第二章 十五話「巨大なカラス」

in 恋夜祭こいよまつリ 異界


アヤ『全部終わったんなら、そろそろ帰るぞ』


袮遠ねおん「そうだね、それじゃあ『異界の廻廊』を開くから」

袮遠は『異界の廻廊』を開くため、地面に青黒い魔法陣を一瞬で刻ませた。


澪菜れいな「...ッ」

(...たった短時間だけだったけど...あの女神様、本当にいなくなっちゃったの...?)

とても暖かい笑顔と、手を握られた時に感じたあの体温を思い出すと、涙が出そうになってしまう。


チラ、と空中に揺蕩たゆた金色こんじきの管狐へ視線を向けるも、ただその可愛らしい目がじいっと

澪菜を見つめ返してくるだけだった。


澪菜「...ッふぅ……これから宜しくね」

気持ちの整理がつかない心中を、深呼吸で無理やり沈ませてから、人差し指で管狐の眉間から頭までを撫でる。


澪菜「ッッッ!!!新感覚のモフモフだ!!!」

管狐くだぎつね『!?』

急に両目を光らせて大声を上げた澪菜に驚いたのか管狐が1歩飛び退く。


澪菜「い、一緒に寝よう!今日から!」

管狐『!!』

管狐はクリクリとした黒い目を彷徨よわせて思いっきり頭を左右に振る。


袮遠「...君は何一人ではしゃいでるんだい?」

澪菜「何って、だって!こんなモフモフ!

ッて、待ってよ、何その目!?」

袮遠「引いてるんだよ、見て分からないかい?」

澪菜「分かりたくもないわそんな悲しい!」


袮遠「はぁ...僕は君の「モフモフ大好き精神」が五歳児すぎて悲しいよ」

澪菜「人の好きなモノを哀れまないで下さいます?そんなに言うなら袮遠だって触ればいいんだ!」

管狐『!!』

管狐をそそ〜ッと抱えて、袮遠に近づく。

袮遠は途端に眉間に皺を寄せてとんでもなく嫌そうな顔をした。


袮遠「いいかい?その狐を、僕に、近寄らせたら許さないよ?」

澪菜「へ〜?袮遠は狐が苦手なのか、メモメモ

( ・ω・)φ…」


アヤ『...ぷ、お前、袮遠にビビらないのか?』

澪菜「ビビる?何処にですか?」

アヤ『...図太いな』

澪菜「怪異とか、ユーレイとかはもう見慣れてるし、神だって居るんだろうな〜って思えばいいやって思ったんです」


袮遠「「思った」んじゃなくて、それは考えるのが面倒臭くなった「思考停止」って言うんだよ?覚えときな?」

澪菜「...」澪菜はジト目で袮遠をじとーっと睨んで、スッ…と管狐を抱え直す。


袮遠「……僕が言ったこと、もう忘れたのかい?」

アヤ『袮遠、相手してやれ、人の子っていうのは偶に無知で無邪気なんだよ』


澪菜「ちょっと!なんで私が構ってちゃんみたいにされてんの!?ちゃうよね!?袮遠から話振ったんじゃん!」

袮遠「澪菜に関しては無知なだけじゃないの?」

澪菜「神様から見たらそうかもだけど!本人の前で言う!?」


オーヴォン紅『楽しんでる所悪いけど、早く帰らないと』

オーヴォン黒『ああ、恋夜祭リに跋扈ばっこしていた低級の妖怪共が集まってきているぞ』


澪菜「へ?」

その瞬間、澪菜の両肩にズッシリとしたナニカが乗った。

上を見上げた澪菜の視界に移るのは、青い空ではなく、真っ黒な体毛だった。


そしてその怪物は、けたたましい、ガラガラなカラスの鳴き声を発して澪菜を掴んだまま上空に上がる。


オーヴォン紅『澪菜!』


澪菜「なに!?これ!?カラス!?!?」

地面から足が離れる、地に足がつかない恐怖を覚えた。


その時、

『キーーーーーーッ!!!』

と切羽詰まった鳴き声が響きわたり、

澪菜の肩を掴んでいるカラスの片足を

天日結姫命あめの ひむすびの ひめのみこと御使おんしである管狐が力強く体当たりした。

瞬間、管狐から放った金色の光の粒子がカラスの片足で弾けた。


すると、カラスが痛みに鳴き叫び、澪菜を

落とした。


澪菜「ッうぇぶ!」

あまり地面から離れていなかったため、

尻もちを付いたくらいで済む


巨大な体躯のカラスは、すぐさま体制を整えて再び澪菜へ向かう。


澪菜の前に管狐が口を開けて威嚇しながらカラスと戦おうとする。


すると、突然巨大なカラスの体に青黒い光を灯した巨大なチェーンが絡みつき、地面に縫い付けられた


袮遠「そうだった、君たちカラスのこと忘れてた」


袮遠は鎖に絡め取られたカラスの前まで歩き、目を合わせる。


袮遠「恋夜祭リに来る前から、今まで、

僕たちの前にどうして立ちはだかるのか理由が知りたかったんだよね」


まるで尋問を続ける非道な人間の様に

カラスを見つめていた。


すると、巨大なカラスは体から黒い粒子が出てきて霧散していく。


袮遠(…このデカブツも本体じゃないのか…逃げる術を持たされているってことは、

捨て駒としては惜しい逸材ってことでもあるし...あ〜…分からないね〜、本当に面倒臭いよ)


澪菜「...え、えっと?た、倒せた...?」

澪菜は掴まれた肩を抑えながら袮遠に近づいて聞く


袮遠「ん〜...倒せてはないよ。霧になって逃げられた」


アヤ『逃がして大丈夫なのか?』


袮遠「さあ?どうだろうね、まぁ僕はこれ以上面倒事には首を突っ込みたくないし、向こうから出向いてくるまでは何もしない、てか出来ないね」


澪菜「...はあ、なるほど?」

オーヴォン黒『ではそろそろ帰ろう、この場に低級妖怪共が入ってきたら面倒だ』


袮遠「うん、そうだね。じゃあ帰ろっか」

澪菜は神社の柱に寄りかからせた五織いおりに近づいて、おんぶしようとした。だが、意識のない人間は澪菜の想像よりもずっと重かった。


オーヴォン紅『...僕の背中に乗せればいいよ、今にも澪菜の血管がはち切れそうだし』


澪菜「ッえ!?私そんなに顔真っ赤だった!?」

力みすぎて顔が真っ赤だったらしい、

オーヴォン紅が気を利かしてくれて五織を背に乗せてくれた。


澪菜「ありがとう〜…!」

オーヴォン紅の後ろについて行きながら

袮遠が開いた『異界の廻廊』を潜った。


『異界の廻廊』は、異界と現世を繋ぐ廊下のようなもので、数分だけ歩き続ける必要があった。


袮遠「あ、そうだ。澪菜、ちょっと話があるんだけど」

袮遠からは、「今回の件で『恋夜祭リ』を知っている人間の記憶は全て消す。もちろん五織からも異界での記憶を消す。だからうまく口裏を合わせて誤魔化してね〜」ということらしい。


澪菜「え、じゃあ空き地に集まっている理由はどう説明するの?恋夜祭リの異界に行くために集まったんだけど」


袮遠「うーん、灯坂ともざか 五織の目撃情報がその空き地で出たから、3人で探していると夜になったー、とかって言っとけばいいんじゃない?」


澪菜「そんなてきとうな...」

てきとうだと思ったが、一応はうまく誤魔化せる理由だと思ってそれを使うことにした。


しばらく歩いていると、廻廊の奥が白く輝いていた。


その光の中を全員が潜り、眩しい視界から

開放されるとそこは、あの、皆で集まった

空き地に立っていた_____

_______続く。


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