第102話 だから嫌なんだよ、ボクに似てる奴は……


 ボクって、結構頭に血が上りやすいんだよね。

 別に、どうって訳じゃないんだけど、その場のノリとか勢いで色々やらかす場合がある。

 慎重にやろうと心掛けてはいる。いるけど、どうしようもない時はある。

 根っこの性質って、変わらないもんな。

 取り繕っても、ボクの根本はうっかり者で、気が短くて、下らないこだわりのために命を捨てられるバカだ。


 冷静沈着な悪の組織の幹部なんて、あんまりガラじゃないんだよね。

 向き不向きってのは、何にだってある。

 頭脳労働は全部アイツ任せだったし、今さらボクがそれっぽい事をしても、専門家には敵わない。

 だから、こういう事が起きるんだよねー。



「おい、さっき言った事について、詳しく教えてもらおうか?」


「…………」



 やっばー。

 何が発端かって言ったら、アリオスくんだよねー。

 こんなに一人に対して、長く時間をかけて育てた記憶もないしさ。

 熱が入りすぎたっていうのが本音だよ。

 弟子って呼んでも良い奴なんて、長い人生の中でも初めてだった。

 正直、アリオスくんの方がクロノくんより勝って欲しかったまである。


 そんな一番弟子の晴れ舞台に対して、ボクはテンションが上がってた。

 普通に言っちゃいけない事をポロってたらしい。

 エセ神父の研究所で、トップシークレットとして扱われてた単語だったとか、どうとか。

 全然口走った記憶とか無いんだけど、それってホントにボクが言ってた?

 実は気のせいとか無い?

 


「この耳で聞いたぞ。なんだ、『星の記憶』ってのは? 何故、お前が知ってる?」


「…………」



 やらかしたなー。

 流石に全部喋る訳にはいかんし。

 なんとか納得を残しつつ、ボクの事は味方って思って欲しいんだけどなー。

 まあ、自分のケツは自分で拭けってことか。

 しゃーねー、頑張って誤魔化そう。


 ここからどう誤魔化すかなんだけど、パターンとしては二つだね。

 一つ、話自体を明後日の方向に強引に持ってく。

 今、めちゃくちゃシリアスな雰囲気だけど、唐突に『お、今日は良い天気だね!』みたいな事を言って、お茶を濁してみる。

 道化役は得意っちゃ得意だ。ちょっとふざければ、すぐにギャグモードになって、きっとボクのやらかしも忘れてくれるだろう。

 ……うん、はい、論外です。怪しまれるどころの話じゃねぇわ。



「『神父』が躍起になってた、能力。あたしに植え付けようとしたのが、『星の記憶』だ。お前、まさか、それを持ってるのか?」


「…………」


「教えろ。奴らの目的を知るために重要な情報だ。吐くまで、絶対に逃がさないからな?」



 はい、やっても損しかないな、一つ目は。

 ていうか、肩掴むなや。逃がすつもりないのは分かったし。

 あーあ、ふざけられる雰囲気じゃねぇわ。やったら多分しばかれるな。

 じゃあ、二つ目しかない。

 それらしい事を言って、重要な事は言わない作戦!



「……話すから、放してくれない?」


「逃がさねぇぞ? 絶対喋れよ?」



 分かったよ、喋るって。

 言える範囲内で。


 てか、睨むの止めてくんねぇかなあ。

 喋りにくいんだけども。



「一応言っておくけど、面白い話じゃないよ?」


「いいからさっさと話せ」



 せっかちだなあ。

 話す気なくなってきそうだ。

 まあ、ぽい事だけは喋るとしよう。



「……『星の記憶』っていうのは、過去視の事だよ」


「過去、視?」


「過去を全て覗けるのさ。この世のあらゆる過去を。一部の化け物を除いて。大仰は名前だけど、それだけの力だよ」



 うん、嘘は言ってない。

 過去を視るだけの力っていうのはマジだし。

 ボクはそれをちょっと悪用してるだけだし。



「……魔法による過去視と、何が違う?」


「そりゃ、断然、性能さ」



 さて、どこまで喋ろうか。

 ボーダー的に、言って問題ないのは『星の記憶』の詳細。ダメなのは、ボクの正体に繋がること。

 やさぐれ娘は、ボクとほぼ同類だ。

 誤魔化されてる感じは、なんとなくで分かる。

 真摯な気持ちで、仕方ねーって感じで喋らないと駄目だなー。



「過去視の魔法は、対象の欠片が必要だ。バカみたいに手間をかけて、そんで得られる情報は一欠片。とてもコスパが悪いよね?」


「コスパ?」


「でも、『星の記憶』は違う。星に繋がり、その記録を引き出せる。無条件に、あらゆる過去を詮索出来るのさ」



 星の上で起きてきた、あらゆる現象、生物、その記録。

 それを覗き視る事が出来る。

 膨大、なんて言葉じゃ言い表しきれない、情報の海。何よりも正確で、見た側は、知識ではなく体験として成立する。

 この世で最も純粋な情報である。

 


「……それで?」


「正体は、星が生まれてから、ここまでの全て。ボクは、その記録の一部を得られるんだ」



 胡散臭げな目だねぇ。

 言ってることは本当だし、言うべき事は全部言ってるよ?



「……じゃあ、あたしの過去は知ってんのか?」


「いや、知らん。星が生まれてからの、あらゆる事が記録されてるんだ。普通に考えて無理だよ。砂漠に落ちてる特定の砂一粒を探すようなもんだよ?」



 情報をサルベージするのって、本当に大変なんだぞ。

 何十億年って続いてて、しかも、情報の種類だって膨大なんだ。一人の人間に絞って過去を知るとか、どう頑張っても五年はかかる。

 そんな便利なもんじゃないんだよー。

 ていうか、人が使うためのものでもないしねー。オーバースペックすぎて、使えたもんじゃない。

 普段使う分には、人間全体とか対象を大雑把にしないと分かんなくなる。

 まあ、そのおかげで、ボクは今の武を手に入れられたんだけどね。



「じゃあ、何故、奴はその力を再現するのに躍起になっているんだ?」


「その力を持っている事が、完成形の証だからじゃないかな?」


「そう思う根拠は?」


「能力自体が必要なら、第一使徒が居るもん」



 空気がピリついた。

 徹底して隠してるボクの、ほんの一欠片。

 予感が確信に変わる瞬間っていうのは、いつだってザワつくもんだね。



「やはり、あたしが見たものは……」


「有益な情報は、これくらいしか分からないよ」



 これで満足してくんないかなー。

 そろそろ席を外そうかしら?

 ボクの試合ももうすぐだった気がする。

 あんまり喋りすぎたらボロが出そうだし、早くおいとましたいかな。



「おい、待て」


「……何さ? ホントにもう何もないよ」


「お前の『星の記憶』の力を、使徒どもに使って、奴らの内情を暴けないか?」



 あーはー。

 ボクの能力でアイツらを探れるかってか?

 

 あっぶねぇな。

 嘘を吐かなきゃいかん質問じゃなくて良かったわ。



「無理だね。アイツらは、星の記録には残らない」


「何故?」


「アイツらが化け物だからだろ」



 対策をしてた訳じゃない。

 化け物たちが化け物になった過程で、星の記録から抹消されたんだ。


 教主は、自分の存在を封印してる。

 第二使徒幽霊女は、死にながらにして、生きている。記録なんて、生まれた瞬間から止まってる。

 第三使徒バカヤンキーは、体の時間の流れが無茶苦茶だ。奴の足跡は、どこにも残らない。

 第四使徒クソボロは、この世界に居ると見せかけて半分居ない。

 第五使徒エセ神父は、神の大いなる加護がある。この星の加護は、受けられない。

 

 ま、詳しくは言わないけど。



「……そうか」


「そろそろ、ボクらの試合もある。話してもどうにもならん事は止めて、ウォーミングアップでもすれば……」


「あ、その事なんだがな」



 ????



「あたしは棄権する。お前とも戦う理由が無くなったし、弟子の成長も見れたしな。満足した」


「は?」


「帰る。あとでお前らをあたしらん所のボスに紹介するから準備しとけ」



 あ、ちょっまっ!?



「…………」



 光った瞬間に、もう目の前から消えてた。

 周囲の気配を探ってみたけど、五キロ四方にはもう居ない。

 なんだ、アイツ? 自分勝手過ぎるだろ。

 ボクも久しぶりに激しめの運動したくて、実は準備とかしてたのに。

 ていうか、ボクとの決闘は予定してたはずだろ。なにドタキャンしてんだ。

 ホント、誰に似たんだよ、この野郎。



「…………」



 このトーナメント、残ってるのはクロノくん、アリシアちゃん、ボクの三人だ。

 で、クロノくんたちは同じブロック。ボクは皆とは反対に居る。

 そんで、アリシアちゃんが今さらクロノくんと戦うとは思えない。別に意地を張る理由もないし、クロノくんを傷つけるくらいなら、彼女、舌噛みきって死ぬだろうし。

 そんでそんで、もうクロノくん倒せるような奴は、ここには居ない。ボクも言わずもがなだし、順調に勝ち進んでしまうだろう。


 これ、決勝戦でクロノくんとタイマン決まったんじゃないか?

 ボク、準優勝以上で確定やん。

 クロノくんとの約束もあるし、今さら辞退する訳にもいかんし。



「…………」 



 目立っちゃダメだったのに、やべー。

 なんでこんなことになったんだ?


 

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