第131話 信念ある人よ


 強化イベントなんて、そんな便利なモンはないよー。

 普通に考えて、いきなり劇的に強くなるなんてあり得ないじゃん。

 これまでのクロノくんたちは、まあゲームのレベル的に言えば十やそこらで、元が低かったから成長の余地が大きかった。

 だから、反則的な成長を、このボクが鍛練によって引き出してやった。

 

 だけど、彼らはもっと上を目指してる。

 際限無く、強くなろうとしてる。

 少なくとも、使徒に勝てるくらいには。


 でも、最近はちょっと停滞気味。

 何故って、まあレベルが上がったから。

 レベル十が十一になるのと、レベル七十が七十一になるのとじゃあ、必要な経験値が違う。

 極まってきたなら、成長の余地は無くなるってことだし。

 だから、今だって別に大きく成長した訳じゃない。

 現実問題、並べるほど強くなるまで鍛練させ続けたら、少なくとも十年単位で時間がかかる。そこまで待ってもいいけど、まあ、がある奴らが居る。


 別に、彼らは大きく成長していない。

 最初の頃は、あんまり活躍できたりはしなくて、今は前線でバリバリだけど、それも彼らの能力的な成長の成果じゃない。

 汚いやり方に、彼らが慣れただけのこと。

 

 彼らはただ、視界が広くなっただけだ。

 命のやり取り自体は大分経験してたけど、他の英雄に比べたら場数が足りない。

 三百六十度、どこから来てもバッチ来いな精神は、やっぱり戦いの中でしか育てらんねぇわ。

 

 ということで、彼らは強くなった訳じゃない。

 力の使い方を覚えた。それだけだ。

 より効率的に、より美しく、彼らは機能を極めた。

 

 意識、精神の成長に意味の重要性が分からん奴、居る?

 もちろん、居ないと信じてる。

 ゲームで強キャラ使ってても、使い手がへぼじゃ話にならんってことよ。

 いかに自分のスペックを自在に操れるかが、戦闘の肝。

 彼らは、ちゃんとクールになった。


 迷わず、惑わず、最適解を選ぶ。

 いい具合に仕上がった。

 心身ともに、彼らはきちんと戦士になった。


 だから、



「五人でなら、使徒ともやれるかもねぇ」


「ああ、確かにな」



 ぶっきらぼうな返答をするやさぐれ娘。

 コイツ、いっつもこんなんだな。

 嫁の貰い手が一生現れんわ、行き遅れめ。


 ……んー、まあ、どういう状況か、ワッツハップンって感じだよね。

 ミーティングっていうか、現状把握っていうか。

 二ヶ月戦い通しだったから、そろそろこういうの挟んだ方が良いかなって。

 やさぐれ娘と一対一なんて、あんまりしないんだけどね。

 なんか真剣そうだったから、仕方なく。

 無理して拒否る理由もなかったしね。



「使徒とやれるレベルか。ちと成長が早すぎやしないか?」


「うーん、クロノくんはまだしも、他は想定外だったよねー」


「恐るべき子供たちだ。何故、ああも怪物が集まった?」



 やさぐれの眉間にシワが寄った。

 頭が痛いのかな? まあ、普通に意味不明だよな、十七とかそこらの子供があんだけ強かったら。

 多分、百年に一人とかのレベルの天才が、何人集まってんのって話だし。

 


「怖くなってくる。使徒を討つのに、ここまで都合のいい人材が揃うとは」


「大願成就を前にウキウキだな」



 まあ、そりゃそうか。

 こんな奇跡、百年に一度もないだろうし。

 ギラついた笑顔が様になってて、カッコいいねー。

 なんとも、胡散臭くてかなわない。

 あ、ボクの言えた義理じゃない?

 


「お前はテンション低いなあ? 憎き使徒を倒すチャンスなのに」


「憎いなんて思ってないのに?」



 不機嫌になる時は分かりやすいな。

 単純っていうか、物事を深く考えるタチじゃないから、顔に出やすい。

 ボクみたいに、ぽーかーふぇいすを心がけたらどうだい?



「口では仇だ、憎いと言っても、怨念がないから分かるぞ」


「怨念……?」


「全部が憎い、何もかも消えろ、この手で壊してやる。そういう渇望が、お前からは無いからさ」



 睨むな睨むな。

 別に、図星を突いただけのことだろ。


 うん、これに関しては経験だね。

 分かる奴には、ちゃんと分かる。

 手と魂を汚す経験もつもりも無いから、違うものだと分かってしまう。

 あーあー、要らんこと言っちまったよ。

 


「偽るなら、ちゃんとそうしな。口ばっかりの殺意は、薄っぺらいよ」


「……てめぇが言える義理かよ」



 ドスが利いた声だったよ。

 あれ? もしかして、ボクの教えを実践してる?

 ちゃんと、人間的な恨み方を演じてるみたいだ。

 


「てめぇこそ、恨みなんぞで動いてねぇな。何が目的なんだ?」


「……恨み、じゃないよ。でも、これは復讐なんだ」


「矛盾してるだろ」



 そりゃ、人生経験の浅い小娘にゃあ分からんわ。

 ボクだけの、ボクの感情だ。

 これは、アイツにだって理解されない。



「君は、義務感なんて知らないだろう?」


「あ?」


「直情的なお前のことだ。誰かを殺したいなら、理由は単純だろう? ボクみたいに、必要以上に物事を考えたりしな……あぶな!」



 無言で殴りかかりやがった。

 しかも、権能マシマシのジェットブローだよ。

 当たってたら胴体貫通してたわ。

 ほら、言った通りに直情的で、小難しい理由で暴れたりしない。

 アホの子がアホなこと以外するかよ。



「おお、怖。でも、お察しの通り、ボクはあんまり恨みとか辛みとかで動いてはいないんだ。そういうのは、余分なノイズだから随分前にカットしちゃったし」


「……どういう意味だ?」


「自意識がお前より星に近いからかな? それとも、憎しみなんて出し尽くしたからかな? 強い感情って、意図的に出さないと出ないんだよね」



 ……バカだけど、頭は悪くないと思ってまする。

 分かったかな、今ので。

 正直、理解してほしくはないけども。



「暇潰しだ。とても平静で、冷静なボクが、君の目的について考察でもしてみようかな?」


「…………」

 

「具体的に、使徒、ひいては『神父』に何をされたか、お前は何も言わないな。教団に敵対する理由は、復讐と語るそうじゃないか」


「…………」


「だけど、なんの復讐だろうな? 成功サンプルを手荒に扱う奴じゃないし、お前みたいなアホが百年単位で恨むようなことをするかな?」



 好き勝手言ってたら、ボクの言ったことも忘れるだろ作戦。

 コイツやクロノくんとかアリオスくん相手だと、つい喋りすぎちゃう。

 彼らがボクに近いから、同族意識ってやつ?


 ん? 女子組にも余計なこと喋ってた? 

 うるせー! 知らねー!!



「いいや、そもそもだ。成功作品を、理由もなく外に出させる奴かアレは? 慎重で、臆病なアレが取りそうな行動とは何か」

 

「…………」


「あぁ、なるほど。だからお前に、クロノくんの世話をさせるのを許し……って、だからあぶねぇな!」



 込められた殺気が凄いな!

 危うく反射で反撃しかけた。

 コイツとは戦いたくないし、殴り合いは勘弁。

 こんなところで、『神父』の絵図を乱したくはない。

 

 

「お前だって、あたしとじゃねぇのか?」


「違うとも。ボクを生み出したのは、あんな小物じゃない」



 ……うん、上手く勘違いしてくれたね。

 でも、嘘は言ってないよ。

 ボクが、『神父』なんかに創られるはずがないんだから。



「……なら、何故、」


「目の敵にしてるのは、『神父』だけじゃない。『怪人』も『機械人形』も『幽鬼』も、全員が滅びゆく者たちだ」



 敵足り得るからね、アレらは。

 百万にひとつでも、ボクを殺せる可能性がある。

 ボクの味方は、この世で一人だけだからさ。

 アレらは、目障りな小判鮫だ。



「いつかは、教団そのものを解体しないといけない」


「…………」


「手ずから壊すのが、一番手っ取り早い。でも、出来ないから、周りの手を借りている」



 言葉を探しているのが、よく分かった。

 でも、お前に読み切れるほど、浅くない。



「だから、お前のこれからの行動にも目を瞑る」


「!」



 ホント、ホウレンソウが足りてないよな。

 ここまで考え続けて、ようやく分かった。

 あのアホ『神父』、こんなこと考えてたのか。



「好きにしな。お前を止めたりしない」


「何故だ?」


「それがボクの利になるから、ていうのは理由の一つ、ていうか一部だ。でも、大きいところは無粋な思惑なんて関係ないよ?」



 いつだか、『神父』が言ってたか。 

 全部自分の言う通りにしろ、お前は何も考えるな、みたいなの。

 確かに、その方がいいね。

 ボクも、『神父』がどう言おうと、多分今と同じことをしてたと思う。



「ただ、それがお前の覚悟であるなら、ボクは口を挟まない」


「…………」


「あ、そうだ。これ、皆に言おうと思ってるんだけどね?」



 呼び止めてる訳じゃない。

 さよならでもない。

 旅立つ人へ、贈る言葉はコレだけっていう話だ。



「よい旅を。君の人生が、意味のあるものであったことを祈るよ」


「……ありがとよ」



 まあ、仕方ないよね。

 こうなることが、運命だったってことで。 

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