幕間

第111話 夏イベ 序幕


 目が痛いくらい白い砂浜、鬱陶しい灼熱の太陽、目障りな揺れる水面。

 左を見ればカップル、右を見れば親子連れ。

 ウザイくらい強力な魔物避けに守られてる、安全確保のシステム。

 ゴミゴミの人混みがヤバい上に、布面積が小せぇのなんの。

 きゃぴきゃぴした感じが、何となく伝わる。

 潮の香りがキツくて、困っちゃう。


 はい、ヒントはここまで。

 さて、ここはどこでしょーか。

 シンキングタイム、一秒。


 はい、海ですねー。

 しかも、観光地的なスポットで、人がゴミのように居ます。

 嫌いですねー。こういう明るい場所っていうか、人が幸せを教授するための場所って気持ち悪いんですよねー。

 どこ見ても機嫌良さそうな人間ばっかり。こんなの、人の不幸が蜜の味の、ひねくれたボクの居場所がないじゃないか!


 あー、憂鬱だ。

 日の光が燦々と照りつけるけど、ボクのテンションはそれに反比例する。

 もう、目に光が宿ってないんだけど。

 


「て、テンション低いな、アイン……」



 クロノくんよ。ボクは君みたいな陽キャじゃないんだよ。

 しかも、なんだその格好は?

 泳ぐ気満々のスーパー身軽な雰囲気で。

 上等な水着をお持ちだね。バッキバキの腹筋見せつけて、自慢か?



「そりゃそうだろ……こういう賑やかな場所は、苦手だ……」


「う、うん、だろうね」



 性格ひねくれてる自覚はあるよ。

 逆張り的っていうか、なんというか。

 人がテンション上がる所で、同じようにテンション上がった記憶があんまりない。

 じゃあ何が楽しいんだよって感じだけど、戦闘以外の娯楽に興味示せないんだよね。

 まあ、そんなボクの性格以前に、



「ていうかよぉ……普通に考えて、いきなり服剥かれて水着に着替えさせられてる時点で、普通にクソだろ」


「ま、まあ……」



 並べられたのから説明受けて着させられたけど、フリルがなんたら、色がどうたら、サイズなんざ知らん。

 用意されたの適当に着ただけだから、知らん。

 ていうか、こんだけ肌晒すのってヤバいだろ、冷静に考えて。

 下着と変わらんやん。よくもまあ、これをお洒落で済ますな。


 あー、ていうか妙に前世と被る習慣あったりするよなあ。中世ヨーロッパよりは文明余裕で進んでるし、案外不便はしたりしないけども。

 アレか、集合意識みたいなアレか?

 案外、どこでも人間って似たり寄ったりの進化を遂げるんだなあ。

 はあ……こんなのがあらゆる世界共通とか、普通に終わってんな。



「なんで、こうなったんだろうな?」



 クロノくんの疲れたような疑問の声。

 珍しく、意見が一致したよね。


 いやー、いきなり海ってワケわからんわ。

 いきなり番外編に突入して、混乱するのは当然だよ。

 あのシリアスイベントから、どうしてこんなギャグ時空になったか、ちょっとだけ、振り返ろうか。


 クロノくんとのタイマンが終わって、大体二月くらいかな?

 それまでは、普通に過ごしてたんだよ? 

 クロノくんと修行したり、アリオスくんの面倒を見たり、アリシアちゃんの魔法の実験台にさせられたり、ツンケン娘から逃げたり。

 特大のイベントは特になくて、まあ別に取り上げる必要もない日常パートだった。

 でも、ある日突然、『仕事してくれ』って言われたんだよね。


 誰かって?

 世界一迷惑なあの王族だよ!



『実は、我が国の領海で、遺跡が見つかってな。諸君らには、その調査に赴いてもらいたい』



 いや、最初は断ったよ?

 面倒だし、従う義理もないしね。

 ていうか、ボクらの全員が乗り気じゃないから、普通に『どっか行けよお前』って感じだった。

 四面楚歌だよ、四面楚歌。あんまり良い印象がある相手じゃなかったし、ボクとしてもそういう空気が好都合だった。


 なのに、三日で状況がひっくり返った。

 ツンケン娘とアリシアちゃんの二人が、急に手のひら返したんだよね。

 彼女らに色々と便宜を図ったのは間違いない。けど、それだけで動くタマじゃない。だから多分だけど、こういうシチュエーションで距離を詰めろとかなんとか、アイツらが釣れそうな事を言ったんじゃないかな?

 

 アリオスくんも、すごく真面目な子だからねー。

 立場を強く押されれば、きっと否を言えない。

 それに、結構気骨のある子だから、逆に利用してやろうくらいには思うわ。

 結果的にだけど、多分一番ちょろそう。

 同上の理由でチャラ男くんもね。


 クロノくんもなー。

 大体、何言われたかは分かるなー。

 十中八九、国の情報収集の手を貸すとかそんなんだろ。教団の事を、彼としても調べたいと思ってるだろうし。

 ていうかそんなん提示せんでも、今回の調査が教団に関係するかも、とか言えば頷くか。


 ボクも、まあ、やられた。

 言葉巧みに誘導されて、やんなきゃいけない状況になっちゃった。

 本気でブッチしようとしたら出来るけど、クロノくんたちを放っておくのも違うし。

 まあ、困ったんだよ。


 ん? だからって水着なんてよく着る気になったな?

 いや、違うんだよ。これに関しては、アリシアちゃんに嵌められたんだよ。

 まさか、ボクの逃げ道を無くすための魔法と、ボクの衣服を強制的に変換するためだけの魔法を創るとか、普通思わんやん。

 その名も、『遮那王しゃなおう』と『布帝耳ふてみみ』。

 魔法に限らず、大抵の事に当てはまるけど、凄いことを望んだら、相応に犠牲が必要になる。メリットばっかりのものなんて存在しない。例えばだけど、必殺技にタメが必要だったり、使った後に自爆したりするのは、力に見合った相応のデメリットがソレってことだ。

 そして、その技が有効な対象を絞るのも、当然対価になる。いわゆる、特攻効果っていうやつ。


 もちろん、使うのはハチャメチャにムズい。

 それを一から開発とかバカとしか言えん。目的が目的だけに、控え目に言ってクソバカだ。


 はー、ムカつきすぎて、なんかもう落ち着いてきたな。



「あの筋肉王子、後でこっそりシメない?」


「た、多分悪い人じゃないし……」


「じゃあ、アリシアちゃんは? アイツは悪い奴だよ」


「絶対ダメ」



 なんだよ、惚れてんのか?

 これが筋肉王子との好感度の違いか。



「まあ、いつまで文句言っても仕方ないよ。旅行と思って、今は楽しまない?」


「……海って泳ぐもんじゃねぇしなあ」


「基本、泳ぐものだと思うけど」



 見解の相違だね。基本、駆けるものなんだよなあ。

 まあ、クロノくんの価値観に合わせてもいいけどさ。でも、その気になりゃあ濡れずに水の中に潜れるし。ていうか、別に服でも濡れてもええやん。

 いよいよ、ボクが水着でいる意味よ。

 


「あはは。でも、似合ってるよ? かわいいかわい……」


「死ね!」



 恥ずかしいだけだわ。

 恥のかき損とか、不毛すぎて泣けてくるわ。



「……で、他のメンツは?」


「何か準備するとか。やることない俺たちが先に行って待ってろって」



 なんだ、それ?

 まるでボクらが、戦闘以外で何も頼れない役立たずって言ってるようなもんだろ。

 準備って、するほどの事があるか?

 てか、そんなに離れてない距離に居るじゃん。

 

 あ



「来た」


「分かるのか?」


「常に周囲に気を配れって言ってるだろ」


「いや、本当に常には出来ないし、この人混みでどうやって気配を隠してるアイツらを……?」



 もっと修行しないとな。

 修羅場でだけボクと同じ事が出来ても、ボクは身に付けたとは認めない。

 ここまでの道のりはクソだったけど、そろそろ切り替えようか。

 うん。今回の件で、ボクはクロノくんに水中での特別訓練をさせられる。特殊な環境下で課す修行は、一段と身になってくれるに違いない。


 あ、そうこうしてる間に、アイツら来やがっ……た……?



「お待たせしました」


「は?」



 なんで水着じゃないん?

 コイツら、バチバチに普段着じゃん。

 ボクがこんな恥かいたのに、女子陣が肌を隠しまくってるんだが?



「おい」


「すみません。つまらない世話話をしてしまして、お二人には外れていただきました」


「おい」


「では、本題の場所へ参りましょう。既にそこの人払いは済んでいるとの事です」


「おい、無視すんなコラ」



 徹底して無視。

 視線すらこっちに向けやがらねぇ。

 お前、悪い事してる自覚あるな。あってやってるんなら、なおさら許せん!



「いえ、別に他意はありませんでした。いつもお世話になっているお返しです。可愛い姿を周囲に見せつけられて優越感に浸れたでしょう?」


「欠片もねぇわ、そんな感情」


「おや、余計なお世話でしたか。申し訳ありません」

 

「死ね!」



 ふざけやがって!

 真っ二つにしてやろうか!?

 


「ていうかよぉ。百歩譲ってボクがこの格好するのは良いとして、なんでテメーら着込んでんだよ」


「いや、水着用意なんて初めて聞いた。水の魔法を使えば、濡れずに潜れるだろう?」


「俺も俺も。アイン嬢とクロノだけ別で集合っていう時点で『なんで?』とは思ってた」


「有象無象に、私の肌を見せるわけないじゃない。見せたい相手は一人だけなのに」


「右に同じです」



 クソが。

 まあ、男二人は許してやろう。

 女共は確信犯だな。痛い目に遭わせる。

 あ、おい、すっと逃げるな。突然ボクが襲いかかってもギリ対処できる距離を置こうとするな。

 悪意なしならキツめに注意だけって思ってたけど、

 ボクをイラつかせる自覚あるんだな?

 じゃあ、さっそく望み通りにして……


 あ、そうだ。思い出したわ。

 ついでに、殺意も萎えちゃった。

 周りを見回しても、一向に見えなかったんだよな。

 なんで急に思い出したのやら。



「そういや、筋肉王子は?」



 そう言えば、と全員で周囲を見回す。

 ボクは気配で分かるから、真っ直ぐ居る方向を向いた。

 でも、やけに遠いな。無駄にいっぱい居る外野のせいで見えねぇし。

 無駄に勿体ぶるな、お前なんぞの登場を。


 あー、顔見えた。

 来てるな、来てる来てる。

 ……あえ?



「今さっきまで一緒に……え?」



 何でこそこそ隠れてるのかとは思った。

 でも、まさか、そんな。

 こ、このためだったとでも言うのか!?



「やあ、皆! ご足労いただき感謝する!」


「で、殿下? その格好は?」


「水場なのだから、こうした装いが良いと聞いたぞ?」



 服の上からでも分かってたが、なんて筋肉だ。

 胸筋がデカすぎて冷蔵庫かと思った。肩とかもう、メロン乗せてるな。

 もう、筋肉の付け方がガチすぎる。ちゃんとキレイに鍛えてないと、こうはならんわ。

 こんな『らしい』格好で来るとは思わなかった。

 完全にボディービルダーだろ。誰だよ、コイツのこと王子とか言ったの。

 ブーメランパンツとかあるんだなあ。



「あ、あの……別に水着で来る必要なかったです……」



 アリシアちゃんの困惑声でフィニッシュ。

 勝ったな。別にボクは何もしてないけど。



 ※※※※※※※※※※※



 結局、集まったのは別の場所。

 ボディービルダー王子の登場で完全に空気がぶち壊れたから、移動はスムーズだったよ。

 で、到着したのは今立ってるここ。

 まあ、砂浜なのは変わらないし、観光客が居ないくらいしか違いはない。

 こんな何もない場所で、本当にボクらを呼びつけるだけのなにかしらがあるのかなあ?



「ど、どうでしょう? こうした衣装は、身に付けた経験がないので……」


「感想、聞かせなさいよ……」



 ………………


 あ、そうだわ。

 ツンケン娘とアリシアちゃんが、水着に着替えたの巻。

 別にええかなってスルーしたけど、甘酸っぱい空気を前に無視が難しくなった故に、一応。

 


「似合ってるよ」


「ほ、本当ですか!?」


「……ウソじゃないでしょうね?」


「うん。二人とも、綺麗だと思うよ」



 ……ボクに一人だけ水着を着させたのは、なんやかんやで気恥ずかしかったんだろうな。

 意中の相手に張り切った格好を披露するなんて、それなりに気合いも必要だったんだろう。

 まあ、そういう空気を作りたかったんだ。

 意地悪で本音を隠してるのが、なんとも面倒くさい。


 ………………


 さ、砂糖が! 糖分の過剰摂取で死にそうだ! 

 むさい所に行って中和しなければ!



「…………」


「どうしたんだい、アイン嬢? もしや、俺にクロノみたいな誉め言葉を……ぶわあ!!」



 男連中のなかでも、コイツに近付いたのは明確に間違いだったな。

 反射的に手が出てしまった。

 


「……どうした?」


「いやー、あの周辺の空気に胸焼けしてた」



 っぱ持つべきものは弟子だわ。

 居るだけで安らぐ気がしてくる。



「息抜きが必要なのだ。放っていた方がいい」


「両手に華な状況だけど、思うところはないのかい?」


「猛毒も良いところな華だが、女と関わること自体は悪いことではないからな」



 あれー、ちょっと意外。

 堅物だから、こういう時も『女にうつつを抜かすな』的な発言すると思ってた。



「色仕掛けの耐性なんて、あって困るものじゃない」



 れ、冷徹ー。

 女心なんて汲むもんかという強い意思すら感じるわ。

 どこまでクロノくんに忠義を貫くんだ、君は?

 心が鋼でできてるとしか思えんよ?



「えー、諸君! そろそろよろしいかな!?」



 出来ればずっと無視してたい。

 女子陣営もほら、なんとなく『だりー』って顔してるじゃん。

 空気読めって。ほら、明日でもいいじゃん、かったりぃ。


 んー、はい、ダメすか。そうすか。

 人に言われて自分を曲げるような、柔な性格してないもんね。

 


「私の伝手を使って発見した、怪しい施設の調査が、今回の任務だ!」

 

「ど、どうせなら、一緒に泳いでみますか? きっと楽しいですよ?」


「あ、あたし、泳いだことないからなー! 海なんて初めてー! 泳ぎ方教えてくれたりなんか……」


「ず、ズルいです、リリアさん! 私だって……」



 あー、ダメだな。

 普通にカオスになる予感しかねぇわ。

 せめて、話くらいは聞いてやろうぜ。こんな所まで来たんだからサー。

 最低限は備えようぜ、最低限は。



「海底にて発見されたコレは、強固な防衛の術が仕込まれている! この謎の建築物の正体を明らかにする! そのために……」 


「弟子よ。お前、息何時間止めれる?」


「最大三時間だ」


「ようやく最低限って感じだね。ボクの使う技とか戦法は無呼吸前提だから、今回の修行で一日は止められるようにしようか?」


「……押忍」


「わー、厳しー」


「チャラ男。お前も同じ事が出来るようになれ」


「十分も止めてらんないよ? 俺に死ねって言ってる?」



 言ってない言ってない。

 え? なんで微妙に青い顔してるかな?

 ちょっとイジッただけじゃん。マジにしないで欲しいわ。

 ちゃんとサンドバッグがないと、変なポージングし続けてるボディービルダー王子に意識向けちゃう。

 あー、やばい。吹きそうだわ。

 こっち向くな。にかって笑うな。



「アリシア嬢は、水中呼吸の魔法をかけてくれ! ここから全員のバックアップは可能だな!? 戦闘員として、クロノくん、アイン嬢、アリオスくん! 斥候として、ラッシュくん! リリア嬢は待機し、最悪の場合に投入する!」


「え」

 


 いきなり空気冷えたな。

 あ、アリシアちゃんが凄い顔してる。

 多分だけど、『折角ここまで来たのに?』と『何言ってんだコイツ?』が混じってる感じ。

 状況が理解出来てないな、これ。

 あんまり理解されても暴れそうだし、フリーズしててクレメンス。

 

 さてさて、もう一人は………うっわ、キモいな!

 漏れてる漏れてる! 呪いが!



「何を勝手なことを……あたしたちの邪魔をしようっていうのなら……」


「いや、邪魔ではない! 仕事の話だ!」



 え、何で止まらねぇんだよ、コイツ?

 普通に触ったら死ぬのに、堂々と立ってられる胆力よ。

 


「元々諸君らは、このために招待されたのだ! 給料も払っている! なら、仕事を果たしてもらいたいのだが?」


「……ウザイわね。あたしに理屈通じると思う?」


「思う! 何故なら、私に従わないより、従った方がメリットが大きいからだ!」



 ボディービルダー王子が視線をクロノくんに向ける。

 メリットとか言ったけど、多分言いたいのは、逆らった時のデメリットだな。

 ツンケン娘も、そのことにはすぐ気づく。

 すると、王子はニコニコした表情をすっこめ、すぐにマジな顔付きになった。



「私は諸君らほど強くはないが、戦闘力とは違う力を持っている。故に、我々は、対等な関係だ。私が依頼を出し、諸君らは引き受けた。その意味が伝わってくれると嬉しい」


「…………」



 こんなセリフ、普通は吐けねぇだろ。

 目の前に居るの、自分のこと瞬殺できるバケモンなのに。

 オモシロな色物って思ってるけど、やっぱ根っこはそこらの奴とは違うなあ。

 


「まあ、仕事が終わればあとは何の制約もない! その後、存分に遊ぶと良かろう! なあ? クロノくん?」


「……すみませんでした、王子。リリアも、それでいいよね?」


「……ええ」



 ごねるだろうとは思ってたけど、一瞬で鎮火したな。

 人の扱い方を心得ておられるわ。

 


「では、質問はあるかな?」


「あー、じゃあ」


「ラッシュくん! どうした?」



 こういう場で質問とか良くするよな。

 普通に話聞いてても良くわかんねぇし、何を疑問に思うかが疑問なんだよね。

 ボクじゃあ、素人質問も出来ん。

 頭いい人って、物事のあらゆる部分を理論として立てられる人なんだろうなあ。

 いやー、人は見掛けによらない。よらないけど……まさかチャラ男くん、影薄いからってわざと目立とうと!?



「わざわざ貸しを作ってまで、なんで古い遺跡なんてもん探させようとするんすか?」



 あ、やっぱちゃんと考えてたか。


 まあ、言われてみればそうよな。

 古い遺跡っても、それが価値あるものかなんてフタを開けてみないと分からんし。

 投資するにしても、やっぱデータがないと。

 しかも、投じた資金は、ボクらだ。自分で対等を口にしてるくらいだし、その代金も高くついたろう。ボクも、割と色々モノは貰ったし。それに、個人的な付き合いから依頼してるし、得た利益は懐に入れたい心づもりの可能性も高い。

 そこまでして、何を得たいか? その遺跡とはなんなのか?

 疑問だなあ、気になるなあってことか。


 なるほど、良く思い付くな!



「それは、クロノくんには伝えたことだ!」


「! 教団の関係!」



 あ、クロノくん今『アレって適当言ってたんじゃなかったのか!?』って顔したな?

 やっぱり、クロノくんがここに釣られた理由はそれか。 

 うわー、嫌な予感するなー。 

 教団の事になった途端、全体の空気が変わっちまったよー。

 


「皆、王子様の言う通りにしよう」



 結束感ハンパねー。

 共通の敵が居る時の人間って、なんでこうノリが良くなるかなー?



「やる気になったようで何よりだ! では、私は一泳ぎしてから帰るとする! 宿泊の場は用意しているので、キリの良い所で休むように! 期間は二週間とする! では!」



 あ、素晴らしく洗練された動きだ。

 飛び込みからクロールまで、全部がすごく綺麗に見える。

 コイツ、無駄にインパクトだけ残して帰ってったな。

 狙ってるだろ、コイツ。



「ぶふっ!」


 

 あ、ヤベ、吹いちゃった。

 もう、ダメだわ。なんだよアイツ。

 こんなに変な生物、四百年の人生でも見たことないわ。



「「「「「…………」」」」」


「いや、だってアイツ笑かしに来てるんだもん」



 シリアスな空気感壊してゴメンよ。

 でも、ツボだったんだよ、アイツ。


 いや、ホントごめんって!



 ※※※※※※※※※※※



 あー、やっちまったな。

 よりによって、一番面倒くせぇ奴のテリトリーに入っちまった。

 海底に建てられたっていう、このしゃらくささ。

 候補を考えるなら、まあアイツだよね。


 時の流れ。

 ゆるやかな破滅。

 風化と再生。


 第三使徒こと、バカヤンキーの研究施設のひとつだわ。


 

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