第2話「逃げ出した先に待っていたモノ」
目の前の黒髪美青年は小首を傾げて絵のようなニッコリスマイルを見せた。
??「どうしたの?ホントに大丈夫?」
澪菜「ッはい大丈夫です…」
(せっかく見つけた面白そうな本…今日は諦めよう…いち早くこのおかしな場所から抜け出すこと!)
立ち上がって、目を極力合わさないように、
先程の話だって聞いていなかったかのように店の外に出ようとした。
グイッと黒髪美青年に腕を掴まれた。
反射的に強く腕を引いて逃れようとするも、向こうの力が更に強くなって逃げられなくなる。
??「どこに行くの?君、見たところ『現界』の人間だよね」
澪菜「…へ?現界?私は日本在住の日本人です!帰るんでその腕離してください!」
全ての事の発端である店主さんは私と黒髪美青年のやり取りを呑気に静観していた。
帰ると言っているのに全く緩まない腕。
澪菜「ちょ、何!?ホントに何なんです!?」
心臓が早鐘を打ち、なんとか逃げ出さなければ!
と頭が警報を鳴らす。
もう片方の腕で黒髪美青年の腕を全力チョップした。
??「イタッ…」
難無く離された腕、違和感は覚えるが今しかない!という気持ちで本屋の自動ドアを通って店から駆け出した。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
澪菜「ッ!?何ここ!?何処!?」
暗い夜の空があるはずなのに、赤と紫が混じったような空。目の前には黒い人型の影のようなものが蔓延っていた。……一言で表すなら異界だった。
(ッと、とにかく走って逃げないと…!)
澪菜は宛もなく走り出す。
何処なら身を隠して静かに考えられる時間を作れる?どこに逃げれば、どこに行けばマンションだ?
知っている地理とは全く違くて、本屋の前にあったはずの駐輪場が無かった、私の自転車も、カゴに乗せたままの買い物袋もどこにも無い。
ドクドクと、疲労とは別の心臓の鼓動が耳に響く。
澪菜「ッ…はぁ、はぁ、…こ、公園…空き地?」
目の前には、空き地と少しの遊具が置かれた場所。
(…暗いけど、スマホのライトがあれば大丈夫、
少しの間の休憩と状況の整理の為だ…)
ドキドキといつ先程の人達に見つかるか分からず、知らない土地での恐怖心から、
不気味な空き地の中に足を踏み入れた…………
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
黒髪美青年side_
わざと腕を離してみると、好機だと思ったのか
脱兎の如く本屋から走り出して行った。
店主「…ワシの店には泊めないからな」
店主が念を押すように僕に言ってくる。
もう宛も見つけたし、ここには用済みだ。
「ッハハ、分かったよ店主、今回は大人しく身を引こう、なかなか良い行先も決まったし」
店主「…?あの嬢ちゃんの元か?お前が今さっき逃がしたばかりじゃろ」
……相変わらず何を見ていたのか、僕が魔術で
【後追イ】の印をあの子に付けたのが見えなかったか?
「逃がしたんじゃない、ちゃんと【後追イ】を掛けたよ、何を見ていたんだい?」
目の前の髭を生やした男、店主は目を閉じて眉間に皺を寄せて思い出そうとしていた。
店主「…ともかく、【後追イ】を掛けたのなら、追った方が良かろう?見た感じ【渡リ人】じゃ、すぐコチラ側の者達に取って食われるぞ」
「……それは困るね、せっかく見つけた家主が死んだら今度こそ野宿だし」
店主(…人の子の心配ではなく自分の宿の心配か…)
【渡リ人】、別世界から『媒体』を経由して別の世界へ渡ってしまった人間のこと。
今回の経由に使われた『媒体』は『扉』だろう
さっきの彼女はただの本屋に入ったつもりだろうけど……。
この本屋の『扉』は現界の世界に繋がっていた。
あの子が本屋に入店した瞬間にコチラ側に迷い込んだのだろう。
僕は目を閉じて彼女に掛けた【後追イ】を追跡する
「……霊ノ空き地(タマのアキチ)に入った…」
なんで寄りにもよってそこに…。
店主「あそこはヤツらが徘徊している可能性がある。早う行ってやれ〜」
「…店主…完全に他人事だね」
なんで人間はこうも、自分から破滅の道を進んで行くのか不思議で仕方ない。
僕は本屋の自動ドアを潜って空き地までの道を進んで行く。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
No side_
澪菜「…ッえっと…えと、つまりどういう事だ?」
澪菜は空き地に置いてあった遊具の錆びたブランコに腰掛けて揺れながら、これまでの経緯について考えていた。
澪菜「スゥゥゥ⤴︎︎︎つまり…ここに来たのは…夢遊病とか?…ないな、今までそんなこと無かったし…」
(そもそもこの世界の雰囲気が、元の世界みたいに活気に溢れていない。どこに行っても空気がどんよりしてるし、変な黒い影がウヨウヨしてるし…。)
なんなら本屋に戻るのも一つの手だろう、だが全力チョップして逃げてきたのだ。すんごい戻りにくい。
澪菜「…帰れるのかな……だっておかしくない!?普通ゲームならこういう時ってクエストが表示されて、クエスト解決すれば元の世界に帰れたりするじゃん!」
なのにこの世界ではクエストなんて物は全く見当たらず、道行く黒い影も澪菜のことを見向きもしない。
とりあえず、もう少し探索しよう!と足を運んだその時。
ヌルリ…とした感触のモノが、澪菜の右足首に触れた。
澪菜「ッ!?!?」
恐る恐る右足首を見ると、青白い人間の腕が右足首を鷲掴みにしていた。
(えっ!?ナニナニナニ!?何これ!)
澪菜はパニックになりながらも右足首を自分の体に引き寄せようと力を入れるが、青白い腕も負けじと右足首を引っ掴んでくる。
澪菜「ッ!」
澪菜の足首に鋭い爪が食い込む。痛みと恐怖で目尻に涙が浮かぶ。
(誰かッ!誰かッ!)
空き地の外に視線を巡らせた瞬間、右足首を一際強く引き込まれた。
澪菜「ッぅッ!!!」
派手に体を地面に打ち付けて、腰が痛む。
その隙に、左足首も青白い腕が掴んできた。
澪菜「…ッ離して!離してよッ!」
涙混じりに叫びながら、必死に抵抗するが、ズルズルと体を空き地の外にある古びた井戸へ引き摺られる。
澪菜「ッッ!」
誰かに言われなくても、この状況なら大方察しがつく。
(あの井戸に…私を落とす気なんだ…ッ)
恐怖心で涙が頬を伝い、ギュウッと目を瞑った__________
「…見つけた、呆気ない逃走劇だったね」
黒髪の美青年は、焦る様子もなく空き地へ足を踏み入れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます