第64話 近年希に見る怪文だったわ


 なーんかおかしいなあ、とは思ってたんだよ。

 

 案内された部屋はめちゃくちゃ厳重に秘匿されてるし、なんかインテリアがいちいち豪華だし。

 こんな威圧感丸出しの部屋で何すんのかなあって思ってたよ?

 その事をエセ神父に聞こうとした、出されたオーダーは、黙って座ってろ。

 この仮面つけて一切喋るなって、酷くない?

 なんというか、扱いがすごい雑っていうか。


 そのまま出てっちゃったエセ神父をじーっと待っててさあ。

 連れてきたのは、まさかのチャラ男くん。

 

 ビックリだよ、ホントに。

 内通者、絶対どこかに居るとは思ってた。

 そりゃあ一大プロジェクトなんだから、人材なんて腐るくらい使い潰すつもりでしょうよ。

 クラスメイトに一人や二人、押し込んでも、確かに不思議はない。

 この国には根深くボクたちが浸透してるみたいだ。

 こういう工作員も、ちょくちょく育ててるんだろうなあ。貴族の令息にもそんなの仕込むなんて、ちょっとやり過ぎじゃねとは思うけども。


 まさか、まさかだよ。

 

 これまで、不自然に距離を感じてはいた。

 すごい人当たり良さそうなのに、クロノくんたちとは最低限しか関わらない。

 普通に考えて、出来るだけ仲良くなった方が将来のためになるのに。

 なるほど、そういう目的だったのか。

 ちょっとだけ納得しちゃう。


 前回のツンケン娘の事件も、まったく問題にならなかった。

 それは教師側だけじゃなく、生徒も含めて、まったく騒いでる様子はなかった。

 生徒側の調整をしてたのは、こいつか。

 ホント、どこまでコントロールしてるのやら。

 教団の手が入り込んでないところを逆に教えて欲しいくらいだわ。



「重要な試練です。良いですね? よく、聞きなさい。教団の明日は、貴方にかかっています」



 エセ神父が、チャラ男くんの肩に手を置く。

 本気で期待してるかのような言い方だ。

 気色悪くて、最高だね。

 出来れば二度と見せないで欲しい。


 

「クロノ・ディザウスを暗殺しなさい」


「!」



 チャラ男くん、ビックリしてる。

 これまで、重要な役割を担ってる人間、くらいとしか聞いてなかったのかも。

 いや、マジもんに重要なんだし、クロノくんの事を知ってるのって、一握りの幹部だけか。

 ずっと見守ってたのに、ここに来てなんで暗殺? ってなってそう。



「貴方なら、出来ると信じていますよ?」


「し、使徒様にそう言ってもらえるなんて、こ、光栄です!」



 うっわ、ぜってー嘘だ。

 微塵もそんなこと思ってもねぇくせにさ。

 こいつ、こういう所が嫌いだよ。

 嘘を吐くだけなら別に良いけど、上げてから落とそうとするからさあ。

 意図的にそうしてるんだ。そういう絶望が好みだから。



「必ず、奴を殺してみせます! 奴の首、すぐにここに並べてみせましょう!」


「ええ。頑張ってください。もう、外してもらって構いませんよ」



 ウッキウキで、チャラ男くんが帰ってく。

 ちなみに、あの軽さって素なのかな?

 猫被ってる可能性高そう。

 

 で、だよ。



「どゆこと?」


「見ての通りです」



 ちゃんと説明しろや、カス。

 その胸ぐら掴み上げてやろうか?



「……今回、小生に任せて貰えませんか?」


「……どういう意図で?」


「では、説明させていただきます」



 おう、早よしろや。

 ボクは気が短いんだぞ。

 ムカついたら締めてやるからな。



「今回の件で、布石を仕込もうかと思いまして」


「布石?」


「ええ、布石です。我らの物語を進める上で、必ず役に立つでしょう」



 自信満々に言うけど、ホントに大丈夫?

 こういう時って、大抵不測の事態が起こって、妙な方向に話が進む気がする。

 なんというか、体験談的なアレで。

 予定は未定っていうか、普通に計画通りになることの方が難しいんよ。

 マジで、いったい何をする気なのか。

 


「貴女は、場当たり的過ぎます。もっと大局を見て、トラブルを用意すべきです」


「は?」



 なんだ、こいつ?

 その通りすぎてぐうの音も出ねぇぞ?

 いきなり正論で殴られた。反撃のために実際にこの手で殴って欲しいのか?



「まず、今回は彼を使ってトラブルのキッカケを作ります。そこから、展開を作るのです」


「トラブルって?」


「『神気』を使っても、解決できない状況でしょう?」



 いや、そうなんだけど。そうなんだけど。

 それが出来たら苦労しないんだよ。

 ちょっと前に、『魔王』なんてとんでもないラスボス倒させたんだよ?

 そのせいで、大抵のことはインパクトに欠ける。

 ていうか、あのイベントのせいで、クロノくんのレベルも相当上がった。三人がかりとはいえ、『魔王』に肉薄できるようになったんだ。

 これが苦戦する試練って、ムズくない?



「貴女は、思考が凝りすぎです」


「あ?」


「どうせ、『魔王』を倒せるレベルの相手にどんな試練を与えれば、とか思ってるんでしょう?」



 …………

 殴りてぇなあ。



「良く思い出してください。彼らのあの時の状況を」


「?」


「彼らの力は、いつでもどこでも発揮できるものですか?」



 あ


 そうじゃん。使えねぇじゃん。

 マジで、なんで忘れてたんだろ?


 彼らは、確かに強い。

 あんだけ『魔王』を追い詰められるなんて、世界的にそう居ない実力者集団だ。

 でも、それはとても限定的な強さ。

 彼らの強さは、『神気』無しには成り立たない。

 クロノくんは言わずもがなだけど、他の二人に関してもそう。あの二人は、クロノくんっていう神から、加護を与えられている。

 加護は、神を強く信じる下僕、言っちゃえば眷属に、神がその『神気』を一部貸し与えることで成り立つ、擬似的な『自己強化』の奇跡。

 あの『魔王』を追い詰めた強さも、加護あったればこそだ。


 でも、『神気』の行使は、世界から隔絶された空間の中でしか成り立たない。

 星に気づかれれば、その瞬間に『裁き』を喰らう。

 だから、彼らは実はそこまで強い訳じゃない。



「それだけ限定的な力なら、すぐに詰みを作れます」


「……いや、そうだとしてもだよ? それでも彼らが面倒くさいくらい強いのは確かじゃない?」



 なんか、こいつに言いくるめられるのは癪だな。

 出来る限り論破を狙ってみよう。

 ……この、他人のミスを出来るだけ引き出そうとしてるは、我ながらキモいな。

 


「ええ。確かに、彼らの力は素晴らしい。仰る通りですとも」


「うわ、鼻につく」


「ですが、その方が良い。明確に強みがあるのなら、『その状況さえ作れば』という勝ち筋が読みやすい」



 あ、なるほど。

 マジで頭から抜けてたわ。

 死なない程度に詰ませるレベルの状況を作って、適当に助け船出す事しか考えてなかった。

 雑頭か、ボクは?

 ボクらの目的は、別に彼らを戦略で詰ます事じゃない。

 詰みかけの状況を何とかして欲しいんだ。それで、レベルをなるべく上げて欲しいんだろが。


 

「つまり、クソな状況を押し付けて、ここしかないっていう成功の道を作ったらいいのか」


「活路を用意してあげれば、多少の都合の良さは誤魔化せます」


 

 なるほどなあ。

 じゃあ、ボクの想定してるよりヤバい状況持ってきてもいいのか。

 丁度良い塩梅がわからんだけど、もっと雑になって良かったな。



「死なせるような勢いでやったら良かったのか……」


「それもいいのですが、もう少し良いやり方もあります」

 


 ?

 どうすんの?



「細かいトラブルを沢山起こします。『神気』なしでギリギリ解決できるものを」


「それって、何がいいの?」


「混乱してくれます。焦って、判断を鈍らせて、苦しんでくれます」



 なるべく、手を煩わせるのか。

 確かに、それなら『神気』を使う状況を作らせ難い。

 簡単でも、積み重なればヤバくなる。

 人の手さえあれば、そんな状況を作るのは容易い。

 ……ていうか、そんな風に他人を頼るっていう発想がそもそも無かったわ。


 ん? ていうか、それなら何する気だ?

 ちょっと嫌な予感しだしたな。



「彼は、とても良い子ですねぇ。目の前に助けられる命があるなら、絶対に助けようとする。に育てさせて良かった」


「何する気?」


「先程説明した通りです」



 ……ヤバくなりそうだな。

 これはかなり派手に地獄を作る気だぞ。

 ていうか、それ大丈夫か?

 


「あんまり暴れたら、が動くぞ?」


「ええ、それも目的のひとつです」



 は? マジでどういうこと?

 あいつ等、刺激しなくても巣ぅつついたスズメバチみたいに暴れるのに。

 わざわざ巣の真ん前で挑発する必要ある?

 とにかく迷惑な奴らなんだし、呼び込まない方がいいでしょ。



「正直、小生も彼らを呼び込みたくはありません。迷惑な方々ですから」


「???」


「ですが、彼らは我々の行動に過敏です。いつまでも隠し通せると、思いますか?」



 まあ、正直言って思わん。

 でも、唯一顔バレしてないボクが対応して、バレても誤魔化し通せっていうオーダーも込み込みだと思ってたよ?

 言わんとして事は分かるけどさあ。

 うーん、マジでどういう事だあ?



「ある程度の成長は確認しました。なら、もう彼らを呼び込み、一部管理させませんか?」


「いやー、流石にデメリット大きいでしょ?」


「いえ、我々の目的を管理していると思わせられるのなら、逆に動きを操れます」



 んー、確かにそうだけど。

 それじゃあ、どうしても不確定要素がデカイよ?

 これがわからん神父じゃないはずだけど。



「今、彼らとの戦争は激化しています。ここに後で送られてくる人材も、予想可能です」


「…………」


「小生が送り込んだ内通者が、きっとここに来るはずです」



 まあ、確かにそうなったら良いけども。

 けど、それならこんな言い方しないだろ。

 ということは、スゴいな。



「……お前、それはように聞こえたぞ?」


「いつになく話が早いですね?」



 全部、織り込み済みか。

 マジで人間不信の極みみたいな奴だな。

 どっちに転んでも構わないってか。いや、もっと言うならテストかな?

 なんにせよ、トラブルの種になるか。

 物語を劇的にすればするほど、クロノくんのためになるからね。



「まあ、好きにすりゃいいよ。ボクが思い付くような粗は、無いんでしょ?」


「ええ。勿論ですとも」



 色々考えられてるみたいだし、文句ないわ。

 今回は、出番はくれてやろう。

 好きにさせても、こいつなら悪い事にはならんだろうし。

 面倒くさい奴だけど、頭脳労働ならボクよりずっと出来る奴だ。

 面白い展開になるように、祈っておこう。

 

 あ、そうだ。



「そういえば、何でボクをチャラ男くんに会わせたの? わざわざ覆面させて、力まで解放させた状態にして」


「ああ、そういえばそこの説明がまだでした」



 普通にワケわからん奴に会わせただけじゃん。

 力の差を見せつけただけじゃん。

 あれじゃあ、ボクがひたすら凄いってことしか伝わんないぞ?

 それが目的だとして、何を狙ってるんだ?

 


「今回の件なのですが」


「うん」


「一位殿、ヒロインになってください」



 は?

 ……は?

 

 ………………は?



「は?」


 

 頭、バグった。 




 

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