第二章 四話「祭リの異界」
澪菜(レイナ)「…ぅわ…ヒト多いな〜…」
澪菜の言うヒトは、もちろん人間では無い。
黒や白ののっぺりとした影、妖怪と思われる見た目のモノたちがほとんどだった。
多くのモノたちは、屋台らしき店に入ったり、
黒い肉のようなものを食べていたり、
一見人間界と同じような祭りだった。
澪菜(…この目眩がするくらいヒトが多い中で、五織(イオリ)さんを探さないと行けないのかな…?独りじゃ厳しくない?)
自宅の机の引き出しから持ってきていた、
ずっと使っていなかった巾着袋を握りしめた。
中身は、この前初めて異界に迷い込んだ時に、
祢遠(ネオン)から貰った三枚の護符を入れてきた。
これを持っているだけでも、厄除け系のご利益が
あるのか、周りのモノたちは澪菜を興味深そうに見つめてくるが近寄っては来ない。
澪菜(…祢遠には止められると思って言ってこなかったけど…置き手紙くらいは書いていたほうが良かったかも……嘘ついちゃったし…)
___________
澪菜「…はぁ…はぁ……なに?なんでこんなに歩いても歩いても祭りから出られないの?」
ずっと周りはガヤガヤしていて、何語を喋っているかも分からないモノたちの声がずっと聞こえてくる。
こんな所に長時間もいたら、精神的にも参って、
普通の人なら座り込んで立ち止まってしまうだろう。
だが澪菜は、立ち止まったって救いは来ないことを身をもって知っている。気だるくて重い足を引き摺りながら歩き続けた。
澪菜「……ぇ?」
澪菜の目の前に見えたものは、恋夜祭リに最初に来た時見た神社の長い階段だった。
澪菜「……もしかしてループしてる…?もしそうなら、祭りの屋台を戻って来ちゃったってこと?」
澪菜は、「この神社から歩いて進んでいたのに、いつの間にか戻ってきた」という恐怖に身震いする。
ループだとするのなら、澪菜はどこに行っても
恋夜祭リの異界の中に閉じ込められることになる。
…この感覚だ。この、前を歩いていた自分を疑ってしまう現象。現実世界には、ループする場所なんて滅多に存在しない。
自分を疑い始めると、本当に何も出来なくなるのだ。そんなのは嫌だと自分に言い聞かせていた。
小さい、鈴の音が聞こえてきた。
とりあえず、精神的におかしくなりそうだった
祭りの喧騒から逃れられ、神社の石段に腰掛けてリュックを開け、中から水を取り出す。
澪菜(…普通に喉も乾くし…お腹も空いてくる…。人探しにタイムリミットがあるのってキツイな〜…)
あまり飲みすぎたり、食べすぎると、五織さんの分もなくなってしまう。
澪菜は水も食料も節約することにした。
悠露さんから預かった五織さんの写った写真を見ながら、居そうな場所を考える。
澪菜「ていうか、五織さんって、水も食料も持ってきてないよね?そんな状態で…1週間も見つかってないなら……」
嫌な予感が脳裏に浮かぶ、もう1つ、嫌な事実を思い出した。
澪菜「…私…この異界からどうやって出るか分からない…」
致命的な欠点だった。……護符に頼ればなんとかなるだろうか…。
__________
in 自宅
オーヴォン黒『…異界の様子はどうだ?主よ』
祢遠「…う〜ん…【アヤ】と共有している片目の視覚から分かるのは、異界自体はそこまで完成度が高くないッてことかな…」
祢遠は、家でアヤと別れる時、感覚を共有できる魔術を使って片目を共有していた。
祢遠の瞳は、右目が元の黄金色で、左目が薄緑色になっている。
オーヴォン紅『…そうなの?』
祢遠「うん、完成度の高い異界は、この前オーヴォンを普通サイズで召喚した異界だね、エリアがとてつもなく広い…まあ、神くらいの存在じゃないと創れないけど…」
オーヴォン紅『?てことは、澪菜が向かった異界は神が創ったわけではないの?』
祢遠「いや、創っているのは神のはずだよ。でも、力をまだ上手く扱えてないのか、不安定なのか、規模はまだ小さいね、人間である澪菜が、異界に入ってきた『入口』に再び辿り着けたのはそういうこと」
オーヴォン紅『つまり、その異界はまだ不完全で、かつ力が足りないから、ループするように創られてるってこと?』
祢遠「そういうこと♪えっと、アヤ、聞こえる?」
アヤ『聞こえている』
祢遠「アヤから見て、今の所澪菜の近くとか、祭リ自体に大きな気配は感じる?」
アヤ『いや、大きな気配は…1つだけ…だな。あとはポツポツ小さい力を持った、祭リにいたモノ達。お前が与えた護符を持っているからか、人間のこいつを襲う気配は無いぞ』
祢遠「…へ〜、あれ持っていったのか〜…残念。頼れるものが何も無い状態で、もっと強い恐怖を味わってもらいたかったけど…」
アヤ『…クソ邪神』
祢遠「僕は祢遠だよ?だぁれソレ?」
クツクツと、祢遠は惚(トボ)けた様子で笑う。
アヤ『お前、いざとなったら来るつもりなのか?』
祢遠「そりゃあね、澪菜が『死ぬ前』には出るよ、
…それまでは、何があっても出ないけどね」
アヤ『…お前は、本当に邪神の名に
恥じないヤツだな』
祢遠「そうだろう?もっと褒めてもいいよ?」
アヤ『なんで褒められる側が偉そうなんだよ』
祢遠は、本当に、ただただ楽しんでいる、悪びれない表情で笑っていた__
_____続く
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