邪神、滞在という名の居候
第7話「一人暮らし」
澪菜「…眩しッ!」
眩い光に包まれて、澪菜(レイナ)と袮遠(ネオン)は
【現界】を訪れた。
袮遠「着いたね、さあ、君の家まで案内してくれ♪」
満面の笑みで楽しそうに道案内を急かしてくる邪神
澪菜「ちょっと待って、駐輪場に停めてた自転車を…」
キョロキョロと辺りを見回すと、本屋の駐輪場に
澪菜の自転車と、2つの買い物袋が無事にカゴに入っていた。
澪菜「…乳製品…腐ってないよね?…夏だし…」
袮遠「夏?あー、どおりでなんか暑いと思った」
澪菜「暑いで終われるだけ羨ましい…」
澪菜は自転車の鍵を差して、自転車を引きながら
マンションへの道を進んでいく。
袮遠「澪菜は一人暮らしなんだよね?」
澪菜「そう」
袮遠「高校生で?」
澪菜「家から学校までが遠いから…親に頼んで…」
「ふーん」と特に興味なさげに相槌を打ってくる。
澪菜「袮遠……様?は、ずっと本屋で寝泊まりを?」
隣を見ると、袮遠は端正な顔を顰めていた。
袮遠「…え、なに急に…袮遠でいいよ。僕を信仰するなら別だけど」
澪菜「信仰!?しないッ!」
袮遠「え〜、僕を信仰すれば特別な力を得られるよ?」
澪菜「…力を手に入れた自分が他人にマウントとってる姿が想像出来てしまうのでいらない」
袮遠「別に良くない?僕の信仰者は自分より力の弱い人間に日々マウント取りに走ってるけどなぁ」
澪菜「……尚更信仰したく無くなった…」
その時、公園から子供達の楽しそうな声と、火薬の匂いが鼻を掠めた。
チラリと視線を向けると、両親と2人の可愛い子供達が手持ち花火をして遊んでいた。
澪菜「…あ、着いた、ここが私が住んでるトコ」
自転車置き場に自転車を停めて、買い物袋を持ちながらエレベーターに乗る。
袮遠「いやぁ、毎度この感じはワクワクするね」
澪菜「毎度?」
袮遠「今までも、何人かの人間のメ…女性達の家に上がったことがあるんだ」
澪菜「今…とてつもなく失礼なことを言おうとした?」
袮遠「…神と人間の関係だからね…そういうこともあるんだよ……あ、」
小さく声を漏らして、急に両手を差し出してきた。
澪菜「え?何?」
袮遠「買い物袋、1つ頂戴」
澪菜の頭は『?』マークだが、とりあえず買い物袋を1つ渡す、と、同時にエレベーターの扉が開いた。
同じ階の人が、通路に立っていたのでぺこりと会釈した。
澪菜「こんばんは」
お隣さん「あら、こんばんは、弥雲さん…あら?そちらの男性は?」
40代半ばの夫婦で暮らしているらしい奥さんは、
袮遠を見て少し楽しそうな笑みを浮かべていた。
お隣さん「もしかして、彼氏さ」
澪菜「ッちがッ…!?」
袮遠「そうです、最近付き合いを始めたんですよ」
澪菜は「何言ってんだこいつ!!」という目を
思いっきり向ける。首がピキッと鳴った。痛い…。
お隣さん「あら!やっぱり?可愛い子だからこんな夜遅くまで外に出てるなんて怖かったけど…彼氏さんが居たのなら安心ね…」
「貴方は私の両親か親戚ですか!?」という目を
袮遠からお隣さんに全力で向けた。
今度は首がミシッと軋んだ。
澪菜「ッは、はい…遅くまで昼寝してしまって買い物を…」
お隣さんはトランクを持っていたのでおそらく旅行帰りだろう。
お隣さん「旅行先でね、美味しそうなお菓子を買ってきたの、お土産よ」
どうやらお隣さんは澪菜が高校2年生の一人暮らしをだいぶ心配してくれているようで、偶に見かけると声をかけてくれるのだ。…優しい女神様だ…。
澪菜「ッありがとうございます!美味しく頂きます!!」
満面の笑みでお礼を言ってお土産を受け取り、
「それではおやすみなさい」と声を掛けて605号室に入っていく。
______________
澪菜「ッダハアァァァァァ……」
しなしなと膝から崩れ落ちて床に手を着く。
袮遠「…動物でも飼ってるのかい?」
澪菜「…失礼発言、2回目」
片手で2の形を作り、袮遠を見上げる。
澪菜「ッなんであんな嘘ついたんだよ〜…ッ」
袮遠「そっち?だって、1番めんどくさくないかなって」
澪菜「ッそうかもですけど〜…ッもういいや、とりあえず買ったやつ冷蔵庫に入れて、お茶飲んでお菓子食べて…」
袮遠「夕飯前に菓子食べるのかい?」
澪菜「…そうだ…夜ご飯まだなんだった…」
澪菜はチラ…と袮遠を盗み見る。
袮遠はせっせと買ったものを冷蔵庫に入れてくれているようだ。
袮遠は台所からリビングを見た。
袮遠「…あ〜〜……これは長い夜になりそうだ…」
澪菜「失礼な!ゴミ屋敷じゃないだけマシでしょ!?」
美麗な顔が、リビングを見て面倒くさそうな顔になった。
…なんだろう……なんか凄いショックだ…。
ー現在時刻 PM 22:00ー
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