第二章 十四話「お礼」

月詠尊亭つくよみてい_営業時間終了――。



???「…ふぅ…今日の占いも、やっぱり味気ないモノばっかりだったなぁ」


夜鴉よがらす『ここ最近の時代、昔ほど神や悪魔などを信仰している人間は減少傾向にあるからな…。だが我はここ数日で、目新しい…実に面白いモノを発見したぞ?』


???「ふふ、百年近くも生きてきた君が言うのなら面白い話のネタだろうね」

夜鴉『?聞かぬのか?』

???「聞いたって、君のことだ、何か要求するのだろう」


夜鴉『当たり前だ、我は貴様と【従属契約】など交わしておらぬからな』

???「契約しようよ」


夜鴉『断る。貴様と契約など、どんなにこき使われるか目に見えておる』

〈…だが、我の眷属が重症を負ったこと、消息を絶ったこと…

だいぶ分厚い『状態変化魔術』が施された黒髪の男のことも…まだまだ情報不足だ〉


―だがこの事態は、実例が無かった訳ではないが…十分そそられる事態だ


もし仮に、我がこの件に介入したくなった時は、この男との〈契約〉も、考えなければならぬな――


???「…はぁ、何故か『恋夜祭こいよまつリ』の状態は観察出来ないし…暇だなあ…」


__________________

in 恋夜祭リ―異界―


五織いおり「…これが、私が恋夜祭リを知ったきっかけです…」

祢遠ねおん「なるほど~…」


『恋夜祭リ』

『恋』の神でもある〈縁結びの神〉

『夜』、逢魔時にのみ力が増幅する邪のモノ

本来なら相容れない者たち二つを「祀る」ことが実現できるように造られた「異界」、そこが恋夜祭リの世界…。


祢遠(なるほどね…この人間が恋夜祭リを知った理由は分かったし、大方はオーヴォン達が調べてくれた情報で予測は立てれた…)


五織「あ、あの…私、元の世界に帰ることが出来るんですか?」

五織は不安そうな顔で、縋るように澪菜れいなと祢遠を見る。


澪菜「もちろんです、そのために…五織さんを連れて帰ることを目的に異界ここへ来たんですから!」

フフン!と得意げに胸を張って安心させる。


澪菜(…実際は、祢遠達がここまで助けに来てくれたおかげで多分無事に帰れるから、心配はいらないと思うけど…帰ったら説教かなあ…)

澪菜は伝えてここまで来なかったことを後悔しながら、祢遠に視線を向ける。


祢遠は異界に踏み入った時、オーヴォン達に異界のことをできる範囲で調べてもらっていた。


祢遠「…それじゃあ、情報提供ありがとう。悪いけど帰るまでは眠ってもらうよ」

五織「え、どうい」

瞬間、オーヴォンアカが姿を現して、五織を赤い濃霧の中に閉じ込めた。

一瞬で五織は意識を失って、後ろに倒れるところを慌てて澪菜が支えた。


澪菜「ちょいと、手荒すぎない?」

五織を神社の柱に寄りかからせて、祢遠の方へ歩いていく。

その時、『天日結姫命あめの ひむすびのひめの みこと』が澪菜の前に立った


天日結姫命「…助けてもらっておきながら、こんなことを言うのは少々気が引けますが、なぜ邪神あなたが清神である私を助けたのですか?」


祢遠「別に、君を助けようと思って助けた訳じゃない、君が助かったのは僕の計画の中の通過点でしかない、勘違いはしないでくれ」


澪菜「ちょ、そんな言い方」

天日結姫命は片手で澪菜を制して、

『大丈夫です、私は気にしていませんから』と、澪菜に言った。

澪菜は押し黙って、事の流れを見守る。


天日結姫命は、祢遠へ向き直る。

天日結姫命『それでも助かったことは事実ですから、ありがとうございました』

『最後に』と、天日結姫命が続ける。


天日結姫命『やっぱり、澪菜さんと契約、していますよね。理由をお聞きしても?』

祢遠「…はぁ、君は縁を司る神だもんね、嘘は付けなかったみたいだ。

それについては君の神域の中でも言っただろう、契約内容も理由も答える気はないよ」


天日結姫命は、眉を顰めて、悔しそうな顔をしながら澪菜へ向き直った。

天日結姫命『…澪菜さん。私が助かったのは、あなたのお陰でもあります。

これはお礼として、貴方の…貴方だけのために、私の御使おんしを授けます』


澪菜「おんし?あ…」

天日結姫命は、澪菜の両手を優しく包み込み、祈祷きとうした。

瞬間、澪菜の体から金色に輝く光の粒子が飛び交う。


澪菜「え…ええ!?」

驚いた澪菜の目の前に、淡い金色で美麗な毛並みを持った、超小型サイズの『狐』が現れた、その瞬間、苛立ったように後ろで祢遠が舌打ちした。

そんな祢遠に、天日結姫命は『これはこの子のため、私に出来る最大の加護』だと言い、澪菜に向き直る。


天日結姫命『いいですか?この子は、古い時代、日本の伝説で存在した〖管狐くだぎつね〗または〖飯綱イヅナ〗と呼ばれる妖です。


低級な者から、大いなる者、鬼や悪魔などに渡り合える力を持つ個体もいます。この子はその妖の中でも、神と同等の力にも渡り合える、私に仕える〖御使〗です。


これからは貴方に憑かせて貴方を護る存在として傍に置きます。…私には、もう時間がありません。私が消滅すれば、御使であるこの子も消えてしまいます。


ならば、せめて、邪神と契約を交わした、これからの道も危険な可能性もある貴方を護りたいのです。私は縁結びの神です、御使を人間へ移すことなど容易いこと』


ゆっくりと、天日結姫命の手が薄らいでいくとともに、管狐が澪菜へ近づいていく。


天日結姫命『詳しいことは、今日の夢で、その子が話してくれることでしょう…。どうかお礼を言わせてください。私を…贄とされた彼女たちを、魔物の中から解放してくれてありがとう…』


澪菜「ッ私こそ、ここまでして護って下さって、本当にありがとうございます!」

澪菜は首を高速で下げて、お礼を告げる。


管狐がお辞儀をしていた澪菜の額を下から持ち上げて、上を向かせる。

すると、ちょうど、澪菜へ温かい笑顔を見せた天日結姫命が、白い光の粒子となって霧散していく瞬間を見た___________



__________続く。












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