近づく。

 それを見た麗華は何をされるのかに気づいて、体育倉庫の出口に向かって逃げようとするが殴られたせいで思うように体が動かないのか、床を這いずる。


 麗華は出口に手を伸ばした。


 その時、麗華と目があった気がした。


 この光景を見たとき私の脳裏で今まで忘れていた記憶が甦る。

 何で私、目の前で友達が虐めを受けているのに、何で、見てることしかできないの・・・・あの時と一緒だ。

 

「逃げないでよ~」

「やだッ、触らないでッ―――――――!」

 男が麗華の足を掴む。


「大人しくしないと痛いよ?」

「やだやだやだ・・・・・触らないで!」

 男が麗華をおさいつけ、スカートを無理やり下ろそうとする。


 あの時も隠れて見てる事しかできなかった・・・・親が目の前で魔物に襲われている姿を見てる事しかできなかった・・・・。

 でも今は何かすれば麗華を助けられるかもしれない、それでも怖くて動けない。

 今、私の目の前で起こってることは、親が魔物に襲われた時と似ていた・・・・。



 こっちに助けを求める春香の姿は、魔物に襲われてる時のお母さんを彷彿させた。

 夕焼けに照らされた体育倉庫の中は、赤くて私には血のように見えた。

 春香を襲う男は赤いオーラを放っていて、あの時の魔物に似ている。


 麗華は抵抗するが、男にスカートを下ろされついに下着を脱がされそうになった時だった。


「見ないでーーー!」

 と麗華が突然叫んだ。

 

 麗華のその言葉を聞いた時、私は全力で逃げるように走った。

 私は走りながら思い出した、この目が青くなった時に失ったもの、怖くても、痛くても、悲しくても、私は涙が流せない。

 その証拠に、親が死んだ時も悲しかったのに涙だけが出なかった、そして今も・・・・。

 

 次の日から麗華は学校に来なくなり、しばらくして先生の口から麗華が転校した事を知った。

 

 そして虐めの対象が私になる・・・・。


 私は気づいた。何で勉強してたのか、何で親が死んだ時のことを忘れていたのか。


 私は親が魔物に襲われていた、あの光景がトラウマだった・・・・。

 親を襲う魔物の姿が怖かった。

 

 前の私は赤いオーラを纏う人を見るたびに、あの光景を思い出していた、理由は親を襲った魔物も赤いオーラを纏っていたから。

 トラウマを思い出すたび、体が震えて動悸で息苦しくなっていた。


 その時の私はあの怖い光景を忘れるために勉強していたんだと思う。

 勉強してる時は一度も頭にあの光景を思い出す事はなかった。

 それでも勉強から離れると、ふとした時に思い出す。

 まるで昨日起きた出来事のように記憶は鮮明に頭の中に残っていた。

 あの時の私は無意識にトラウマから逃げるために好きでもない勉強をしていたんだと今は思う。


 ある時、トラウマをすべて忘れられることがあった。

 それが麗華との出会いだった。

 

 麗華と出会って毎日が楽しくなって嫌なこともトラウマも忘れて私は強くなった、成長したと思っていたでも違った・・・・・。


 麗華がいたから私は成長できていたと思っていた、強くなったと思っていた、けど実際はあの時と何も変わっていなかった。

 怖くて震えるあの時の私だった。

 実際、麗華の助けに入ることもできなかった。

 そして今、麗華がいなくなった私は無力だ。


 今まで自分がどうやってこの恐怖を抑えていたのかも今になってはわからない。

 前は勉強してなんとかしてたはずなのに、なぜか恐怖が消えない。


 いつかは恐怖が消えると思っていた。けど、そんなことなかった・・・・・。

 


 ――――――虐めが始まって二週間ぐらいたった気がする。

 一人はショートカットで制服を着崩していてギャルっぽいのが由奈ゆなで、ロングヘアで清楚なお嬢様っぽいのがあやだ。

 この二人に殴ったりとかの虐めを受けている。

 

 私はいつも綾の赤いオーラを見るたび動悸が激しくなり動けなくなる。


 いつも授業が終わると下駄箱の近くで二人が待ち伏せして無理やり連れてかれる。

 連れていかれる場所は様々だトイレや校舎の裏、空き教室、いつも人気ひとけがない場所に連れてかれる。

 場所によってやることが変わる、トイレだと無理やり便器に顔を入れられたり、学校の裏では口に泥を入れられたり、空き教室では椅子で殴られたり、投げたりしてくる。


 どこに行っても変わらないのは殴る蹴るの暴行と暴言だけだ。


 それをいつも命令してるのは綾だ。

 綾が由奈に命令して、綾は時々蹴りを入れてくるが基本はずっと私を笑いながら見下すように見ている。

 体は痣と傷でボロボロになると思っていたが、体に痣や傷は少ない。

 なぜなら痣や傷は綾が治してくれるからだ。


「弱者のあなたを無限に痛みつけるためだよ、もしかして私の優しさだと思ちゃった?」

 綾が私をゴミを見るような目でそう言っていた。


 そのせいで、学校の先生はみんな私のことを信じないで、由奈と綾の言うことを信じる。


 回復された場所は痣や傷跡は消えるが、痛みが残る。

 私はいつも残った痛みに耐えながら下校する。

 それが今の私の長い日常だ。


 虐められてる中で分かったことがある。


 何故、魔法科の人数が多いいのか、何故、魔法科と学科でつけるバッチが違うのか、何故、私たちのクラスから転校する人が多いいのか。


 分かった。


 この学校は私たちを魔力の量で分けているから付けるバッチが違う。

 この一つ目の答えは、私のこの青い目がなかったら気づけなかったと思う。


 ほかの学校にも、魔法科は普通に存在している。

 魔法科がない方がまず、めずらしいのだ。

 ない学校は大体、偏差値が低いから、なるべく偏差値の高い高校を卒業したかった私はそこに目はいかなかった。

 転校していく人たちは、みんな魔法科のない高校に行くのだろう。

 

 そして転校する人が多いいのは、綾と由奈、以外にも学科の子を虐める人がいるからだ。

 

 青い目がついた時から疑問に思ってたこともある。

 なぜ、東京の中心が魔力で囲まれているのか。

 東京の中心は、なぜか魔力がドームみたいに囲われていて、何があるのかとずっと疑問だったけど、もしかしてあれは私たちを分けるためにあるんじゃないか?

 これは想像に過ぎないけど、魔力のドームの中は魔力が多いい貴族的存在しか住めないんじゃないか?魔法科を卒業した生徒が入れる場所とか、そういうふうにわけられているんじゃないか?正直、私の想像じゃ、これ以上思いつかない。


 魔法科では、毎日、それぞれが持つ得意な魔法を社会に出た時に使えるように鍛えているのを知っている。

 

 世界では魔法を使って仕事するのが普通なのだ。

 

 そして由奈がこんなことを言っていた。

「お前はこの世界の弱者だ、学科にいる奴も全員この世界でなんの役にも立たない魔力の少ない弱者だ!」


 私の想像、人の噂、由奈の学科に対しての見方、これらすべてが一つの答えをさしていた。


 ――――つまり、この世界は魔力の量がすべての世界だということだ。

 魔力が少ないから学科にいて、魔力が少ないから虐めを受けて、魔力が少ないから差別される。それが、当たり前な世界。


 そして同時に私はこう思った。

 何で、この世界に生まれてきたんだろう・・・・。


 この、人が持つ魔力の量がわかる私の青い目がなかったら幸せだったかな?

 

 ―――――――死にたい・・・・。

 

 日曜日、私の唯一の休みの日だ、バイトもなければ、学校もないなんもない日。

 いつもなら日曜日は麗華と遊んぶ日になっていたのに、今は麗華が転校してなんもない日になった。

 毎日が楽しくて一日が短く感じたあの時が夢みたいだ。

 今は学校行ってる時の時間もバイトしてる時の時間も長く感じる。

 そして今、私は明日が来ることに怯えて、死ぬことをずっと考えている。


 だけど死にたいと思っても体が死ぬことを否定する。

 

 だって私は死ぬ勇気もない弱者だから・・・・。

 麗華が隣にいたら死ねたかな?

 

 何で私、生きてるんだろう?


 意味のないことを考えながら一日が過ぎるそして――――。


 ――――――月曜日が来る。


 学校、行きたくない、行きたくない、行きたくない、行きたくない・・・・・・・でも、行かないといけない・・・・。

 布団の中で行きたくない気持ちを落ち着かせて準備をする。

 制服を着て、ノート、教科書、筆箱が入った汚れたカバンを持ち、ぼさぼさな髪はそのままに外に出た。

 

――――そして今日も長い日常が始まる。 

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