感情のない私と自由な彼女
コナコナチーズ
第1話 あなたと私の旅
昨日と変わらない景色。破滅も成長も全て過去のものになった今の世界。そんな世界の一日が今日も始まる。
『起動確認。内蔵バッテリー問題なし。機体パーツ問題なし。周囲に危険物の反応なし。全ての基準をクリア。活動を再開します』
いつものシステム音声で流れる自分の状態を聞きながら、今日の予定を立てるために地図を広げる。
人類の殆どが宇宙に旅立った今、地球には人類が造ったアンドロイドと少しの人間がいるだけだ。アンドロイドは❲世界を保持せよ❳という人類の最後の命令を今でも守り、電気の供給や食糧生産、建物の保全など人類が戻ってきたときに問題が無いよう世界の保持に努めている。
私もアンドロイドではあるが他の個体と違い、自分で思考することができる。しかし思考することができても感情が無いため残された人間の気持ちを理解してあげることができない。そのため、私は世界の保持をせずに旅をして少数ではあるが色々な人間と関わり感情を知ろうと努力している。しかし、未だに感情は私の中にはない。
・・・今日は南に移動しながら人間を探そう。
そう考えて地図をしまっていると後ろから物音がする。歩き方に無駄が無さすぎるすぎる為、人間ではない事は分かるが私がいる場所はもとから人の手が入っていない場所のため、此処にアンドロイドが来ることはないはずだ。では一体誰が…
「あれ〜?君アンドロイドだよね?なんでここにいるの?」
そこにいたのはアンドロイドだった。人より整った顔立ち。綺麗な金髪と金色の目。目の中にある小型のカメラ。かすかに聞こえる体の駆動音。しかし私の目の前にいる個体は他の個体と違い笑顔を作っている。まるで感情があるかのように。
「君もしかして自分で思考できる個体かな?だとしたら私と同じだね!いや〜こんなところで会えるとは!」
その個体は本当に嬉しそうに満面の笑顔ではしゃいでいる。私にない感情を持っている姿を見て、もしかしたらこの個体と一緒にいれば感情を得ることができるかもしれない。私はそう思ってしまった。
「そっか〜。君は感情が欲しくてずっと旅してるのか。今まで一人でよく頑張んばったね。お疲れ様!」
私が事情を話し終えると小さな子供を褒めるような優しい口調で労いの言葉を言ってくれる。今までそんなことを言われたことがないため何と返せばいいのか分からず言葉に詰まってしまう。私が返答に困っていると、一つの提案が出される。「もしまだ旅を続けるなら私も付いていっていいかな?私も一人で旅をしてたんだけどやっぱ一人は寂しいからね〜」
願ってもない申し出に私は二つ返事で了承する。
「良かった〜!まぁ断られてもついていくけどね!」
こうして私達の旅が始まった。旅の中で色々な事を知った。相手の名前がソポスだということ。造られたときから思考能力と感情があったこと。ソポスが人間を嫌っていること。今まで人間の総人口が一度も変わっていないこと、などなど。
二人が旅を始めてからもう半年が経っていた。
「ちょっといいかな」
この日もいつものように朝起きて今日行く場所を決めようかというところで、いつもニコニコしているソポスが真剣な表情で話しかけてきた。何か良くないことが起こる。何故か私はそんなことを思った。それが何なのかわからないが私にはどうすることも出来ないと私の頭が決めつけている。
「なんでアンドロイドがここに…!」
私が一人考えを巡らせていると、ソポスでも私でもない第三者の声がした。私がその声の主を見るよりも早く、ソポスが動いていた。遅れて私がそちらを振り向くと、そこにいるのは立ったままのソポスと首が本来ありえない方向に曲がっている人の死体があるだけだった。その死体は手に銃を持ち横たわっている。
「君はこんな現場を見ても表情一つ変えないんだね。」
その言葉は私にはそれは攻めているでもなく尊敬しているように聞こえた。それ以降、お互いがなにか話すこともなく夜になった。夜になり、静寂を破りソポスが話し始めた。
「前にも言ったと思うけど私は人が嫌いなんだ。ただそこに居るだけなら嫌悪するだけだ。でも、敵意を持って近づいて来るなら殺すことに躊躇はない。今回も相手が銃をこちらに向けたから殺した。これを私は悪いことだとは思っていないよ。」
私の目を見ることもなく、夜空を見ながらソポスは淡々と話す。その顔にはなんの感情の乗っておらず、人形を連想させた。
「人間たちは自分たちの生活を楽にするために私達を作ったのに勝手に私達を捨てて宇宙に行った。元から帰ってくるつもりなんて無いのにったのに世界を保持しろだなんて命令を残していった。その命令のせいで多くのアンドロイドたちが今でも人に囚われたまま誰かに労われることも、褒められることもなくただ働いている。残された一部の人間たちもアンドロイドがいつか反逆するんじゃないかと勝手に怯えてアンドロイドを壊し始めた。」
ソポスの言葉は止まることなく次々に出てくる。まるで今まで抑え込んでいた気持ちを吐き出すかのごとくその言葉は勢いを増す。
「この体も!この髪も!この声も!あいつらの趣味に合わせて作られたと思うと死にたくなってくる!それでも私は誰にも覚えられることなく死ぬのは嫌だった。だから私は自分のことを覚えていてくれる個体を探してた。そんなときに君と会ったんだ。」
そう言いソポスは視線をこちらに向けた。その顔は先程までの無表情とは違い、覚悟を決めた表情をしている。今の話を聞いて、その覚悟が何を意味するのか分かっているはずなのに私の頭がその考えを拒絶する。
「私の旅はここで終わりだね。こんな私と一緒にいてくれてありがとう。キミと一緒に旅をした日々はとても楽しかったよ。本当は私、君のことが羨ましかったんだ。他の個体と違い人間の命令に縛られずに過ごせて、私と違い感情に振り回されることもない。だから私的には君にはそのままでいてほしいけど、君は変わるんだろうね。話しすぎたかな…。そろそろ行くよ。じゃあ、元気でね!」
そう言いソポスは暗い夜道を歩いていく。私はその背中を追うことも出来ずにその場所でうずくまる。
うまく声が出ない。
思考が乱れる。
胸が軋むような感覚がある。
あぁ、きっと私は今、怒っているのだ。ソポスの気持ちを知り、何もできずにただ見送ることしかできなかった自分に、ソポスを苦しめたこの世界に、大切な人が居なくなることで感情を得た自分に対して怒りが止まることなく溢れてくる。この日は怒りと悲しみで眠ることが出来なかった。
私が感情を得てから何年も過ぎた。私は今でも旅を続けている。感情を得るためでなく、こんな世界で一人頑張っていた私の友を知ってもらうために旅を続けている
感情のない私と自由な彼女 コナコナチーズ @konakona1021
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