四章 人が嫌い

第63話 あれ? ボクって要らない子?


 あの事件から一ヶ月くらい経った。

 

 一応迷宮の中に閉じ籠ってたボクらは、二週間ちょっとくらい行方不明扱いだったから、事件開始からは一ヶ月半くらいかな?

 なかなかに穏やかな日々だったよ。

 ふつーに勉強したり、ふつーに遊んだり。

 いや、別に遊んではなかったか。放課後の学生よろしく、友達と一緒に遊んだみたいなニュアンスだけど、ボクは後をつけてただけだし。

 ていうか、彼らも特に遊んではないか。

 この一ヶ月、ずっと修行してたみたいだし。


 いつメンの三人プラス、ツンケン娘とね。

 

 いやあ、ビックリだったね。

 まさかあんだけツンケンしてたのに、クロノくん相手にあそこまでデレルとは。

 確かにあの子を助けるのを主導したのはクロノくんだし、そりゃそうか。彼以外、正直助けようとした人間は居ないからねぇ。

 初めて優しくしてくれた人。初めて愛せるかもしれない人。そりゃあ、ホの字になるのも納得だね。


 クロノくん、めちゃくちゃ困ってたなあ。

 そういうのに慣れてないのと、自力じゃここまで上手くいかなかったっていう負い目かな?

 そんな大層な事はしてないって対応だけど、なんか硬派な感じになっててウケる。

 こりゃあ、女の子はメロメロっすわ。ひゅー、クロノくんカックいいー!


 クロノくん、メンタルがかなり心配だったけど、持ち直したみたいで安心したわ。

 彼がギブアップしちゃったら、マジで終わりだかんな?

 戦闘不能なくらい引きずってるなら、適当に慰めてあげようと思ってたけど、その必要はなくて安心した。

 そんな繊細な作業、ボクに出来るわけないし。


 まあ、精神的な傷が全快したとは言わんけど、まあ大丈夫な範囲だろ。

 大丈夫大丈夫。男の子なんだから、このくらいでへこたれんな。


 実際、今も修行頑張ってるし。

 必死に何かに打ち込めるなら、問題ない。

 

 ん? 話すことはそれだけかって?

 騒ぎとかになったんじゃねぇのか?

 あんだけゴタゴタあって、事後処理をどうしたか?


 んむう。まあ、確かにそうか。

 いきなり一ヶ月経過しましたー、は、ちょっとワケわからんか。

 とはいえ、そんなに変なことは起きてないよ?

 ホントに、言うことないんよ。

 ふつーに次の日から平穏な日常が続いてるし。

 

 学園の中に、ボクらの協力者が居るかもねーって話はしたよね?

 誰かしら学園の関係者として潜り込んでて、裏で手を回してる的な。

 今回の件も、そいつが大活躍だったらしい。


 ビックリしたよ、マジで。

 大分期間空けてたはずなのに、教師含めて誰も何も言わねぇの。

 外の時間止まってたのかと思ったわ。

 あんまりにも自然に授業の続きとかし出すから、クロノくんたちと一緒にポカンとした。

 これには皆、色々と思うところがあったらしい。

 幸薄ちゃんなんかは、裏で探ろうとしてたみたいだけど、結局何も掴めずじまいだったし。

 なんとなく分かるのは、幸薄ちゃんでも分からないくらい、の力が働いてるってことか。

 

 半月も生徒が五人も行方不明になってたのに、騒ぎは一切なかったとか。正直言って、意味が分からん。

 マジで誰がこういう調整してるんだろ?

 エセ神父が知ってそうだけど、紹介してくれないしなあ。

 ま、教えられたところでって感じだけど。



 さて、大体話し終わったし、これからの話でもしようかな?

 ツンケン娘の章も終ったことだし、次の事件を用意せにゃいかん。

 今のクロノくんにギリギリ飛び越えられるハードルを持ってくる訳だけど、どういうキッカケを作るか。

 未来予想図というか、予定というか。


 …………


 やることないなあ。

 話すか、とか言っておいてどういうこっちゃいって思うだろうけど、ちょっと待って欲しい。

 そもそもね? そんなトラブルばっか起きるかと。

 普通に考えて、これまで起きてたような、命に関わる大事件なんてそうそう起こるか!

 

 お前の仕事はそれを持ってることだろ?

 無いんなら作れ?

 

 うるせー!

 出来ねぇから困ってるんだろ!

 

 あー! もうマジでどうしよっかなあ!

 学園生活始まってそんな時間経ってねぇけど、もうネタ切れだよ?

 ていうか、三つも大事件起こしてるんだから、仕事事態はめちゃくちゃしてるだろ。

 

 困った困った。

 マジでどうしよっかなあ。

 外部からやベー魔物でも持ってる?

 いや、そんじょそこらの魔物にクロノくんが苦戦する訳がない。

 誰かしら、強い奴でも見繕って襲わせる?

 魔物と同じだって。やっても無駄無駄。強いだけなら誰でもいいけど、それなら逆にクロノくん殺しちゃうよ。

 じゃあ、火山にでも突き落としてみる?


 ……マジで良い考えな気がしてきた。

 どっか過酷な環境に突っ込んでみようかな?


 ん?


 あれ?

 エセ神父から連絡入った。

 なんだろ?



 ※※※※※※※※



 用意された豪奢な椅子。  

 いちいちキザったらしい装飾。

 厳重に秘匿された空間。

 ボクも、ここがどこかは知らない。

 連れてこられた時、尋ねるなって圧をかけられたから。

 

 そんな秘密の部屋で何をするのか?

 いや、ボクが教えて欲しいわ。



「見なさい」



 取り敢えず、覆面して、威厳がありそうな感じで座ってろって言われてた。

 クソ蒸れるし、いつになったら来るんだってイライラしてたけども。

 うん、待ってたんだけどもさ。



「アレが、我が『越冥教団』の最高幹部、使徒の第一席です」


「…………」



 まさか、ホントにまさかだよ。

 誰が内通者なんだろって思ってたけどさあ。



「凄まじい、ですね……」


「教主殿と共に教団を作りあげた、最古にして最強の使徒ですから」


 

 まさか、ホントにまさかだよ。

 いや、確かに一捻りあるんだろうなあとは思ってたけどさあ。

 


「今日、ここに貴方を呼んだ理由が分かりますか?」


「……いいえ」


「長らくの貴方の忠誠を称えるため。そして、重要な任務を与えるので、そのための儀式です」



 エセ神父が、体を退ける。

 ボクから、もう一人の顔が見える。



「信徒、ラッシュ・リーブルム。貴方に、重要な任務を与えます。一位殿も、期待していますよ?」


「……はい。ご期待に沿えるよう、必ず成し遂げて見せましょう」



 いや、見た目の割りに影薄い子だなあとは思ってたよ?

 クロノくんたちに全然絡まないし、何かあるんだろうなあとは。

 あー、でも、良く考えたらそうだよなあ。

 

 生徒側に潜り込んでたスパイは、ボクだけじゃなかったみたいだ。

 

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