第87話 同族は嫌悪するタイプ
なんか知らんけど、『武術祭』とかいうのに参加させられる事になりました。
マジでいつの間にって思ったけど、どうやら強制参加らしい。
特待生って事で普段からめちゃくちゃ特別扱いしてるんだから、それに見合った成果は見せろってさ。別にこれだけで評価が確定するとかじゃないけど、少しくらいは他と違うって事を証明しなきゃならん。
今回のことはパス出来ない。こういうイベントはこれからもあるかもだし、無視すればクラス替えとかのペナルティがありそうだし、やらないわけにはいかん。
なんか知らん大会に出て、そこそこの成績を納めないと、任務に支障が出る、と。
ボクはよく知らんが、件の祭りとやらは武を競い合う大会らしい。
クライン王国主催で、バカみたいに金を注ぎ込んで、毎年やってるんだと。
かなりの規模の大会みたいで、優勝したらすっげー名誉らしい。
カスが。
ふざけやがって。
いくらなんでもさー、こりゃあねぇぜ。
普通に目立ちたくないのもそうだけど、ボクが出場してもつまらないじゃん。
だって、ボクだよ?
普通に今のボクの状態ですら、優勝は余裕だ。英雄クラスには流石にキツイけど、それ未満なら十分勝てる。勝つのなんて、分かりきってる。
しかも、ボクが出るってことは、他の子たちの活躍の機会を奪うって事だ。わざわざ若い子たちの大会で勝ち残って名誉を貰うとか、正直気乗りしない。
誰が好き好んでそんな老害ムーブしなきゃなわけ?
……『四百年修行した武闘家だけど、現代で無双は余裕です』ってか。
あ、いや、やっぱり何でもないわ。
言っててちょっとないわーって思った。
まあ、とにかく、気乗りしないのさ。
出来る事なら高みの見物かましたい所だけど、そうは問屋が卸さない。
しかも、
「いつ来るのかな、特別講師」
クロノくんの能天気ぶりが恨めしい。
ぽけーっとした顔してるけど、殴りかかったら避けられるだろうなあ。
最近、かなり仕込んだからさあ。
ストレス発散しようと思ったら、まあまあガチ目にやらんといかん。
いや、それはいいや。
問題なのは特別講師とやらだ。
「俺たちの戦闘を指導する実力者、か……」
「今さら必要あるか分かりませんが……」
まあ、気持ちは分かるよ。
ボクが指導してあげてるのに、これ以上が必要なのかってね。
実際、彼らのレベルも短期間でかなり上がった。
死ぬ気の実戦を生き抜いた経験と、ボクの指導の賜物である。
他の師匠役に不信を抱くのも当然さ。
ボクより上なんて、そうそう居ないし。
「……それより、特別講師って女じゃないでしょうね? これ以上は必要ないわよ」
「嫉妬かい、リリア嬢? 大丈夫。君には君の魅力が……」
「祟るわよ、ナンパ野郎」
呪い出すなよ、気絶させるぞ。
「というか、誰も講師について聞いてないのか」
うん、ホントそうだわ。
流石だね、貴族くん。皆が気にしてなかった所によく気付いたね。
ボクはまだしも、他の面子も知らないみたいだし。
普通に気になるけど、情報ないんだよね。
急に空き教室に全員呼ばれて、『は?』ってなってたし。
「どこかから推薦があったとか、なんとか。詳しい事は分かりませんでしたよ」
「なんだ、それは?」
「どうにも掴みきれないと申しますか……」
へー、なんかややこしいんだろうなあ。
ま、ボクには一番関係ないか。
どうせ、師匠とか必要ないし。
「まあ、皆、誰が相手でも、おかしな奴が来ても、あんまり喧嘩腰にあたらないでね? 悪い関係さえ築かなければ、面倒にはならないだろうし」
「なに仕切ってるのよ、チャラ男が」
「皆、喧嘩っ早い上に、力至上主義だから。変なことする前に釘刺しとかないと」
チャラ男くん、事なかれ主義な所あるよね。
そういうところ、徹底してて割りと好き。
このクラスの面子、結構ヤバい部分があるから、細かいところは彼がフォローしてくれそうだ。
暗殺者なだけで、結構良い子だよねぇ。
まあ、これまでの人生は、生まれがとにかく悪かったっていう事で許してヒヤシンス。
………………
あ
「あはは。でも、どんな人でも学べる所は学びたいよ。どんな人なんだろうね、楽しみだよ」
「…………」
誰も気付いてないか。
まあ、流石にそこまでのレベルじゃないし。
仕方がないや。これは、相手が悪いよ。
「!!?」
「え?」
「また!?」
クロノくんを、思い切り蹴り飛ばす。
悪いけど、こりゃあ避けられないわ。
乱暴なやり方になっちゃったけど、ごめんね。
次の瞬間、窓が割れる。
信じられない速度でやってきたから、多分、誰の目にも留まってないね。
ボクでも、今の状況じゃ無理だった。
敵が来たって、やっと気付いたんだもん。
「!」
「うっわ……」
迎撃されたことにビックリしたらしい。
ボクもビックリだよ。かなり余力を残してるだろうに、ここまでの速度を出せるとは。
間違いなく、英雄クラスだ。
心技体、全てが高水準、というだけじゃない。
何かしら、化け物じみた力を持つ輩だ。
「なるほど、悪くない」
「なんだよ、てめぇは?」
一対一じゃ、ちょっぴりキツイね。
部分的に封印を解放するか、他にも奥の手を見せるしかない。
どこの誰かは知らんが、面倒くさい。
アホアホ神父の仕込みかどうか分からんけど、戦うんなら全力でだ。
手加減なんてつまらん事はしないぞ。
「あたしの動きについて来るなんざ、タダモンじゃねぇな? 何モンだ?」
「人に名前を尋ねる時はまず自分からって言葉を知らんのか」
「知らねぇ。あたしの問いに即答しねぇってこたあ、死ぬ覚悟は出来てるって事だよなぁ?」
「てめえが死ねや!」
話が早くて助かるね。
さあて、今すぐぶっ殺して……
「し、師匠?」
は?
「おい、クロノぉ! このクソガキはなんだぁ!?」
「と、友達のアインです! 最近指導をしてもらってる、クラスメイトっ……あぶな!?」
「あたしの攻撃を躱すたあ、鍛練を積んでるようで安心したぞ! だが、それなら初撃も躱せたなら、なお良かったぞ! このチンチクリンに守ってもらわなきゃ、一撃貰ってたからな!」
友達っていうところはスルーしよう。
わざわざ否定するのも面倒だし、角が立つ。
それより、師匠?
あ、なんか前に聞いたなあ。どっかの戦争を終わらせた英雄なんだって?
英雄っていうより、ヤクザだろ、こいつ。
間違いなく、口よりも先に手が出るタイプだ。ぜってー、ろくなもんじゃねぇ。
「く、クロノくん、この方は、やはり……」
「み、皆、紹介する。この人は、俺の師匠、の!?」
「ライラ・バッカニアだ! てめぇらガキ共のお守りを任された! てめぇらが強くなれるようしごくが、あたしは器用じゃねぇから、毎日ボロ雑巾にしてやるから覚悟しやがれ!」
この、人の話を聞くのがかったるそうな態度。
暴力こそが至高って考えが染み付いてるな。
自分以外の大概は嫌いで、ほんの僅かな何かに自分の全部をかけられる精神があるだろう。
しかも、この匂い。
コイツは間違いなく、
似通いすぎて、正直キモいな。
およ?
「おい、てめえ。名前は? あたしは今、名乗ったぜ?」
「アイン」
「質問に答えろ。返答までの猶予は一秒だ」
「じゃあ、ボクの質問にも答えろよ」
「かまわん」
うん、マジでキモい。
ちょっと、奇跡的なレベルだな。
懐から煙草を取り出し、吸い始めやがる。
吸ってる時の顔から考えるに、こりゃあれだな。
「てめえ、賭け事は好きか?」
「やったら絶対負けるから嫌いだ」
「奇遇だな、あたしもだ」
眉間にシワが寄っていく。
多分だけど、向こうも同じ気持ちだね。
「やさぐれ女。あんた、酒は好きか?」
「あたしは体質上、毒が効かない。だから、酔えない。普段飲むのは雰囲気だ。酔った気分になりたくなる時にたらふく飲む」
「とても奇遇だ。ボクもだよ」
他の皆、どうしたらいいか迷ってる。
まあ、不思議だもんねぇ。急に機嫌が良くなってくし、しかもそれが普段ニコリともしない、何考えてるかわからない奴だからなおさら。
普通にビックリしてるみたいだよ。
コイツと気が合う奴が居たのか、みたいな。
「そうかそうか……じゃあてめえは、煙草は好きか?」
「嫌いだね。一回吸ったが、旨さが分からなかった。でも、自分の匂いを誤魔化すのには良い道具だ」
「はっ! あたしもそう思うよ!」
で、だよ。
「じゃあ、最後に。暴力は好き?」
「大抵のことはそれで解決するからな。好きだぜ」
「じゃあ、殺しは?」
「生き死にってのは、振るった暴力の果ての結果の違いでしかねぇ。どっちに転ぶかは、その時の気分次第だ。好きも嫌いもないな」
ボクとまったく同じことを考えてそう。
ここまで趣味が合う人間は初めてかも。
ということなので、
「「死ねえええ!!」」
「「「「なんで!?」」」」
「…………」
やっぱり、速い。
ついでに、命を獲ることに対して何にも意識してないのもポイント高いな。
完全にボクと同じタイプのクソヤロウだ。
技量もなかなか高い。
まさか、先手を取られて殴られるとは。
「死ねやああ!」
「あんたがな」
受け、打ち込み、躱し、また打ち込む。
基本やってきたのが拳VS剣だったから、ステゴロ対決ってなんか新鮮だわ。
………………
集中するか。
左の崩拳に対して手首を取って、足を払う。
宙を浮いた体を打ち抜こうとしたけど、冗談みたいな挙動で移動して、避けた。
そのまま直角で飛行し、突撃してくる。
タイミングを合わせてしゃがみ、水月を肘で打った。でも、大したダメージは無さそうだな。
怯まず蹴りを放ってきたから、防御する。
ガード越しでも、手が痺れる。流石にエネルギー量に差がありすぎる。
構わず向かってくるやさぐれ女に、手の平を向ける。
付き出してきた拳に対して、カウンターで掌底を叩き込んだ。
「やるな!」
「黙れ。黙って、死ね」
ハチャメチャなエネルギーが右手に集中してる。
ボクのガードの上から叩き潰すためのものだ。
これで決めるつもりだな。
上等だよ、返り討ちにしてやる。
ボクは、自分の攻撃に技名は基本つけたくない。
だって、そんなんわざわざ作らなくたって、ほとんどの敵はボコボコに出来るし。
あと、そんな特別なものすがらなくても、身についた形のない技術だけで最強で在れるのが一番カッコいいし。
でも、やっぱり必殺技を作ったこともある。
男の子は、カッコいい技を叫んで派手な感じで敵を倒したいものなのだ。
その時は、必殺技が一番カッコいいと思ってたし。
だから、あるぞ。ここ何百年かは使ってないけど、必殺技が。
今ここで、コイツを殺すためには、必要だ。
実は結構黒歴史だけど、それでコイツを殺せるなら、必要経費だ。
さて、
「第二の技……」
「『破邪顕正』……」
お互い、この攻撃は受ければ死ぬ。ガードは不能だ。
如何にして躱し、自分の技を叩きつけるか。
嵐の前の静けさとも言うべきか。
呼吸すらも止めて、相手の気を探る。
そして、
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」
クロノくんが間に割って入った。
巻き込む訳にもいかないので、技の構えを解く。
やっぱり、向こうさんも同じことを考えてた。
思考回路まで似通うとは、本当に癪に障る。
「な、なんでいきなり殺し合い始めてるんですか!? なんか、仲良く出来そうな雰囲気だったでしょ!?」
「「いや、自分と似すぎてる奴ってキモいだろ。生理的に絶対無理だわ」」
む? なんだ、てめぇ?
真似すんなよ、こらあ。
「よし、決めた。てめえは、ムカつくから潰す。誰にも邪魔が入らない場所でやろうぜ」
「乗った。真正面から叩き潰してやる」
「ちょ、ちょっと、二人とも……」
あ、そうだわ。
「次の『武術祭』とかいうの、あんたも出ろよ。そこで白黒つけようや」
「あたしに負けるまで、誰にも負けるなよ?」
「会場の土舐めさせてやる」
その時、チャラ男くんの姿がふと目に留まった。
とても疲れた顔をしている。
そんで聞こえるかギリギリの声で、ボソッと呟きやがった。
「血の気多すぎるだろ……」
でも、ムカつく奴ってボコボコにしたいやん。
調子乗ってるのを放っておくなんて出来ないよ。
高い鼻っ柱はへし折ってこそだろうが。
ん? だから血の気多すぎるって言われるんだって?
うるせー、バーカ。
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