第二章 五話「行方」

______


「…ぅ…ぁぁ…苦しい…助けて……ッ悠露(ユウロ)…私が…疑って…しまったから……」

もう何回目かも分からないくらいに涙を流して、

幾本もの涙の跡が残る____





澪菜(レイナ)「…ぐへ…もう動けない…」


澪菜は、神社の長い階段の両脇にある茂みを掻き分けたり、神社の広い境内を回ったりと、五織(イオリ)さんを探したが全く見当たらなかった。


探し疲れた澪菜は、神社の本殿の中に勝手ながら上がらせていただいて、横になった。


辺りは来た時から空も黒で夜だ、でも、そろそろ眠くなってきたということは、寝る時間である2時くらいなのだろう。


22時に純華の家へ行ったのだから、それくらいになっていてもおかしくない。


澪菜「…寝てもいいかな…でも危ないか…」


むくむくと重たい瞼を擦りながら、寂れた木材の床に座る


立ち上がって、五織さん探しを再開した。



神社の拝殿の前には、吊り下げされている

本坪鈴(ホンツボスズ)があり、その下には賽銭箱がある。


澪菜「…あれ?賽銭箱が割れてる…」

割れた賽銭箱を見て、少し地面に転がっていたものを拾い上げた。


澪菜「?え、これって…小判?小銭じゃなくて?」


他に転がっているのは、小判だったり、今では使われていない500円札、知らない顔写真が載ったお札


澪菜「…もしかして、だいぶ昔の神社なのかな?」


掃除する人も、参拝するような人も居ないような異界で、こんなに綺麗な状態を保っていられるだろうかと不思議に思った。


その時、『…だれ…か…ぁ…』と、か細くて、消え入りそうな声が聞こえた。


澪菜は急いで、声のした方向。拝殿の中へ足早に入っていった___



アヤ『ッ待て!』姿を消していたアヤは、姿を消す術は解かずに叫んだ。


アヤ(奥に入るのは流石にまずいぞ…ッここは姿を出して、強引にでも異界の外へ…)


祢遠(ネオン)『…アヤ?』


アヤの額には、冷たい汗が伝った。


自分の頭の中に流れてきた声は、何重にも重なり、

空気が震えて音が割れたような、そんな声だった。



アヤ『…祢遠…お前、本当に見放すのかよ…?』


祢遠「見放すなんて、人聞きの悪い…。自分の身をもって危険を知って貰わないと、ボクがここまで動いた理由が無い。」


『黙って傍観する』…なんて神らしく、慈悲が無いのだろうか__


アヤ『…俺の主は、「兆志(キザシ)」だ。』


祢遠「…なに?店長からなんか言われたの?」


アヤ『…ああ、動ける範囲で、人の子を守ってやれってな』


祢遠「…ふぅん?動ける範囲で、なら、まだ見ててもいいだろう?」


『大丈夫、殺させはしないから』

と、気味の悪いあの声で言われる。

アヤは渋々了承して、澪菜について行った。


兆志の命には、もう1つあった。

「『祢遠の言うことには、従うこと』…お前の身が危なくなるかもしれん」


アヤ(俺は別に、人間がどうなろうと知ったことではない…どうでもいいことだ。だが、従魔である俺は、主の命には絶対、例え何が相手であろうと、黙って主の命令に従わなければならない…それが、

契約を交わした者の末路だ…)




澪菜の耳には、

リン…と、鈴の音が、割と近くで聞こえた気がした



___________

in 拝殿の奥



澪菜「…ッと、スマホ…スマホのライト…」


澪菜はズボンのポケットからスマホを取りだして、

ライトをつけた。


澪菜「…ッ…扉?」


大きい、両開きの扉があった。

澪菜は扉に耳を傾け、向こう側の音を聞く。


ギチギチ…ギチギチと、何かを締め付ける音と、

小さなうめき声のようなモノが聞こえてきた。


澪菜は息を呑み、巾着袋に入れて置いた『護符』を1枚取りだして、握りしめる。


…肝心な護符の使い方が分からないが、持っているだけでも効果があるかもしれない…。



澪菜(…失礼します…ッ)

澪菜は恐る恐る、両開きの片側の扉を少しだけ開けた。


澪菜「ッ…!」

鼻を刺すような異臭、血生臭くて、排泄物のような臭いがする。何かが腐ったような、腐敗臭のような臭いも。


澪菜は匂いの影響で目が染みて、目尻に涙が浮かぶが、ジッと奥の暗がりを見つめる。


目が暗闇に慣れてきた頃、澪菜はまた息を呑んだ。


_____


太い注連縄(しめなわ)が、部屋の両脇にある大きい原木の丸太に括り付けられていて、丸太の間には

髪の長い、女性が倒れ込んでいる__


澪菜は駆け寄ろうとしたが、足が動かなかった。

辺りを見回して、安全の確認が出来ればすぐにでも駆けつけないとと思い、視線を彷徨わせる。



澪菜「…え」

澪菜は、丸太に絡みつくようにいた、とてつもなく

長くて大きい、紅い瞳を持った巨大な黒い蛇が、

暗がりの奥から澪菜を睨みつけていた。


蛇に睨まれた蛙状態になり、本当に足が動かない。

頭も真っ白になり、蛇の真っ赤な双眸から目を離すことなんて出来なかった____。


澪菜「…ッ」


澪菜(…ッここまで…来たんだ…。五織さんを助けるために、ここまで色々準備も重ねて…。純華だって、本当なら自分で五織さんを助けたかったはずだ…)


澪菜は勇気をだして、1歩だけ前へ進む。


黒い蛇は、より一層睨みつけて、鋭い2本の牙を見せて威嚇する。


澪菜「…ッぅ、臭ッ…そこに居るのは…五織さんですか?」


声は震えたが、なんとか声を絞り出す。


『…ッ!』

女性は、虚ろな瞳をして頭を上げて、澪菜を視界に捉えた。


『ッタ、助けてッ!お願いしまッ!ア゙…!』

苦しそうに呻き、力無く頭が床に着く。


よく見ると、女性の体には太い注連縄が複雑に絡みついており、足や腕は荒い縄に擦られて血が滲んでいる。


注連縄は意志を持つように、女性の体を締め上げる


2歩ほど、前に足を進めていた。


その時、突然、猛スピードで黒い蛇が澪菜に向かって口を開けて突撃してきた。


澪菜「ッぅわ!!」

耳を劈(つんざ)くような金属音が鳴り響く。


澪菜は恐怖で床に座り込んでしまった。

ふと、手元が温かく、そちらの方へ目を向ける。


澪菜「ッ護符が…」

護符が発動しているのか、青黒い光を放ちながら、

蛇の突撃から澪菜を覆うように結界のようなものが現れていた。


澪菜「…ッこれって…」

澪菜は足を踏み出すと、結界も一緒に動いた。


澪菜(…ッこれなら行けるかも…!)

澪菜は護符を握りしめたまま、女性に駆け寄った_


____続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る