第15話 兜
「クリケットより古いタイプのサイボーグに対して、できる対応はコレくらいだな。流石に地下系のサイボーグに対しては無理がありすぎるよ」
サイボーグ自身が地下に潜るタイプとして、
栗林達には、これらに対する戦術にあてが無かった。
自衛隊の既存兵器も、地下を移動するものに対しては有効そうな物は見付けられない。
「動物相手ならガスとかが有効なんだろうがなぁ」
クリケットでも30分前後なら宇宙空間でも大丈夫だ。
ましてや埋没する恐れのある地下なら、更なる長時間仕様だろう。
市販されている潜水用のリブリーザと言うボンベシステムでも3時間以上の呼吸が可能となる。
「いざとなったら、飛んで逃げるしかないが、流石にミサイルとかを持っては潜れないだろう」
携帯用の
それを持って地下を移動するのは難しいだろうし、地中から撃てる物でもない。
「バイクの新調も、ほぼ終了したし、そろそろ中国に行く予定でも立てるか?」
超小型原子炉や新機能を搭載する関係で、バイクのフレームは一から作り直したし、重量が増したので駆動系も高出力の物に付け替えた。
元のバイクから流用したのはコントロール系の一部のみだ。
用途に合わせてユニット交換できる兵曹も有り、メンテナンス用のキャリアトラックも作った。
「新しいバイクって、コレは三輪か?宅配でもするのか?」
元のバイクがハーレタイプだったのに対して、新しいバイクはソレの後輪を大きいまま二本にした様な形だった。
ちょっと見には気が付かない。
「前のタイプは、短距離用の水素ジェットエンジンに加えて、前輪と後輪の内側に飛行用ファンがあったので
変形機能は、武器としては無駄な物だ。
その為に余分なシステムが必要となり、重量も重くなる。
だから、少しでも【併用】できる部分がある事は重要なのだ。
「水素ジェットエンジンを外して速度は落ちないのか?」
「あれは持久力が無いし、重いんだ。とても【空中戦】に使える品物じゃあない。それに今回は、原子炉の分だけ軽くする必要があったから外したが、結果として速度は上がっている」
原子炉から供給される力で、フィンの推力は数倍になっている。
「それに、走行しながら飛行形態に移行できるから、戦闘にも有利になる。これは大きいんだぜ!」
前のバイクは前輪と後輪が宙に浮く為に、バイクを一度止めないと変形ができなかった。
だが新しいバイクは、後輪をハの字形にすると後部に浮力が生じ、前輪でバランスを取れる。
ライダーはバイクに乗ったままシートに寝そべる様な形になるだけだ。
後輪は左右に大きく開く形で変形して向きを変え、バイク全体を前のめりにしていく。
浮力を増しながら変形し、一輪車付きのドローンの用になってから、飛び上がるのだ。
人工知能とバイクをセットで簡易複製して量産し、防衛省に納めてくれないかと打診があったが、「人工知能の複製ができないのでコントロールができない」と嘘をついて断った。
過去のサイボーグの死体から人工知能の残骸は入手できるのだが、生体部品が有るので使用者の死亡と同時に自壊してしまうのだ。
サーバーデータには人工知能の作り方も有るが、栗林も越智も軍拡に使わせる気はないのだ。
様々な武装を用意した辺りで、更なる刺客がやって来た。
「今度は兜虫かよ?」
速度に難は有るが、パワーと防御に特化したサイボーグが三体、銃撃を受けながら正面ゲートをぶち破って来た。
前回の襲撃と防衛省のテコ入れにより、工場のセキュリティから画像が回ってくる様になっていた。
早い話が「御宅の敵は御宅で処理してくれ」と言う話なのだ。
「コイツには徹甲弾や劣化ウラン弾もダメなんだよなぁ」
タングステンの硬い装甲とジェル状の組織を組み合わせた大きな体格で、かなりの防御力を持っている。
それ故に擬態はできず、特殊な場合のみに用いられる少数サイボーグの筈だ。
クリケットに変身した栗林は外に出て、護衛として待機している自衛隊員に声を掛けた。
「敵は戦車並みのサイボーグ三体です。最初はRPGで迎え撃ちましょう。協力をお願いします」
声を掛けられた待機の隊員達が、武器庫となっている車両に飛込み、装備を整える。
「誘導の可能性も有りますので、巡回班は現状維持にしますが宜しいか?」
「そうですね。大丈夫です」
「了解です」
班長らしき隊員が確認してきたが、流石だ。
数人の隊員を越智の為に残して、四人の隊員がクリケットに同行した。
ゲートからの動線で手頃な場所を見付け、セキュリティに連絡を入れて待避させる。
一名を伏兵として隠れさせ、クリケットを含む四人がサイボーグを待っていた。
やがて、警備隊に遠巻きに囲まれたサイボーグ達が姿を現す。
サイボーグ達はクリケットの姿を確認するや否や、駆け足となって突進してきた。
現代の実戦に前口上など不要だ。前の蝉達がおかしいのだ。
クリケットは真後ろに、自衛隊員達は左右に別れたが、兜虫サイボーグ達はクリケットだけを目指していた。
後退りしながら放つクリケットの砲撃を合図に、残り三方から同時にRPGが放たれ、二発は外れたが三人共が負傷を受けていた。
しかし、RPGの直撃でも倒れはしない。
「次の装填までに潰すぞ!」
一瞬動きが止まったがサイボーグの一人が叫び、再びクリケットに向かって走り出した。
RPGの次弾装填前に片付けるつもりらしい。
「コレを個人に使うのは気がひけるんだが!」
クリケットは事前に後方に置いていた別の兵器に手を掛ける。
幸いにも兜虫サイボーグは固まったまま突進してきていた。
「まだ大丈夫なのか!じゃあコレならどうだ?」
クリケットの放った兵器は、サイボーグの外皮を撃ち抜く事は無かったが、内容物が広範囲に散らばった。
「こっ、こんな物がぁ~」
激しい炎が三体のサイボーグを含む範囲を襲う。
「蟻用に用意したナパーム弾なんだが、中身が蒸し焼きになるだろう?」
ナパーム弾は、第二次大戦でも使われた燃焼系の油脂焼夷弾で、対象物を千度以上で加熱する物だ。
アメリカでは廃止されているが、使用が禁止されているのではない。
クリケット達はソレを個人で使用できるサイズにしていた。
規模は小さいが、再装填して複数撃ち込む事で威力を増している。
「どんなに強固な装甲でも、中身は生身だから無事ではいられないだろう」
流石の兜虫サイボーグも歩みを止めて膝をついた。
伏兵として待機している隊員が、状況をビデオ撮影している。
この兵器なら既存の兵器の応用であるし、密集地や森林以外なら有効に使えるのだ。
「生物兵器に固執するのはポリシーなんだろうが、限界があるだろうに」
クリケットは徹甲弾で、まだ燃えるサイボーグ達の頭を至近距離の後ろから撃ち抜いた。
反撃があるかも知れない正面や側面から狙う事はしない。
「状況終了」
敵を片付けて周囲を確認し、自衛隊員が連絡を入れたあと、その一人がクリケットに近付いて来た。
「・・・クリケット殿、今回の実戦は大変参考になりました。他のサイボーグの性能や対応案も参考になってますが、実戦にまさる物はありません」
「私も経験が豊富な訳では有りませんから最善の方法かは分かりませんし、相手のパターンも変わるでしょうから、どこまで参考になるか分かりませんよ」
相手も人間だから、戦術を用いてくる事も有るだろう。
ただ、実戦では常に臨機応変な対応をしなくては勝利できない。
実は伏兵の他に、先日より改良した攻撃型ドローンも控えさせていたのだ。
後に、防護服一式とリトルナパーム弾、徹甲弾ライフルなどが防衛省の特殊部隊に配備されて、世界中へと飛び立つ事になる。
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