第104話 閑話だったりする
全力と本気は違うものだ。
全力とは、持っている力の限りを尽くすこと。
本気とは、真剣に物事に臨むこと。
ボクはクロノくんに、全力を約束したが、本気を約束してはいない。
別にいい加減な気持ちで戦うっていう訳じゃなく、マジのマジでやり合うつもりはないってこと。
ボクは、現段階、現状でのすべての力を尽くす。
流石に封印解除、全奥義解放の、本物怪物になったボクの相手をさせるつもりはない。
飛角落ちってところだけど、それでもボクを倒すのは相当難しい。
ラインとしては、英雄クラスだ。
もしも今のボクの全力を打ち倒せるのなら、それくらいの力はある。
そして、クロノくんは今、その瀬戸際に居る。
あと、ほんの少しで構わないんだ。一皮剥けてくれたなら、彼は大きな進展を遂げる。
ボクと戦い、ボクの技を学び取るだろう。
そうしなければ、勝てないし。
ボクの技は、
アリオスくんの時は随分と無茶をしたけれど、クロノくんはその無茶も少なくて済む。
多少しんどいけど、それをするだけの克己心と根性くらいはあるはずだ。
今回、ていうかしばらくの間はクロノくんの成長イベントは控えるつもりだったのに、凄いよねホント。
予想外ばっかりで困るや。
子供の成長は早いもんだよ。
今回の大会を通して思うけど、皆、生き急いでるみたいに強くなる。
ボクらみたいな長命な奴らは、時間感覚がいい加減になりやすい。それは純粋に感覚が老いているっていう訳じゃなく、強さや自信が充足し、これ以上を求める必要が無いって何となく思ってるのかも。
若さが無くなり、それだけ、欲するものが少なくなる。
ボクに限った話じゃなく、ギラついた渇望っていうのが見られなくなる。
ボクらが、彼らみたいなのに負けるとすれば、そういう部分が原因なんだろうな。
あーあ、老いたなあ、ボク。
昔はもっと、尖ってた気がするんだけども。気に入らねえ奴はとにかくぶん殴ってた。
でも、ボクも丸くなったもんだよ。ガキのお守りなんざやってられっかって、断っててもおかしくなかったのに。ボクはどうして、今、彼らの面倒を見る事を、不快に思っていないんだろうか?
……最近は、運命というものを強く感じるようになってきた。
大きな物語の中で、揉みくちゃにされてる気がしてくる。
ボクらの物語は、どう終わるんだろうか?
残念ながら、ボクは未来視を使えない。
ハッピーエンドでも、バッドエンドでも、構わない。
最近は、なんだか、疲れてきたから。
………………
ダメだ、ナーバスになってるわ。切り替えよ。
さて、決勝戦だ。
色々と思惑はあるけれど、スポーツマンシップに則ってやってみよう。
まあ、まだまだ、これからの話なんだけど。
「…………」
ボクが居るのは、会場の東寄り。
そこで、正座で座り込んでいる。
体内のエネルギーを練り上げ、留める。まあ、集中力を高めるためのルーティーンっていうか、修行の一環っていうか。
開始まで少しだけ時間があるから、それまでゆっくり待機だ。
考え事のために、心を穏やかに保つ。
まだまだ、朝早くの時間帯だ。澄んだ空気は肌を冷たく撫でる。荒んだボクの心を、整えてくれる。
そして、
「こんな朝早くから、熱心だな!」
「…………」
……ダメだ、喧しいのが来た。
むさ苦しいな、誰だよお前は。
「…………」
「おや、無視とは悲しい! よもや、私を忘れたわけではあるまいに!」
えーっと、なんだっけか?
たしか、王族の、アルなんとかさん?
何の用だよ。邪魔すんな、死なすぞ。
もう、面倒くさいのを相手する余裕はねぇんだよ、馬鹿野郎がよ。
「いよいよ決勝戦か! すごい凄いとは思っていたが、まさかここまでとは! 予想外だと言わざるを得ない!」
「…………」
「やはり、仲間にしたい! 私の計画に協力して欲しい!」
あー、思い出してきたわ。
なんか、どうでもいい事をウダウダ言ってた、筋肉バカじゃん。
マジでなんなんだよ、コイツ。
コイツのやりたい事は聞いてるけど、働きに対して何をどう返すとか、何を目指してるとか、そういう話まったく聞いてないんだけど?
なんだよぉ、何様なんだコイツぁよぉ?
まあ、そもそもコイツの話なんて聞かないようにしてたんだけどね?
「ほう、素晴らしい集中だ。まるで、振り切りたいものでもあるかのようだ。何やら、思い悩む所でもあったか?」
「…………」
うるせーなあ!
お前、今の状況考えるに、途中で負けたんだろ。
いつの間にかフェードアウトって、お前一番恥ずかしいからな!
モブの分際でしゃしゃんな、アホめ!
図星突いたからって、どうなるわけでもねぇから!
「おう、若干だが、気が乱れたな?」
「…………」
「分かるぞ。その植物のごとき静かな力とは異なり、表情が見えやすいな」
ポーカーフェイスも出来ねぇのかってか!?
ボクのこと、単細胞のバカだと思ってる!?
すっげぇイラつくんだけど!?
「ふはは! そう怒るなよ! ちょっとした特技だ。何を考えているか、仕草や表情から大まかに予想している!」
「…………」
「感情の揺さぶりが、大いに見える! これは、お近づきになれるチャンスだな!」
ダメだ、無視しないと。
コイツのことぶん殴りたいけど、正直反応すらしたくねー。
目ぇ瞑ってるから見えんが、鬱陶しいドヤ顔がなんか浮かんでくるわ。
ウゼェから近寄んなよ、この野郎。
経験上、お前みたいな人を巻き込むタイプのバカは、関わったらロクな事にならねぇって知ってんだよ。
あー、なんかもう逃げたくなってきたな。
本番まで時間あるし、別に逃げてからここに来ても全然大丈夫なんだよな。
ていうか、まだ朝日が昇るギリギリくらいの時間なのに、なんで居るのさ。
「そういえば、私の計画について、アイン嬢に説明していなかったな!」
「…………」
「実は、クーデターを考えているのだ! 我が父と兄を殺し、王位を簒奪しようと計画している!」
……ダメだ、ちょっと気になってきた。
クソふざけた野郎がクソふざけた事を言ったら、ちょっと面白いな。
ああ、聞いちゃいけない、いけない!
こんなアホの言うことなんて、聞いたらそれだけバカになる!
そんなのより、素数でも数えていよう。素数は孤独な数字だ。自分に勇気を与えてくれるって、どっか別の世界の神父も言ってた。
2、3、5、7、11……
「実は我が国は、病巣に犯されているのだ。しかも、その病巣は、想像以上に厄介らしい」
聞こえない聞こえない。
あー、聞こえない。
「教団とやらを自称し、我が国の貴族や臣民を拐かしている」
「……ん?」
「根は相当深いようでな。このまま放置すれば、『星護騎士団』に目をつけられかねん」
……っすぅーーーー。
まさか、こんな所で
ていうか、もう、目ぇ付けられてるんだよなあ。
クロノくんを育てるっていう教団一大プロジェクトは、現在も進行中だ。正直、これ以上酷くなるのは、確定事項である。
なら、コイツの鬱陶しい勧誘も、この先かなり酷くなっていくんじゃないか?
元はと言えば、全部ボクのせいだし、万が一くらいの可能性だけど、そこから怪しまれてバレたりする?
状況次第では、ボクたちの計画邪魔しようとするってこと?
普通にコイツ、王子らしいし、もしかしたら面倒くさい妨害をしかけるかもしれん。
もしかして、コイツの話に取り敢えず乗っておいた方が良いまである?
あ、ダメだこれ。
なんか、話を聞く感じになっちゃってる。
「知っているかな? 各地の英雄たちが、徒党を組んだ、世界最強の組織だ。彼らは、徹底して星のルールを守ろうとする。禁忌に至る可能性を持つ異端たちを屠る、世界の管理者だ」
「…………」
「そして、例の病巣は、その異端の可能性がある。こうして国ぐるみで異端と取引を続けていれば、腐った果実とされかねん。下手をすれば、この国が滅ぶ。その前に、落とし前を付けねばならん」
騎士団を知ってるだけに、場面が想像出来ちゃう。
あー、無視したいのに、意識がががが。
「現状を許す我が父と、その後継の首を並べれば、許して貰えるかもしれん」
う、うーん、あり得る……。
アイツら、たまにめちゃくちゃし出すからな。
ボクら絡みの案件で、国を滅ぼした実例もあったりする。
で、アイツら、英雄ばっかりだから、破天荒っていうか、性格破綻者が多いんだよね。
若者がケジメつける、つまり、覚悟を見せるのって、大概好きだからさ。現状どんだけヤバいかは知らんけど、やりゃあ許してくれる可能性大だわ。
「そのために、力が必要なのだ。王位を簒奪し、その後、大規模な改革を行っても、なんとか国を傾かせない程度の力がな」
「…………」
「三年だ。三年付き合ってくれれば、私は全てを成し遂げる。その後、相応の礼をしたいと考えている」
………………
や、やばくね?
思ったよりも、結構やばくね?
めちゃくちゃに巻き込まれる感じがしね?
えー、このままの流れで、クロノくんとドンパチしないといけないの?
すっげー集中力削られるな!
「君も、私の提案に乗った方が都合が良いのでは?」
……ボクの表の理由は、知ってるか。
まだセーフ、まだセーフ。
でも、コイツこの先、マジで何するか分かったもんじゃねぇな。下手すりゃ、騎士団と手を組んで、この国での教団排除の運動をしかねん。
この国でクロノくんの成長を見守る予定なのに、それは普通に困る。
カンの良いガキは嫌いだよ!
「この大会が終わってからで構わない。答えを聞かせてくれ」
おい、クールに去ろうとするな。
なんでコイツ殺しちゃダメなんだよ、神父!
……あー、この後は真面目にやろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます