フルーツ白玉あんみつ
私は珍しくエプロンを着ている。隣で冷蔵庫から果物を取り出している桃髪の少女に選んでもらったものである。私の青い髪に良く合っていると太鼓判を押してくれたので、よく似合っているのは間違いないようだ。髪も頭の上でお団子を作って支度はバッチリである。
「リリー、どうですか?似合っているでしょうか」
普段はしない格好なので少し気恥ずかしさがあるので、感想を求めてはみたが彼女を視界の外に入れる。
「はい、よく似合っています。そのー……可愛いです」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
思いもしなかった言葉が彼女の口から飛び出したのでどぎまぎとしてしまう。主人の事を可愛いなどと言う従者など稀なケースではあるが、私が彼女を従者として扱う状況など滅多に無い事なので、このように親しげに会話をしてもらえるのは嬉しい事である。
今日は彼女と一緒にフルーツ白玉あんみつを作ろうと思うのだ。日頃の怠慢が積み重なっており、掃除や洗濯、料理などの家事はリリーに任せっきりになっている。偶には私が日頃の感謝を込めて一人で作っても良かったのだが、二人でコネコネしながら作ったら親子みたいでなないか。という名案を閃いてしまったのだ。
私の浅はかな親子像からわかるように、私とリリーには血の繋がりが無い。それでも彼女が私の事をよく慕ってくれるのは痛いほど分かるのだが、どうしても敬いの気持ちが強い気がするのである。だから今日は彼女の子供らしい一面を見よう大作戦なのだ。
「ご主人様、材料は一通り並べ終わりました。さてこれから、何を作るのですか?」
カウンターには赤と橙色と黄色の果実、白い粉、あんこが用意されている。あとはボール、泡立て器などの調理器具も並べらている。
「今日は白玉を作りますよ」
「何ですかそれは? あと、この黒いのは見た事がありません」
リリーは餡子を指差している。
「あんこと言います。豆を煮詰めて作るのですよ。遠い国の食材です」
私はスプーンで掬って彼女の口元に差し出す。彼女は目をパチパチさせて目の前の物体を良く観察した後に、目を瞑って勢いよく口の中に向かい入れる。私はスプーンを抜き取って、口に合うか見定めている様子を見る。
「美味しいです!」
彼女はじっくり味わったあとにパッと目を見開いて感想を口にする。甘くて美味しいと言いにこにこと私に目線を向けている。
「気に入ってもらえたようで安心しました」
餡子は街のお店でも滅多に手に入るものでは無い。これも数少ない私の友人から貰ったものである。この間あった強引な検問のお詫びも兼ねてと言われたので、断ろうかと考えたがリリーの顔がよぎり、快く貰えるものはもらっておこうという結論に至ったのだ。
「このあんこ? を使うのですから、どんな美味しいものが出来てしまうのでしょう!」
珍しく興奮気味である。ハードルが上がってしまっているがメインは白玉なので割と簡単に作れてしまう。餡子はあくまで引き立て役なのだ。
「それでは始めますよ」
まずはボールに白玉粉と水を入れる。そのあとは手で捏ねていく。人間の耳たぶくらいの柔らかさと言われている。私のネコミミの耳たぶでは作れないのだろうか。私の耳も寝起きの際など、ひっくり返るくらい柔らかい。冗談はさておき、この作業はリリーにお願いする。私はその間に鍋に水を汲んで火にかける。
「この粉は面白いですね。サラサラと言うよりパラパラです」
捏ね終わったら、丸めていく。この工程は一緒にやるのだ。
「次はこれくらいの大きさに丸めてください」
私は手で適量つまみ、掌で転がしながら形を成形する。
「分かりました」
彼女は手際よく丸めていく。とても器用である。
「何だか、粘土遊びみたいですね。小さい頃を思い出します」
「楽しいですか?」
「はい! ご主人様と一緒なので」
彼女は微笑んだ。それは喉から手が出るほど欲しい言葉であった。
「私も楽しいです。リリーと一緒に作れて」
あっという間に全てを丸める事が出来た。後はお湯で茹でて水で冷やすだけだ。
私はフツフツと音を立てる鍋に白玉を入れていく。入れる時に少し真ん中を窪ませる。そして、底に沈んだ白玉が上に上がってきたらそこから1分ほどで冷水に潜らせる。
「わ! ご主人様上がってきましたよ」
彼女は嬉しそうに、水面にポコッと浮き上がる白玉を指差す。
「なんだか、かわいいですね」
「私とどっちが可愛いのですか」
反射的に出た言葉であった。自分が一番驚いているかもしれない。まさか白玉に嫉妬するとは。その言葉を聞いた彼女は笑い出した。
「何言ってるんですか。そんな事言うご主人様の方がかわいいですよ」
今の私の顔はそこにおいてある赤い果実よりも赤いのだとわかる。それくらい顔が熱かった。
「私は果物を切るので白玉はお任せします」
私はその場から逃げるようして果物を切る。
切り終わった頃、ちょうど全ての白玉は冷水の中にいた。
「それでは盛り付けて持って行くので、先に責任ついていてください」
「はい。分かりました」
エプロンを外しながらテーブルに向かう彼女を見送り、私は透明なボウル型の器に盛り付ける。白玉を入れて、周りには果物をのせていき、真ん中には餡子をのせる。そして冷凍庫から出したアイスクリームをのせれば完成だ。
「お待たせしました。フルーツ白玉あんみつです」
私は先に座って待っていた少女に名前と共に器を差し出す。
「わー! とても綺麗ですね」
見た目は高評価である。
「それでは一緒に食べましょうか」
「「いただきます!」」
いつもの挨拶を終え、スプーンを握るリリーの様子を見る。
白玉と餡子と果物を乗せたスプーンを頬張る。口に入れた瞬間に彼女は体を震わせる。そして、左手を頬に当ててニコニコする。
言葉を忘れて食べる事に夢中になる様子を見ていると胸の辺りが熱くなるのを感じる。
私も彼女に習ってスプーンを口に運ぶ。柔らかさと甘さが絶妙である。
「ご主人様、とても美味しいです。モチモチしていて甘くて」
「気に入ってもらえて私も嬉しいです!」
「あのー、ご主人様。今日はお母様と呼んでもいいでしょうか」
「は、は、はい。ど、どう呼んで頂いてもぉ、構いませんけど」
「はい。何故だか今日のご主人様を見ていたら我慢出来なくなってしまいました」
数秒前の自分の言葉を恥じるような言葉であった。
「いえ、私は嬉しいですよ。是非あなたの口から聞きたいです」
「美味しいです。お母様」
私は静かに席から立ち上がりリリーの頭を撫でる。
「あ、あの今日だけですよ。お母様は」
「はい。それで構いません。では今日の夜ご飯は私に任せてください。なんてったって私はあなたのお母さんですから!」
白玉を一緒に作ろう作戦は大成功である。
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