第43話 ボクが積み上げてきたイメージがががが……


 人類の英雄は、誕生しました


 希望の星は、ついに生まれました


 ソレ、『勇者』は、人間の側の『魔王』として認められました


 残った国の全てが力を結集して、全ての英雄が補佐に回りって、全ての人間が『勇者』のためにその命を使うことを厭いませんでした


 誰もが、『勇者』を頼ります


 誰もが、『勇者』の庇護を求めます


 その存在は大切で、大切で、人間にとって希望ゆえに、宝石のように過保護に守る必要があります


 だから、どこの誰にも背を預けられない『勇者』に、仲間が必要でした


 人間たちは、既に次の戦いを始めてしまっている『勇者』の後ろで、ああでもない、こうでもないと、適任者を探していました


 しかし、東の海の『大嵐』との戦いに付いて来れるような人間は居ません


 どんな英雄が『勇者』の援護をしようとも、助けにはなりません


 誰を派遣しても、誰を見出しても、『勇者』の足元にも及ばないのです


 本当に、ただ『勇者』にぶら下がる事しかできないのか?


 たったひとりに重荷を負わせ続けなければならないのか?


 罪悪感と、恐怖と、不安で候補をあげる声すら、風前の灯火のように消えかかった頃です


 ちょうど『勇者』が七度目の敗北を『大嵐』に喫した頃です

 

 


 後に『賢者』と呼ばれた男が、その手を挙げました



 ※※※※※※※※※※※



 ガチでやらかした……

 こんなにしくじったのは、四百年ぶりくらいかもしれん……

 もう、ほんとに勘弁してくれよ。

 これまで、結構うまく行ってたじゃん。

 ほんの少し気が抜けたらコレだよ。だから嫌なんだ、暴力で解決できないことはさ!

 

 はーあ、ダル。

 次クロノくんと会う時、どんな顔すりゃいいんだよ

 これまでずっとすまし顔しまくってた謎のクラスメイトが、裏であんだけ暴言吐きまくるハッチャケお化けだったらボクなら引くわ。

 裏垢を知り合いに気付かれるレベルでクソ度が高い。

 どうするのが正解だと思う?

 普通にもう詰んでる気がせんでもないが。

 

 選択肢① クロノくんの記憶をイジル


 肉体と精神の健全性が『神気』を制御する源だから無理。

 やったら普通に暴走するわ。


 選択肢➁ 逃げる


 任務の途中放棄は認められない


 選択肢③ 素知らぬ顔をし続ける


 何の解決にもなってない上に、ボクが恥ずかしい。

 クロノくんの『え、アレ無かった事にするんか?』みたいな顔するのが何か見える。

 ぜってー滑ったみたいな空気になるからやんねー。


 残された選択肢全部ダメだな。

 クソクソのクソ。

 なんか良さげな言い訳考えなきゃダメじゃん。

 かったりーなー、もう。

 隕石落ちてきたら全部消えてなくなって楽なのになー。

 あー、いや、隕石降ってきてもこの学園に張ってある結界に弾かれるわ。よしんば貫通しても、ボクがクロノくん守るために壊すし。

 つまり打開策はないって事だな、ヨシッ!


 …………


 まあ、ぶっちゃけ、別に言ったらヤバい事は漏らしてないから詰みってほどじゃないけども。

 本当にヤバい事を言っちゃったなら、一か八かに賭けて選択肢①はやってたよ。

 クロノくん以外、死のうとどうなってもいいし。

 しょーじき、あの一連が見られたところで、計画の全部がどうにかなる訳でもない。

 問題なのはボク自身だ。


 いくらなんでも、我慢が効かなすぎる。

 あの程度の呪詛で身が悶えるほど嫌悪を示すなんて、ちょっと自分でも驚いた。


 呪詛、呪力っていうものに、ボクはめちゃくちゃ抵抗がある。

 この世の何よりもグロいと思ってる。

 見ただけでゾワッとするし、ホントに関わること自体がすごい嫌。

 気持ち悪さの極致にあるのがアレだと思ってる。

 

 じゃあ、なんでそんな嫌なんってなるよね?

 理由はボクの体質? の問題。

 

 何回も言ってるけど、ボクは星の化身だ。

 ベースは人間だけど、もうどちらかと言えば『星霊』に近い存在になってる。

 つまり、ボクの人間としての理性とかを押し退けて、星の思考や性質が優先される時があるのさ。

 今回のケースは、まさにこれ。

 ボクの人間としての視点では、呪力とか魔力とか全部どうでもいいんだけど、実物を見たらまったく違う感覚が湧いて出てくる。

 

 星からすれば、自分のエネルギー由来のモノじゃない呪力が不気味で気持ち悪いの。

 星は素直って話もしたでしょ?

 だから、ボクの中にある星の感覚的には、呪力っていうのは気持ち悪くて仕方ない異物なの。

 

 さらに分かるよ?

 じゃあ、『神気』はどうなんだって話だよね?

 実はこっちは全然我慢できるの。呪力とはまったく本質が違うから。


 嫌いって感情にも、色々種類があるって事さ。

 呪力が虫だとすれば、『神気』は猛獣だ。

 虫が大量に集まってたら気持ち悪いでしょ? でも、わざわざ近寄ったり、ちょっかいはかけたくない。気持ち悪いから距離を取って、それでも向こうが近寄って、こっちの手に殺虫剤持ってたらようやく『殺してやる』ってなる。

 でも、猛獣は違うじゃん。

 明らかに自分より強いし、余裕もない。逃げても逃げきれないのは分かってる。なら、黙って殺られるくらいなら、本気で『殺してやる』ってやるしかないじゃん。


 星は、どちらにも異物感や恐怖を感じてる。

 だけど、その内容はまったく別物なの。前者は嫌悪、後者は純粋な恐怖だ。

 ボクが『神気』に対して冷静かつ敏感で居られるのは、星が『神気』に対してマジな証拠。で、ボクが呪力に鈍くて、嫌悪感を抱くのは、星が呪力に対してキモいと思ってるけど、『敵』とは思ってないからだ。


 ちょーっと話が逸れたりしたけど、ボクにとって、アレに関わるのは文字通り生理的に無理ってこと。

 あの痴態も、しゃーない部分はある。

 あるけど、ちょっと問題がね?


 普段のボクなら、あれくらい我慢できた。

 キモいなー、とは思ってたけど、あればやりすぎ。

 度を越して我慢ができなかったんだ。理由は、もう分かっちゃった。


 ボクがエネルギーの大半を封印したのが原因だね、これは。

 ごっそり力が別けられて減ったせいで、ボクという存在のスケールが落ちたんだ。

 呪詛のことをボクはゴキブリ、と表現した。

 でも、ちょっと前のボクならそんな事は言わなかったよ。本当なら、ボクからすればあの程度の呪詛、微生物の群れと変わりなかった。

 キモいけど、問題になるほどの大きさじゃないから、我慢も出来るし、放っておける。 

 

 でも今は、そうも言ってらんないけどね。


 ボクは、どうしても、嫌悪が勝る。

 どうしても、あの衝動は抑えられない。

 これ、割りかし問題なんだよ。

 ボクの任務は、クロノくんのクラスメイトとしてクロノくんに近づき、彼を制御すること。

 その中には、隠密とかの繊細な作業が必要になる。

 なのに、アイツが横からあんな気色悪い呪力垂れ流しにされたら、仕事に集中出来なくなる。


 特に、最後のの時とかにいきなりこんなのが来られたら、ね?

 ボクらにとって一番大切なのは、目的達成。

 邪魔されるのは、とても嫌。


 そうなったら、本気で困るんよなあ。

 なるべく、クロノくんの関係者は殺したくないし。

 もしも殺したのがバレたら、クロノくんが成長するための餌が減っちゃう。

 殺すにしても、クロノくんの暴走に巻き込まれる形にしたい。

 クロノくんが最も成長出来るように、ボクもチャートを慎重に整えてるんだ。

 場合によっちゃあ、ツンケン娘は殺すけど、今のところはもったいないからしない。面倒と利益のバランスを取ってる段階だからね。まあ、今後の展開次第で普通に殺すっていうことなんだけど。


 それにしても、殺したくてたまらない『害虫』が、そのクラスメイトとはなあ。

 いやー、困った困った。 

 殺したいのに殺せないなんて、暴力至上主義のボクのプライドが傷付く。

 本当に困っちゃったよ、こらあ。


 だからさあ、



「君、呪術使うの辞めてくれない?」


「…………」



 ツンケン娘に親切丁寧にお願いして、呪い関係の全部を使わないようにして欲しい。

 今すぐ、なるはやで。

 出来ることなら、未来永劫。

 ボクの目に一瞬ですら映って欲しくない。



「君のその気色悪いの、とてつもなく迷惑なので。気持ち悪いから、ボクのために一切合切辞めてよ」


「やれるもんならやってみなさいよ……!」



 喧嘩っ早いにもほどがあるぞ。

 ビックリしちゃうね、ホント。



 

 

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