第6話「店主との別れと本」
in本屋__
澪菜は店内で隅の方にあるベンチに腰掛け、縮こまって座っていた。
目の前にいた子供の邪霊達、空き地で襲ってきた
女性から伝わる無念と呪詛の言葉。
店内なら安全だからと、澪菜はベンチに座って、
店外に広がるむごい姿をした邪霊たちを魔術とやらで片付けている店主と祢遠の様子をぼんやりと眺めていた。
店主と一緒に面倒くさそうに後片付けをしている祢遠も、手慣れたように魔術を使って掃除している
澪菜(魔術なんて…存在したんだなぁ…ファンタジーとかで、画面の向こう側にしか存在しないと思ってた…今でも思ってる)
他人事のように思いにふけっていると、自動ドアが開いて祢遠が入ってきた。
祢遠「なに辛気臭い顔してんの?」
ムスッとした顔で澪菜は祢遠を見る。
澪菜「…そんな顔してないです」
祢遠「あ、もしかして、可愛そうだとか思ってたり?」
口角を上げてからかってくるような口振りで話してくる。
澪菜「いや…まあ…邪霊もあの女性も、なにか情念とかあるんですか?」
祢遠「あるから長年ずっと同じ場所に滞在してるんだよ、井戸の怨霊だって、あれじゃ消滅しないし…別に成仏させてやる義理もないけどね」
澪菜「成仏させることが出来るんですか?」
祢遠「僕は神だからね、成仏させてやれないことは無いよ?…なに?成仏させてあげればいいのにとか?」
澪菜はドキッとした、その黄金の瞳は一体何処まで見透かしてるんだ。
澪菜「…出来るなら、成仏させてあげたくないですか?」
祢遠は信じられないという顔で澪菜を見た。
祢遠「なんで家族でも親戚でもない僕が、良心で成仏させてやらないと行けないんだい?成仏は他の魔術とは違う、【神術】とか【霊術】の部門で、魔術よりも複雑な構築術なんだよ、(イコール)=めんどくさい、これが理由」
店主の座っていたカウンターの席に腰掛けて、長い足を組みながら語る。
澪菜はチラ…と自分の手元にある護符に目をやった。
「それなら…」と祢遠に視線を戻して喋ろうとした時、ベンチに腰掛ける澪菜と目線が合うように屈んだ祢遠が目の前にいた。
澪菜「ッむぶ!」
真っ直ぐ澪菜の口元を手で覆ってきた。
祢遠「確かにソイツ(護符)を使えば怨霊を成仏させることは君にも出来る…だがその護符を何のために君に渡したか、その真意を見誤ると死ぬよ?場合によっては三枚の護符を使っても成仏させられないモノもいる」
澪菜は驚きで目を見開く
邪神の魔力が込められた護符三枚でも成仏しきれない怨霊…どれだけ現世に未練と恨みをもって留まっているのか皆目見当もつかない。
店主「…なんだ?お前達仲良くなったのか?」
祢遠「まあね、宿も提供してくれるって約束もしてるよ」
澪菜「あれが約束?了解しないと死ぬ場を設けられたら誰だって頷くしかないでしょ…」
澪菜は「あ、」と声を上げて祢遠を見上げる。
澪菜「…そういえばだけど…家を提供する期間はどれくらい…?」
祢遠「ん?未定だよ?結構居座るんじゃないかな」
自分のことなのに他人事のように、無情に告げられた。
澪菜「…素性も知らない男と同じ屋根の下で…無期限の生活か…」
店主「お嬢さん、嫌だったなら恋人と同棲してるので無理ですとか、テキトウな嘘を言えばいいだろう」
澪菜「そもそもこんなことになったのは店主さんが私に責任を振ったからですよ…?…それにあの時は恐怖しかなくて…」
祢遠「例え恋人が云々の話が本当だったとしても居座るよ、僕なら記憶から人間関係を操ることもできるしね」
店主「…お前は正真正銘の邪神だな」
ブルルッと澪菜は悪寒がした。
澪菜(恋人どころか…家族と離れて一人暮らししていて助かった…!)
下手すると家族との関係も歪められていたかもしれない…と思うと鳥肌が立つ。
チラ…と祢遠を見上げると澪菜の予想を肯定するように目を細めた。
澪菜(ッマジモンの邪神だ…)
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これから本屋の扉を潜って帰るというところで、
澪菜はレジのカウンターに置かれた本が目に入った。
澪菜「ッあ、この本…ッ」
店主「…ぁあ、この本が欲しいなら、そこにいる袮遠をこの店から離してくれる礼として、無料でやるよ」
澪菜「マシですか!?ありがとうございますッ」
袮遠「?何この本…【デキるおん】…ちょっと」
澪菜「…人には見られたくない物があるのです」
袮遠「なに?やましい本?」
ニマニマしながら言ってくる。
澪菜「ッ〜!!んなわけないでしょ!?ね!店主さん!この本、やましくないですよね!」
店主「ハハ…まあ、そうだな…」
店主は苦笑しながらも頷いた。
袮遠はため息を吐いてから、本屋の自動ドアを通ろうとした。
袮遠「ほら、手繋いで、2人同時に行かないと意味が無い」
澪菜はマジマジと差し出された手を見て恐る恐る繋いだ。
店主「楽しくやれよ」
澪菜「やめてください…」
袮遠「うん、楽しくするよ」
澪菜「やめてってば…」
邪神と人間は本屋の『扉』を潜った。
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