第二章 六話 「救出」

in 空き地


純華(スミカ)「…澪菜(レイナ)…!?ッやっぱり、澪菜だけ…飛ばされたんだ…」


純華は膝から崩れ落ち、祠の前で膝を着いた


悠露(ユウロ)「…篠塚(シノヅカ)、大丈夫か?」


純華「…先輩、澪菜ッ…」


悠露「…こうなる可能性は高かったんだし、俺たちは信じて弥雲(ヤクモ)さんを待っていよう…」


純華「…ッはい…」


『……カア゙ア゙ア……』


その2人の様子を、黒く大きいカラスが木の幹から見下ろしていた。


悠露「…?おい、篠塚…変なカラスがいる…」


純華「…カラス…ですか?」


視線を向けると、空き地の地面にカラスが立っていた。…まるで逃げ道を塞ぐかのように


カラスは何重にも重なったような声で、

純華たちを威嚇する。


純華「ッな、なに!?」


悠露「…ッ篠塚、離れよう…。」


横道へ出ようとした時、カラスが飛んで

2人へ迫ってきた。


純華「ッいや!」

悠露「ッなんなんだよッ…!」

2人が目を固く閉じた時、

べチィッ!と、ビンタのような音が響く


バサッと、何か重いものが落ちたような音が鳴り、2人は恐る恐る目を開ける。


見ると、 先程の大きいカラスが、頭から真っ赤な血を流して横たわっていた。


純華「ッひぃ!?」

悠露「ッ一体なにが…」


カラスの近くには、普通に道中で見つけるようなサイズの石ころに、赤い液体が着いて転がっている。


「ごめんね、驚かせてしまったかな?」


純華「ッ!?え…ッえっと、ど、どちら様でしょうか…?」


2人の前に現れた、高身長な男性は、形のいい唇を開いた。


「…弥雲 澪菜の彼氏…♪」

_____________

in 異界

〜数十分前〜




澪菜はそっと女性の背中と肩に手を置いて、小さくゆっくりと揺らした。


澪菜「大丈夫ですか?意識はありますか?」


『…ぅ、助けて…欲しい…です…』


澪菜「私も助けたいです!縄を切るかしないと…」


金属音が何回も鳴り響く。

澪菜は恐る恐る結界を見ると、段々と亀裂が大きくなってきている。


澪菜「ッ!?ど、どうしよう!?」

頭の中がパニックになり、残りの2枚のうち1枚を取りだして握りしめる。


使うならこの札で最後にしなければならない。

護符を全て使い切ってしまっては、異界から出られるかもしれない切り札と、異界のモノ達から身を守るものが無くなってしまう。


澪菜「ッ!」

澪菜は意を決して、護符を注連縄(しめなわ)の上へ置いて、祈った。


澪菜「ッお願い!この注連縄を解いてッ!」


そう祈ると、護符は青黒く光り輝き、護符の端から霧散していく。

それと同時に、注連縄がゆるゆると解かれていき、女性は自力で抜け出すことが出来た。


黒蛇『ッッ!!シャーーーーー!!!』


大きく口を開けて怒り、突撃の一撃を結界へぶつけた。


澪菜「ッ…そんな…!」

ガラスが割れるような音とともに、結界がひび割れて散っていく。破片は床に落ちる前に空気中に溶けるように消えていった。



澪菜「ッ立ってください!走りますよ!」


そう言って、女性の腕を無理やり掴み、扉へ向かって走ろうとする。


すると、背中に鋭い痛みと衝撃を感じた。

身体がくの字に曲がった気がした。


澪菜「ッかは…!」

肺から大量の空気が口から出ていき、勢いよく壁に体を打ち付ける。


澪菜「ッいッッたぁ…!」


腰をうちつけ、痛すぎて立ち上がれない。

時間が経てば立てるかもしれないが、満足にも動けなさそうな女性がいては、時間稼ぎもできない。


女性は澪菜に腕を掴まれていたため、一緒に吹き飛んだが、澪菜ほどダメージは負っていない。


澪菜「ッ立って…!その扉から外へ!!!」


女性「ッでも…ッ貴方は…?」


澪菜「ッ私も追いかけますッゲホッ…いいから早く!」


女性は決意の目で澪菜を見て、澪菜がリュックを渡して逃がした。


すぐに後ろを振り向くと、

黒蛇の顔が間近に迫っていた…


澪菜は息をするのを忘れた_____

________

in 自宅


祢遠(ネオン)「…はあ〜、…アヤ、少しの間頼むね、

すぐ向かうから」


アヤ『…おう、分かった…』


祢遠は家の鍵を持って、ズボンのポケットに入れて、玄関のドアを開けて外へ出る。


エレベーターを使う時間も勿体ないので、

祢遠は解放廊下の柵の上へ乗り、

一気に飛び降りた。


祢遠「ッよ、と…急がないとね…」


祢遠は軽々しく着地して、アヤが使っていた魔術の応用版を連続で使用していく。


恋夜祭リの祠が置いてある空き地の座標値に向かって【圧縮型魔術】を使い、道と道の距離を限界まで圧縮して強制的に短縮し、

最短ルートで空き地へと向かった___


オーヴォン黒『ッ!おい主、祠の前、人間が2人いる…』


オーヴォン紅『カラス(幻獣)も居るよ!』


祢遠「…面倒臭いなぁ…色々聞き出したいから、人間は生かすか…」


適当に、そこら辺に落ちていた小石を魔術で引き寄せて拾う。


祠への道のりで最後のルートを辿り、空き地の前へたどり着く。


案の定、澪菜と同い年くらいの若い人間が祠の前で

カラスと対峙していた。


祢遠は今いる位置で、小石に魔力を貯め、

軌道を調節してカラスへ思いっ切り投げつけた。


羽を広げて飛んだカラスの横顔へ小石が激突し、

そのまま横に吹っ飛ぶ。


(脳震盪を起こしたか、死んでるか、まあどっちでも興味は無いけど…)

祢遠は早歩きで2人の前に現れた。


純華「ッ!?え…ッえっと、ど、どちら様でしょうか…?」


祢遠(…ぅーん、この前の隣人さんとの時に使った誤魔化し方は〜…)


祢遠「…弥雲 澪菜の彼氏です♪」

ニッコリ満面の人当たりの良い笑みを浮かべて、

なんの悪びれもなくそう言った____


____続く



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