第11話 蜚蠊ゴキブリ
漢字では【蜚蠊】と書く。
一般に【ゴキブリ】と呼ばれるのは、食器をカジる意味の【
他に【アブラムシ】の名称で呼ばれる事もあるが、植物にとりつく胡麻粒大の害虫【アリマキ】も【アブラムシ】と呼ばれる事が有るので日本の分類学では【ゴキブリ目】という分類名になっている。
分類上で一番の近似種は俗に【シロアリ】と呼ばれる昆虫で、【アリ】と呼ばれているが蟻の近似種ではなくゴキブリの近似種だ。
英語圏では【コックローチ】と呼ばれている。
日本では3センチ前後の物しか見掛けないが、オーストラリアの【ヨロイモグラゴキブリ】は、全長8センチにも至る。
ほぼ雑食で、塩やハーブ系以外は何でも食べる。
つまりは、人間の食べるものや木材までも喰らう昆虫なのだ。
元が熱帯産なので、寒冷地には生息していないが、暖かな人間の生活圏に入り込み、日本では北海道の家庭にまで進出している。
現代日本では忌み嫌われているゴキブリだが、タイや東南アジアを始め、日本でも昔は唐揚げや塩焼き、天ぷらとして食べられていたらしい。
「世界では、既に10億人近くが食糧不足で苦しんでいると言うのに、更に増えるのか?」
「その割には日本のコンビニでは毎日、各店舗から数十キログラムの食品が廃棄されてるらしいがな」
世界の食料事情について言う公安職員に対して、協力者の野崎が食品廃棄する日本の現状を非難した。
因みに、Beeingに所属していると思われる穀物生産大手の【エバーナチュラル】は、ガラス張りの鉄筋コンクリート施設内で作物を栽培しているのが特徴だ。
空調も給水もフィルターを通している上に、肥料や堆肥も熱処理されている徹底ぶりで、天候などには左右されない。
普段は太陽光を反射鏡を通して利用しているが、曇りが多ければ特殊なライトで補っている。
更には種植えから出荷まではロボットアームで作業しているので、完全滅菌状態とも言えるのだ。
当然だが、病気や害虫の影響を殆ど受けない。
それ故に、コスト高だが食糧の安定供給の面で株価も上がっている。
「最近、エバーナチュラルが農地を買い漁っているとは聞いていたが、まさにマッチポンプじゃないか?」
「ゴキブリで農家を破産させ、土地を買い叩いて勢力を拡大させていくのか!」
Beeingとエバーナチュラルの関係に気付かないと、真相は見えて来ないだろう。
大ムカデと蟻騒ぎもおさまり、ケガ人も救急車での搬送を終えた。
最終的には半分近くの蟻が防衛省や民家の方にも逃げたが、大量に噛まれなければ致死量にはならない様なので放置された。
無理に遺伝子操作された蟻の為か、後々の処分の為か、サンプルとして捕まえた蟻も、数時間後には息絶えてしまった。
「この騒ぎは、いったい何なのかね?責任者を呼びたまえ」
とりあえず騒ぎが収まったコノ時点で、防衛省の方から武官達がやって来た。
「おいおい、俺達にも説明は有るんだろうな?公安さんよぉ」
とんでもない騒ぎに巻き込まれた交通機動隊も、話を聞きに集まって来ている。
「まぁ、長い話になるし、とても信じられない内容だけど、聞きますか?」
「他に事実が無いのなら、聞かなくてはならないだろう」
「では、公安も機動隊も、それぞれ五人づつ来てくれ。残りは後始末を頼む」
武官に呼ばれて、越智とクリケットを筆頭に主だった数人が防衛省の方へと向かった。
約一時間後。
防衛省のA棟にある会議室の一室では、自衛隊員と機動隊が説明を受けて頭を抱えていた。
勿論、自衛隊の方もクリケットが洗脳者の判別を終えた者達だ。
「この提示してもらった生体サイボーグの設計書と、あの大ムカデ。更には、その【クリケット】君は、確かに一致している様だ。軍事利用に違法なサイボーグが存在する事は確からしいが、自然環境保全の為に大量の人類を間引きするとか、洗脳、世界的な企業の結託などは
洗浄を終えたクリケットの周りには、武装した自衛隊員が銃を構えたままだ。
素顔もさらさない違法サイボーグに対する対処として、彼は甘んじて受け入れていた。
この場には野崎も連れてきているが、防衛省に来てからは口を閉ざしている。
「この情報を信じようと疑おうと勝手だし、Beeingの行動が人類の未来の為に成ろうが成るまいが知った事じゃない。俺は勝手に、こんな体にされてしまった【私怨】で奴等と戦う」
「公安も、クリケットに協力したいと考えています」
額に皺を寄せる者達に、クリケットと公安は言い切った。
洗脳者や協力者が居るかも知れない警視庁全体が、この話を信じるかは兎も角、組織内部に【蜂女】と言うサイボーグを紛れ込ませられた公安としては、このサイボーグ組織を潰さなければおさまらない。
「あのサイボーグや毒蟻の検証は防衛省のほうでもさせてもらうが、君達に協力するかどうかは上の判断を待たせてもらう。良いかね?」
「勿論です」
公安としては、違法なサイボーグによる誘拐や破壊活動の捜査として認証されている。
その為に【人類の間引き】などに関しては、その延長として対応するつもりらしい。
ただ、Beeingの本体や協力企業に関しては物証も無いので手が出せない。
いや、有っても国から圧力が掛かるだろう。
「こうして防衛省と知り合えた機会にお願いしたい事が有るんですが、大丈夫でしょうか?」
「内容によりますが?」
話を持ちかけたのは越智だが、実際に要望しているのはクリケットと言うか栗林だ。
「三菱重工さんを御紹介いただけないでしょうか?Beeingと戦う為に作りたい物が有るんです」
「何かを作らせたい?または施設を使いたいと言う話でしょうか?まぁ、紹介はできますが、受け入れてくれるかは別ですよ」
三菱重工は、日本製の戦闘機や戦車をも作っている企業だ。
そう言った意味で、防衛省との繋がりは深い。
「対価に、この詳細情報を提供すれば大丈夫だと思いますが?」
越智達の元には、Beeingの持つ違法サイボーグを作る技術や、一部の核融合炉技術の情報がある。
日本の防衛兵器を作る三菱重工から見ても、オーバーテクノロジーな物が多いだろう。
各々が秘匿された技術である為に、国際特許などはとられていない。
「自信があるなら、紹介も
「助かります」
三菱重工にテクノロジー的な発展が有れば、それは国防用兵器に転用されて自衛隊員の延命にも繋がる。
クリケットなどの表皮は防弾性も高く軽量で動きやすいらしいので戦闘服などに流用できるのではないかと武官も感じたのだろう。
説明が終わって部屋を出た一同の中で、クリケットだけを押さえる手があった。
制服の襟章から、先程までの武官よりも上司なのが分かる。
勿論、他にも数人の隊員が随行している。
「こっちで、もっと話せないかね?クリケット君」
「貴方は?」
「中川と言う者だ。一等陸佐を拝命している」
「海外で言う陸軍大佐さんですか。そう言えば、さっきの部屋にはテレビカメラがありましたね?でも俺は越智と離れる訳にはいかないんで、一緒でも良いなら」
「そう言う事なら仕方ないな」
クリケットは越智の肩を掴んで、頷く陸佐の後を追った。
招かれたのは、先程の様な会議室ではなく、ちゃんとした応接室だった。
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