第113話 夏イベ 幕三幕
萎びれた腕だけど、そこに込められた力はマジモンだ。
巨岩みたいにのしかかるプレッシャーは、クロノくんも感じてるはず。
なんだこれって、普通思うよね?
でも、ボクは予想してたし、クロノくんは見抜けた。
ここにアリオスくんとかが居てくれたなら、おもろい反応してくれただろうに。
ちゃんと、戦闘に入る前から、クロノくんは臨戦態勢だ。常在戦場っていつも言ってるけど、今はちゃんと出来てるわ。
あとは、普段の生活でもそれが出来たら良いだけか。
……あー、かったりぃ。
「アイン。気を抜くな」
「誰にモノ言ってやがる、クソガキ」
あの萎びた腕は、大切なものだ。
少なくとも、この施設において最重要機密に違いない。
まあ、普通はあるよね、セキュリティ。
本気でかったるかったんだけど、クロノくんはやる気みたいだ。
力が付いて、自分の守れる範囲が広くなったから、気でも大きくなったかな? あの二人を置いてきてる時点でお察しだね。
「…………」
セキュリティが、形を成していく。
黒いモヤみたいだけど、どんどんとそれは人型に変化し、体を得ていく。
コイツを倒さなきゃいけないっていうのは、ゲーマー脳じゃなくても分かる。
ボスの風格っていうのは、伝わってるよ。
ここに来たとき、クロノくんがギリギリ勝てそうな敵が現れないかなーって思ってたけど、まさか本当に現れるとは。
これで『やったー!』って叫べたら良いんだけど、ダルさが勝ってる。だって、多分ボクも相手しないといけないし。ここでボクが参戦しないのは、ちょっと微妙だよね。クロノくんも機嫌悪いわけだしさ。
かったるいけど、まあ不幸中の幸いってことにしておこう。
さて、時間だ。
「………………」
予想通りだね。
モヤが成した形は、ボクがよく知る相手だ。
真っ赤な髪、機械仕掛けの右半分、気に障る目をした男だった。
はーあ、ホントに嫌になる。
コイツのこういう細かくて生真面目な所、ボクと致命的に相性が悪いや。
「よく来やがったな、コラぁ。こんな所にのこのこと、宝の山でも期待したかぁ?」
「…………」
「だが、残念だったな! ここには、くだらねぇもんしかねぇ! 例えば、てめぇの墓標……は?」
なんだ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔して。
ボクとクロノくん、どっち見て驚いてる?
使徒第三位ともあろう者が、情けない。今打ち込んだら、多分通るぞ?
クロノくんより隙があるとか、落第ものだぞ。
「な、なんでてめぇらがここに居やがる?」
間抜けだなあ。
とにかく侵入者を感知したから、分身体を差し向けたんだろうけどさ。
このボクと彼が分からないなんて、感覚鈍ったんじゃない?
「おい、そこのボケカス! なんでここに居るんだよ! あらゆる存在の神経逆撫でして喧嘩売り続けるバーサーカーが、何の用だ!」
は?
意味わかんねぇんだけど、何?
……いや、ここでキレたらダメだ。
ボク、一応ダウナー系でやらしてもらってるし、イメージを損ないたくない。
冷静に、そして他人のフリをしつつ、
「はあああ!? んだと、このポンコツ! 舐めた口ききやがって! くびり殺す!」
「質問に答えらんねぇのか!? バカも極まったもんだな!」
なんだ、コイツ!?
一応、ボクお前の先輩ぞ?
そんで、お前よりも大分強いぞ?
口のきき方ってもんをわきまえろよ!
「……知り合いなのか?」
なんか信用無さそうな目で見てるけど、なんか文句ある?
シリアスから急にギャグ調になって、仰天したかな?
ま、質問に対する答えは一つだね。
「そりゃそうだ」
「あったり前ぇよ」
「「コイツは敵だ」」
教団っていう組織は、利害が一致した奴らの集まりだ。
お互い、敬い合ったり、協力もするけど、自分の願いのためなら、隣の奴を蹴落とすくらいは平気でする。
使徒共も、なったばっかの時は、蹴落とし合いで必死だったし。
ここ最近、五十年ちょっとがおかしいだけなんだよなー。
「毎度毎度、目障りで鬱陶しい! 例えるなら、コイツは聳え立つクソの山だ! 嫌でも目が付く上に、実害がある! 本当にもう、何もかもが終わってる!」
「てめーなんざ、壊れかけのポンコツだろうが! こんな機能美に優れた肉体見て糞山たぁ、視覚までガタが来てると見るね!」
死ね、このポンコツ!
ダメだな、やっぱり。コイツとだけは本当に無理だ。
何やっても、言い争いになる未来しか見えん。
「その割には、なんか仲……」
「君、それ以上続けたら顎かち割るよ?」
なんでコイツと仲良しに見られにゃいかんのや。
ボクが怒ったら怖いぞ。
これ以上ないくらいにボコボコにしてやるからな。
「……はあ。疲れる。こんな所にまで来た理由はなんだ、クソ野郎」
「仕方なくってやつさ。やむにやまれぬ事情だよ、ポンコツ」
説明しようとしても面倒だし。
コイツは、ボクが何も言わなくてもすぐに察してくれる。
流石、バカだけど頭はいい。一応の本分が研究職なだけはある。
「アイン。コイツは、いったい……?」
「使徒第三位『機械人形』……その分身体だね」
クロノくんが息を呑む。
当たり前だけど、緊張してるね。
予想より、よほど大物だった事だろう。
「ったくよぉ。こっちは忙しいのに、急に押し掛けやがって。ここにゃあ、俺の大切な研究データが眠ってんだぜ?」
「のわりに、警備ザルだったけど?」
「こんな所まで来る奴が居るなんざ、想定してなかったんだよ! ……まあ、それも構わねぇ。俺様が最終防衛ラインだからな」
大言壮語じゃないよねー。
実際、コイツの力は、それだけ並外れてる。
クロノくんも、それは分かる。これだけの力があって本体じゃないって、どんだけだよって思うわな。
うん、とても良い体験だよ、これは。
「ヒヨコが何匹居ようと、俺が負ける理由はねぇな」
「……強いな、俺よりも」
「あったり前ぇよ」
クロノくん、落ち着いてるな。
まだ精神的に未熟な所もあるし、変な感情を引き摺らないか不安だったけど、大丈夫そうだ。
しかも、今回は相手が相手だ。万一にも、彼が死ぬ事はないね。
案外、結構楽にイベント進められるかな?
「グダグダ話してても仕方ねぇ。やるか?」
「……待って欲しい」
あれ? やんないの?
逃げは、まあ無いにしても、何かある?
訝しんで見てみると、クロノくんは心を抑えたような無表情だった。
どうしたんだろ、トイレかな?
「お前は、強いよな。多分、俺よりずっと」
「そうだっつってんだろ」
「……なんで、そこまで強くなれたんだ?」
…………あれ? もしかして、ボクの言ったこと気にしてた?
あの時は、こんな哲学的なアレになると思わなかったんだけど。
「アインに言われた。強い相手には、相応の背景があるって」
「…………」
「そして、視た。お前の実験で犠牲になった人たちのこと。何人殺したか、数えきれないくらいのデータだ。そこまでして、何がしたい?」
あー、そういうね。
青いよね、クロノくん。
敵って認識したなら、そのまま問答無用で飛びかかって戦えばいいのに。
ボクが余計なこと言ったからだけど、多感な時期だよねぇ。悩まなくても良いことが、気になって仕方ないと見える。
これにはポンコツも……あれ?
「知って、どうする? お手手取り合って仲良くするか?」
「……違う。ただ、知りたかった。敵に敬意を払えるかどうか」
あれ? なんか、真面目な空気?
お前、ボクとのバカみたいなノリはどうしたよ?
多重人格か何かか? さっきまでの記憶ないなった?
「ふん。そこのクソに何か吹き込まれたか。芯がねぇ言葉くらい、俺は分かるぜ」
「何万人も殺して、戦い続けて、それで何を得たんだ?」
「主義にねぇ問答は、空虚なもんだぜ」
「お前たちの目的は、何だ? 俺みたいなのを作って、どうしたい?」
ポンコツは、何か考えてる。
不思議だなあ。
悩める若人に気の利いた事が言えるような奴じゃないと思うんだけどなあ。
まさか、口を滑らせたりはしないだろうけど……
「知るか。俺は、俺の目的を追いかけるので忙しい。他の連中の事なんざ知らん」
「じゃあ、お前の願いは?」
「それこそ、なんで話さにゃいかんのだ」
割りと話しそうだったよ?
なんか、過去に繋がりそうな意味深なこと言いそうだったよ?
お前、何やかんやでチョロいし。
「俺の想いも、目指す場所も、俺だけのモノだ。誰が、会ったばかりのガキにやるか」
「…………」
ほらー、それっぽいこと言う。
ちゃんと秘めてる思いの丈みたいなの、披露するじゃん。
クロノくんも、何か考えてる雰囲気だ。
「クロノくん……別にボクが言ったこと、気にしなくても……」
「気にしてない」
ガキめ。
「ぐっ!?」
「ほう、よく躱したな?」
子供のすることだと思ってたけど、可愛くなくなってきた。
いつまでも付き合ってやるほど、ボクは気が長くない。
「もう、考えるのダルくなってきた。ここに居る全員のす」
「なんでそうなんだよ、狂犬!」
「敵は消せる。クロノくんは特殊な状況下での戦闘で成長できる。良いことずくめな気がしてきた」
三つ巴なんて、なかなか出来ないよ。
二人でやったら勝っちゃうし、どうしようかなーとか思ってたけど、これならその心配もない。
二人とも、まとめてぺちゃんこにしてやる。
「ウダウダ管巻きやがって、この野郎。ぶちのめしてやる」
「……おい、協力してコイツを先に殺らねぇか?」
「……一応仲間だし、止めとく」
かわいくねーな、コイツら!
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