第3話「汚部屋で良ければ!!!」
〜霊ノ空き地(タマのアキチ)〜
現界で死してなお傷つき、恨み恨まれた怨霊たちが集うスポットが、【霊ノ空き地】に位置している。
面倒くさそうな顔をした黒髪美青年は、空き地の奥へと進んでいく。
??「もう喰い憑かれてるし…意外と霊魂や禍イ者に対して耐性がない人間なのか…?」
面倒臭さからさらに顔を顰めて、澪菜が引きずられた場所へと辿り着く。
??「見つけた」
澪菜「ッ!?」
黒髪美青年の声に反応して、澪菜は勢いよく後ろを振り返る。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
??「見つけた」
(この声!?)
澪菜「ッ黒髪さん!?」
名前を知らず、ずっと黒髪美青年を仮名として納得していたせいで、目に飛び込んできたご本人を相手にそのまま呼んでしまった。
声がした瞬間、彼の方へ顔を向けたせいで首で
ピキッと音が鳴ったがこの絶望的状況では聞こえない。
澪菜「ッた、助けてくださいッ…!」
両足を掴まれて引き摺られ、もう澪菜は井戸の直前まで連れてこられていた。
澪菜は黒髪美青年に向かって助けを求めた…が、
彼は何かを考えるような仕草をして俯き、顔を上げた時には満面の笑みが貼り付けられていた。
彼は何も言わないまま澪菜に近づいて、顔を近づけて口を開く。
??「…僕ね、宿に困ってるんだ」
澪菜「…ん?なに?」
宿無しホームレスです、と思いもよらないタイミングで告白されたことで思わず聞き返してしまった。
澪菜「ッ!?ぅわあッ!!」
井戸に澪菜が乗り上げたことで、井戸の中に
砂利が落ちる。
ポチャッ…と、水の中に落ちる音が聞こえた。
青白い腕が、澪菜の足を引っ張る。
澪菜「ッお、落ちるぅ! 」
澪菜は井戸の縁に両手でしがみついているが、怨霊の力は弱まらない。
??「…君に問おう、君の住んでいる宿を、僕にも提供してくれるかい?」
澪菜「…へ?」
??「ちなみにこの質問は、君の生死に関わる問題だということを忘れずにね?」
澪菜「……ッ〜!ッ頷くしかないじゃないですかぁ!」
半泣きで叫ぶが、彼は笑みを崩すことなく、
「返事は?」と凄んできた。
澪菜「ッどうぞ!!汚部屋で良ければッ!!」
??「よし来た、後は任せなよ♪」
黒髪美青年は、自分の足を井戸の縁に乗せ、
澪菜の腕を井戸の中から掴み上げて自分の足を握らせる。
??「離したら死ぬから」
という脅し文句付きで。
澪菜は藁にもすがる思いで彼の足にしがみつく。
しがみついている澪菜からは、彼が何をしているのか見えないし分からないが、助けてはくれるようだ
何か熱いモノが、澪菜の足に触れた。次の瞬間、
『ギャアアアアアアアアアアア!!!!』
耳をつんざくような甲高い女性の叫び声が、井戸の奥底へ落ちていくように小さくなっていく。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
青年は澪菜の腕を引き上げて、自分の足を握らせた。悪趣味な脅し文句付きで。
人一人分の体重が足にかかっているというのに、
涼しい顔で澪菜の足を掴んで離さない女を見据える。
眼は見開かれ、血走り、瞳孔も開きっぱなし、
怨霊となった者達は皆同じようにヒトの話を聞かない。
-例え声をかけるのが、
一柱の邪神であったとしても…-
青年はそこら辺の小石を拾い、魔力を注ぎ込む。
??「はいコレ、執念深い君へ…神からの
【贈リ物】だ」
魔力を注ぎ込んだだけの石ころを、女の怨霊に向かって落とした。
次の瞬間、
女の怨霊が、死んだ原因である豪火で身を包まれる
耳を傾ける価値の無い、無意味な絶叫と呪詛の言葉を吐きながら、最後の力を振り絞って澪菜の右足首を両手で掴む。
『返セェッ!!私ノ未来ヲォ!幸セヲ!神ハ私ノ幸セヲ奪ッタ!!!!!』
??「何を馬鹿なことを、君が勝手に幸せを望んだんだろう?」
青年はそう言い放ち、指をデコピンの形にして弾く。指が弾かれた時に現れた火球が、女の霊の額にヒットする。
女は枯れた井戸の奥深くへと堕ちていった。
??(まだ井戸に張られていた水は僕が消した、
消化されることの無い炎で永遠に
身を焦がせばいいよ)
青年は心の中でそう零し、澪菜へ視線を向ける。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
澪菜(ッ…終わっ…た…?の?)
激しい絶叫と他者を怨んだ念を吐いたとともに、
澪菜をの足を掴む霊の手の感覚は無くなった。
??「…いつまでそうしている気なの?さっさと引っ張りあげるよ」
青年は片腕で澪菜の右腕を思いっきり引き上げた。
身体が宙に浮いたと思ったら重力に従って地面にお尻を打ち付ける。
澪菜「ッイ゙ダッ!」
おしりを擦りながら立ち上がった澪菜に、青年は、
??「さっさと本屋に戻って現界に行こう、
僕疲れたなぁ〜」
澪菜「ま、待ってくださいよ!」
黒髪美青年の背中を、赤と紫に染まった夜空の下で追いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます