【惨夜】『真円貌の怪』其ノ貳
四
電話した時点で何となしに厭な予感はしたんでやすがね。そういうのは当たるもんで哲先輩が紹介してくれた『高橋君』てのは女性でありやした。
いや、何もあっしはキャメラマンが女性であることへの不満とか、実は女性恐怖症だったなんてウブなこと言いたいわけじゃありやせん。オカルト現場の実際てのは、時にそこが“戦場”になることもありやすからね。
女性崇拝の強い自称ラテン系のあっしとしちゃあ『危ねえとこにおなごを連れてったとあっちゃあ名が廃る』てなもんで。まあ今回だきゃあ事前に確認を怠ったあっしの不手際ってことで、今更追い返すわけにはいかねェし。どうしたもんだってわけで。
とりあえず
「あ、どうも〜。うちは奈良出身の二十五歳、
「はい、あっしが軛駝でやす」
「わぁほんまに『あっし』言う人初めて見ました。江戸言葉言うんですか?哲さんは『江戸なまりの強烈な奴だ』言うてましたけど、めっちゃ全然シュッとしてはるやないですか。よかったわぁ。うちプロレスラーみたいなものごっつい人来てたら即逃げ出してましたわ」
「それは重畳でありやすな。高橋さんはこの案件についてどこまで聞いておりやすか?」
「いや〜、軛駝さんみたいな人が使うと江戸言葉もめっちゃセクシーやわ〜。って失礼しました。ガンガンツッコミ入れてきてエエんですからね、ほんまに。うちが哲さんから聞いておるんわ『なんか群馬にメッチャ変な女がいるから取材してきてくれや』てことだけです。なんやもっとヤバい感じですかね?」
「そう聞いてますな。なんでも『顔を見たら呪われる』系統の女怪であるとか」
「うわッ!それはほんまヤバそう。けどカメラマンとしては使命感燃えちゃいますね。オカルト好きなもんで、メッチャ
「それは結構なことでありやすな。早速ですが移動しちまいやすか」
移動中の列車でも偲舞嬢はそりゃ賑やかなお人でありやした。いや、皮肉抜きでありやすよ。
我々関東男児には些かのカルチャーショックはありやすが、関西人女性に特有の「パワフルな陽の気」てなもんはお天道様のようにポカポカとあったけェもんで。
高橋さん御自身も飛び抜けた美人さんてわけじゃございやせんが、男なら誰もが惹かれるであろう陽気な親しみやすさを持っておられる方でやしょうな。
「あ、高橋さんじゃなくて
哲先輩は「北関東は遠くない」なんて言っておられやしたが、あっしとしちゃあ結構な移動距離でやした。なので偲舞嬢のマシンガントークのおかげで所要時間が随分短く感じたのは正直助かりやしたね。
『
「あの〜、すいません梅苑さん。『甘ったれんな!』ってメッチャ怒られる覚悟で言うんですが、先にうちらの拠点を決めといた方がエエ気がして。というのはですね、うちそんな『自慢するほど』言うのとはちゃうんですけど、ほどほどに“霊感”言うんがあって・・・。いや、そんなん信じられへん思われる気持ちもわかるんですが、なんかこのままそのままそこに向かってしまうと『何か悪いことが』って気がしてしもて」
「いや、あっしも偲舞さんのそのお言葉、そのまま信用しやす。あっしはあなたと違って霊感なんてのはゼロでありやすが、何か確かにこのままそこへ向かうのを
そこであっしらはどこかその辺で適当なビジネスホテルを探すことに致しやした。高橋嬢は小柄な方なのでいつまでも重そうなキャメラバッグを背負わせとくのも忍びないてのもありまして。
「あ、部屋とかなんなら一緒でも、うち的には全然OKですけど」と魅惑的なお言葉も頂きやしたが、嫁入り前の娘さんをあっしのような無頼漢と宿泊させるなんざ親御さんに申し訳が立たねェんで、当然別室とさせて頂きやした。もちろん若い娘さんに恥をかかせちゃなりませんので
「何かあったらあっしの部屋にはいつでも遊びに来てくだせェ」とフォローも欠かさず。いかにあっしと言えど意外とウブなんでございやす。
部屋にチェックインして直ぐ哲先輩に連絡致しやした。肝心要な事=『真円貌の女の出没時間帯』を訊くのを忘れていたのでありやして。
「え?何もうそっち着いたの?うん、高橋君良い子でしょ。可愛いからって手ェ出しちゃダメよ。うん、あの子も私らの大学のOGよ。え?大学人脈利用し過ぎって?君さぁ、そんなの政財界とかみんな学閥社会よ?利用できるもん利用しなくてどうすんの?で、え?『出没時間帯』?。そうだなぁ、それやっぱ大事よね。じゃあいっそさ、坂もっちゃんに自分で電話してみる?苦手とかそんなん言わないでよぉ。彼そんなに悪い子じゃないって。純文学主義のプライド
というわけで哲先輩がてんで頼りになりやせんのであっしが坂本辰真氏に連絡を取ることになりやした。
「あ、もしもし坂本辰真さんの電話で宜しいでやすか?あっしは軛駝と申しまして。ええ、哲先輩のご紹介で。ちょいと坂本さんにお尋ねしたいことがございやして」
「ああ、軛駝さんですか。ご無沙汰しております。ええ、一度編集部でもお会いしたことが。ええ、大学も同期でしたものね。それで僕に尋ねたいことって一体?」
「あなたさんが手がけてなさった都市伝説のリポートの件でございやす。ええ、群馬は鷹尖市の『真円の女』ですか。なぜあの案件から手を退かれたんでやしょう、と気になりやして」
「あの件に関しては本当に手を出したこと自体後悔していて。“
「その真円女の『出没時間帯』なんかが解れば教えて頂けやせんかね。ええ、哲先輩にあなたの“後釜”として指名を受けまして。あっしがルポを書くことになりやした」
「ああ、ああ、哲先輩、哲先輩。なにやってるんだろうなぁホント。僕、僕は彼にアレには絶対手を出しちゃダメって言ったんですよ。だって洒落になってないんですよ。居るか居ないか解らない、そんな幽霊みたいのじゃないんです、アレは。僕だってオカルトなんてね、娯楽として『宇宙人なんかが居たらさぞ面白いだろうなぁ』なんて軽いスタンスで居たんですよ。けどねアレは間違いなく存在する、だけじゃなく『その身に降りかかってくる“厄災”そのモノ』なんです。ウソだと思うんなら、きっとウソだと思ってるでしょうけど、試しに見に行って下さい。時間?時間なんてそんなもん関係ないんですよアレには。早朝だろうが深夜だろうが『居るときはあいつは居る』んです。ただ、ただこれだけは老婆心として言わせて下さい。
『横顔は平気です——けれど正面は絶対に見たらダメです』
遠目に見れば横顔は普通なんです。ごく普通、といっても少々異常な雰囲気を持った女性といった感じでしょうか。それこそ入院先から着の身着のまま出てきてしまったというような。けれどね正面は違います。横顔を遠目に見て、『あれ別に普通の女じゃないか』と油断して近付いて行きますよね。するとね、すると。段々とこちらを奴は、あの女は。ゆっくりと。ほんとにゆっくりとしたペースで、こちらにギッ、ギッ、ギッとゼンマイ仕掛けの人形みたいに。首を振り向けて。顔が、あの顔が。はあははあはあっはあっはははははははははははは、し、失礼。白いんです。顔が。雪みたいに岩塩みたいに。真っ白。真っ白なんですよ。目、鼻、口?哲先輩にも訊かれましたけどそんなのどうでも良いんです。アレにそんなもの求めちゃいけない。そういうものじゃないんです。だから、だからね・・・」
あっしは坂本氏に決して良い印象は持っていやせんでしたが、それは間違いであったと後悔致しやした。彼は必死に、誠実に『真円の女』の恐ろしさをあっしに知らしめようとしているでやす。それとこれ以上彼に対して根掘り葉掘り訊くのも酷な気が致しやした。とんでもねェ案件を引き受けちまったと、後悔先に立たずってやつでありやすな。
「ああ、坂本さん。ホントにありがとうございやした。決してあなたもご無理なさっちゃいけやせん。あっしもあなたのご忠告に従って決して無茶で無謀な冒険をしないことを固く誓いやすよ。あなたの言う『安全な横顔』だけ撮影して。リポートは場所を伏せ。『決して見かけても近付いてはならない』てな内容でお茶を濁すことに致しやしょう」
「ああはああっはあああああははははは・・・」
坂本氏はそれ以上意味のある言葉を発することができないようでしたので、失礼ながらそのまま電話を切りやした。哲先輩にはメールで坂本氏の様子がおかしかったことを伝え、彼の健康状態を直接に確認しておくよう要請致しやした。
偲舞嬢にも一通り坂本氏のご様子を説明し、取材は明日に致しやしょうと伝え。今日はゆっくり休んで下せェとお願いしやした。けどもやっぱりあっしは“現場”の方が気になりやしてね。単騎で参ってみることにしやした。
例の“女”がいたら即引き返すことは前提で。とりあえずその『実現しない催事広告』てのがあれば、その現物だけ確認しときてェと考えたんでありやす。
五
鷹尖駅前から商業区の方に歩いて行きやすと、
その商店街のランドマークがレトロな名画座——「オリオン座」という映画館でございやす。“現場”はそこからほど近い、両側を薄汚れた飲食店に挟まれた細い路地にございやした。
確かにまだ昼過ぎにも関わらず、曇り空とはいえ薄暗い雰囲気で「夜にはいかにも出そう」な路地でありますな。幸い路地には人影はありやせん。
商店街の方にゃ人通りもまばらにありやしたが、一歩横道に逸れるてェと寂しげな風情が目立つ街でございやすな。
肝心の現場の『掲示板』には——ちゃんとしたとこですと『雨避けカヴァー』なんぞがありやすが——残念ながらそうしたもんもなく、この街同様「鄙びた風情」を主張しているようでありやした。
それに加えて一見、何の変哲も無い“木枠”の掲示板なんでやすが、そこに貼られた広告が「太い釘を中ほどまで打たれて貼り付けられてる」のは、どうにも路地の端から遠目に見ても「禍々しく目立っておる」ように思えましてね。
近づいて仔細に視ると、まず「掲示広告は二枚あり、そのどちらもが白黒コピー」で、紙の上部は「太い釘の首部が5センチほどハミ出して」打たれておりやした。
ええ、皆さんもご想像の通り「丑の刻参り」をあっしも真っ先に連想致しやした。
けども残念ながら、釘を打たれてるのは御神木でも藁人形でもなく「ただの小汚い掲示板とコピー用紙」でありやして。もしこれが「呪いの儀式」なんでしたら、その効果は如何ほどかと疑問に思ったのは言うまでもありやせん。
更に詳細に解説致しやすと、一枚目のコピー紙は「外国の恵まれない子供のための募金のお願い」といった類のもんで、そいつをペラッと捲りますと後ろにはそれの「コピー元」であるきちんとカラー印刷された「正規の募金団体謹製」の広告がございやした。
そしても一度コピー紙の方を確認致しやすと、哲先輩の言葉通り『みなさまのご惨禍をふるっておまちしております』の一文が確かに「書き加えられて」おりやした。
「これって油性ペンか何かですかね?」と真後ろから話しかけられて心の臓が一瞬停止したのは間違いありやせん。振り向くと例の“女”ではなく偲舞嬢だったので一安心といったとこでしたが。
「偲舞お嬢、お人が悪ィじゃありやせんか」
「もう、どっちがですか!抜け駆けなんかしちゃって」
「いやあなたさんがお加減が悪そうだったわけで・・・」
「気を使って下さったのは痛み入りますが、単独行動するなら事前に知らせといてくれないと!もうほんま水臭いですよ。いくらうちがちんちくりんの可愛い系女子やからって、あんま甘やかせんといて下さい。昼過ぎに現場着いたのに『明日まで休憩』なんて言われたら、ちょっとプロとしてプライド傷付きますって。いや、梅苑さんがムッチャええ人なのはうちもわかってます。けど女の子には優しくするだけじゃあかんと思います。いけずにしてくれとまでは言いませんけど、優しいだけの男はナメられてまうし。悪い女にそのうちコロッと騙されるんちゃうか?って心配なりますよ」
「いえ、こちらこそ気を遣わせてしまったようで、面目ございやせん。ちょっと一度『現場見学してくる』と報告しとくべきでしたな」
「そうですよ!部屋に遊びに来てええ言うから早速行ったら返事がせえへんし。ははん、こら現場が気になってうちのこと置いて早速見に行ったなて『女の勘』で解ったんで。直ぐ後から追い駆けたんです」
「いや面目ねェ。あっしは有能なビジネスパートナーを持てて果報者でありやす」
「またまたぁ!梅苑さんは自分に都合悪いと直ぐ『褒め殺しに転じてくるから気を付けろ』て哲さんが言うてましたよ」言いながらも満更でもない表情の偲舞嬢を見て、あっしもちょっと気負い過ぎてやしたなと反省しやした。
「で、話を戻しますけどこれって油性ペンじゃありません?例の“惨禍”の一文」
「ええ、確かに。よくある油性マーカーの『細い方の筆』で書かれた気が致しやすな」
「なんて言うかほんま“悪意”駄々漏れてますよねェ。普通募金の広告にこんなイタズラします?ええと、こっちの二枚目の方は、あっ!これこの掲示板の管理団体?による注意書きやないですか?『最近この掲示板にイタズラ書きをされる方が云々』て感じですね。え!それも白黒コピーして更に『みなさまのご惨禍を〜』の一文加えてる!一体これってじゃあ『何を呪っている』んでしょうかね?」
「わかりやせんな。けども『誰でもいい』とも考えられやすな。この掲示板に貼られる全ての広告がターゲットなんでありやしょうか?」
「ですかねぇ。あ、とりあえずカメラ持って来たんで。例の“女”が来ないうちに一通り撮影しちゃいますね」
偲舞嬢が助っ人に来てくれたおかげで、あっしの画素数の渋いキャメラで撮影せずに済んだのは僥倖でありやした。それはそれとして、現場の路地なんでありやすが、どうもさっきから居心地悪く感じるんでございやす。この一画だけ妙に空気が澱みを作ったように重く湿っぽい。更に言えば他に人影なんぞ見当たらないのに、ピリピリと産毛が逆立つような「厭な視線」を感じるんでありやすな。
「偲舞お嬢。失礼でやすが、そろそろ移動致しやしょうか?」そう一声掛けたのも理由がありやして。偲舞嬢は高価そうな一眼レフで一通り掲示板を撮影した後も、しげしげと掲示された広告のチェックに余念がなく。幾度も二枚のコピー紙と二枚の正規広告を捲って、その“細部”を何やら検証しているようでした。
「申し訳ないです、もう少しお待ちを。あと梅苑さん、これ霊感女子としてのガチ“警告”なんですが、絶対『右の方』顔向けないで下さいね」
「お気付きでしたか。どうもさっきからこの一画の雰囲気が異様に変わったように思いやして」
「大丈夫です。まだ『姿そのモノ』は現してないみたいで。けどこの圧倒的な“気配”は——梅苑さん霊感ゼロなんて言うてはりましたけど、それほど鋭くない人でも感じられるほど『重い気配』なんやと思います。だからうちらもなるだけ『ごく自然』を振る舞う必要があって。ほんまメッチャ睨まれてるのわかりますけど、『あっちに対して、こっちが気付いてることを悟られたくない』みたいな状態ですかね」
「膠着状態、でありやしょうか?」
「はい。けど、もし向こうが姿現したら。うちらもさっさと逃げなあかん思います。今はまだあっちも『なんやこいつら?何しとんねんほんま』って探ってるんやろなぁて」
それからおよそ3分くらいは経過したでしょうかね。たかが3分、されど3分でありやすが、これほど「忌まわしい気配に満ちた3分間」も中々ありやせんでした。
「あ!気配無くなりました。さっさと撤収しましょう」偲舞嬢の一声であっしらはその場を速やかに離れ、ビジネスホテルに戻りやした。
六
「『真円の女』対策会議をしましょう。これは真面目な会議です真面目な」と些か強引にあっしの宿泊部屋の方に突入されまして。偲舞嬢と会議することになりやした。
なぜかビールを二、三本持参して来なさったのが気になるとこですが。
「まずですね『顔を見てはならない』って言う“禁忌事項”なんですが、これどっかで似たようなネタ知ってません?うちはすぐピンと来たんですけど。これってアレやん『その眼で視られると石にされちゃうギリシャ神話のメドゥーサやん!』て。そこら辺、梅苑さんはどない思います?」
「邪視であるとか邪眼であるとか呼ばれるモノの類ですな。確か南方熊楠が日本に紹介した“概念”であるとか」
「でもその被害に遭われたという坂本さんは『特に“眼”については言及していなかった』。むしろ『正面から“顔”を見るな』と梅苑さんへ警告された、と」
「眼、鼻、口などの“顔貌”の造作については『想像したくない』やら『どうでも良い』やら言うておりやした」
「つまり『見られたらアウト』ではなく『向かれたらアウト』なんですよね。けど『見る見ない』はこっちに主導権があるわけですから、むしろメドゥーサよりは攻略は“容易”と言えますね」
「英雄ペルセウスがメドゥーサを攻略した時のように、“鏡”でも使いますかい?」ペルセウスとメドゥーサの逸話については幼い頃に観た映画、ハリーハウゼンのストップモーション特撮で知られる『タイタンの戦い』が好きだったので、その『鏡面を使った怪物の攻略法』には馴染みがありやした。
「“鏡”!そう、うちもこれは鏡しかないやろ思いました。“鏡”は古来から神道の“神器”として祀られるものですし、魔除けとして持ち歩いたり、もちろんうちも女やから化粧道具として常時携帯しとるわけですし」
「なるほど。けどもあっしはこうも考えるんでやす。もしかしたら鏡を使うにしろ、その鏡の大きさってのは『真円の女の顔幅』を上回るものじゃねェと些か頼りねェんじゃないか、と」
「やっぱりうちがいつも魔除けにしてる、上京するとき婆ちゃんに持たされた神棚に飾るような“神鏡”じゃダメですかね?これなんですけど」偲舞嬢が
鏡面も丁寧に磨かれ、彼女がそれを大事にしてなさることは一目でわかりやす。
「照魔鏡、或いは雲外鏡などと呼ばれる代物でございやすかね?確かに奈良は古代の神々とも縁が深ェ土地でありやすから、こうしたもんを持っといて損はねェでしょうな」
「けど測ったら15、6センチってとこで。手鏡としては大きめですけどやっぱ頼りないような」
「いえいえ、明日現場に向かうときは是非それを肌身離さず身に付けといて下せェ。何が保険となるか解らない世の中でありやすからね。あとあっしからはキャメラには望遠レンズで、もしやっこさんが現れるようなことがあればあの路地には入らずに撮影をお願いしたいんで。何かあったときにあなたさんをお守りできる自信はあっしには全くございやせん。ですから安全地帯からは絶対外れずに、というのは固くお願い致しやす。これは何もあなたさんが女性だからと侮ったり、甘やかしてるわけじゃあございやせん。霊感の無いあっしが感じるほどに先ほどの『危険な気配』が濃かったことは、あなたさんの方がよくお解りかと思いやす」
「合点しました。けどもし良ければこの婆ちゃんの鏡は是非梅苑さんに装備して欲しいんです。梅苑さんの事だから『そんな大事な物をあっしが』とか言って絶対遠慮すると思うんですけど、これは再び霊感女子としてのガチ“警告”なんです。梅苑さん——今回の件、油断してると死にます!いえ油断してなくても『死の気配ぷんぷん』でほんまエラい仕事受けてしもたって、うち今めっちゃ後悔してます!一人で受けた仕事やったらさっきの『気配の時点』でトンズラして家帰って震えて寝てます!けどここでうちが降りひんのは梅苑さんがおるからです。例えここでうちがこの仕事降ります言うても、梅苑さんは義理堅いお人やから絶対一人で仕事続ける思うんです。そんでうちは数日経ってからニュースで梅苑さんの変死体が発見されたことを知って、後悔の涙に暮れる思うんです。そんなん絶対嫌やから、うちは明日梅苑さんに付き添いますし、死なへんように万全の用意で居て欲しいんです。その事はほんまにお願いします」てなことをうら若き女性に言われて、頭を下げられたら、流石のあっしも立つ瀬がありやせんね。
「ありがとうございやす。では明日、謹んでそちらのお祖母さんの“御神鏡”お借り致しやす」と申しやした。
その後、偲舞嬢は持って来たビールをあっしの部屋で飲み明かしたかった様ですが、それは流石に仕事に差し支えるとご遠慮して。
「あっしはこれから明日の為に酒食を絶って“禊”をしなくてはなりやせん」と申し、偲舞嬢をご自分の部屋へとお返し致しやした。
もちろん「この仕事を終えたなら、是非祝い酒を奢りやしょう」というフォローも欠かさずに。
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