第40話 一難去ってまた一難って、ホント堪ったもんじゃないよね


 厄災は、あらゆる『魔』を従えました


 北の山の主である『霜の巨人』も


 南の荒野の王である『黄金の龍』も


 東の海を統べる『大嵐』も


 西で逆らえる者など居なかった『月の巨狼』も


 ありとあらゆる怪物は、ソレに従いました


 いえ、むしろ、ソレに従うためにこそ、『魔』があったのかもしれません


 ソレが『魔』を統べ、人を攻め滅ぼそうとするのに、時間はかかりませんでした


 あるがままに、ソレは獲物へ牙を剥きます


 最初の二年で六つの国が滅びました


 次の四年で、さらに六つ。その中には、大国すら含まれます


 さらに八年する頃には、人類の生存圏は、かつての三割ほどに押し込まれました


 その頃には、ソレは一つの名で呼ばれ始めます


 あらゆる『魔』を支配する、絶対の王に最も相応しい二つ名です


 曰く、魔王、と



 ※※※※※※※※




 うん、とても有意義な休暇だったね。


 久しぶりに昔話も出来たし、慣れないことばっかりで疲れてたけど、かなりそれも取れた。

 初心忘れるべからず、なんて言うけれど、案外バカに出来ないよ。

 自分のルーツを思い出すだけでも、生まれ変わったような気分になれる。

 迷った時、分からなくなった時ほど、人間は根本を追求するべきなのかもしれない。

 一悶着あったけど、なんやかんやでプラマイプラスだね。

 教主と昔のこと話すのって、なんとなく避けてた傾向ありけりだったし。

 気まずくなるから言わなかったけど、お互い、やっぱりこうして楽しい思い出を共有したかったんだ。

 大人になるほど、意地が大きくなるのは困りモンだわ。


 さて、無駄話はこの辺にしておこうか。

 過去の話は置いといて、大事なのは未来と今だ。


 今回の一連の騒動で、またクロノくんの『神気』との親和度が上がってくれた。

 ぼくがボコリ過ぎたせいで予定より短くなっちゃったけど、及第点くらいには『神気』を使ってくれたからね。

 クロノくんは以前よりもさらに『神気』を使いこなせるようになったし、出力も大幅に上がった。

 分かりやすく言えば、レベルアップみたいな?

 神様見習いのクロノくんのレベルは、今のところ大体十五ってところ。

 コレが百レベになったら、クロノくんの神化は完了とみなして良いだろう。


 でも、まだまだ大変なのに変わりはない。


 なぜって、今はまだ使える『神気』は少ないからアレだけど、この先もしかしたら、暴れる『神気』が火を吹いて、なんてことになるかもしれない。

 つい先日も、そんな事が起きた訳だし。

 今のところは、まだまだボクには程遠い実力だ。

 この前は結界を破られたけど、アレは本気のじゃないし。本気の本気で『閉じ込める』ための結界を張れば、もっと強くなっても逃げられない。

 ……戦いながら閉じ込めるとなると、レベル七十くらいまでは大丈夫なはず。

 殺さず戦うのって本当にストレスなんだよね。力は否応なく制限しないといけないし、小さな『うっかり』で台無しになりかねない。

 クロノくんのレベルが高くなったら、暴走が始まる前に対処する必要も出てくるかもしれない。


 つまり、だ。

 何にせよ、より一層、監視の目をキツくする必要がある。

 大切に大切に、どんな変化も見逃さないよう、完璧に。虫一匹すら逃さないほどに。

 まあ、もちろんバレないようにね?

 クロノくんから怪しまれるなんて事になったら、もう完全にゲームオーバーだから。


 うん、とても難しいね。

 ぶっっっ壊れの『真眼』なんてのを持っているクロノくんを相手に、隠し事しなくちゃならん。

 しんどいなんてレベルじゃねぇぞ?

 怪しまれちゃダメだって言ってんだろうがクソゴミ!

 もしも仮にボクの力量がクロノくんにバレたら、怪しまれるどころじゃねぇわ!


 アレ、真面目に厄介なんだよねぇ。

 神の目である『真眼』は、あらゆる秘密に対する優先開示権を持ってるって事なんだ。

 ボクの方が遥かに力は上だし、隠す技術だってこの世界で多分二番目くらいだと思うけど、それでも『真眼』の看破には負けちゃう。

 技とかそういう次元じゃないのよ、アレは。

 実際に観察して分かったけど、アレはもう摂理そのものだからさあ。

 星が定めたルールより、なんていうか、位階が高いって感じがする。もっと上の、従わなくちゃいけない、世界に足されたルールなのかもしれん。

 ボクですら、星が定めた絶対のルールは覆せなかったんだ。

 じゃあどうやったって、従うしか無いよね?

 

 星も、そりゃあ神が目障りなはずだわ。

 自分が創った箱庭を、自分よりも強い奴がかき乱したらウザいもん。

 

 というわけで、ボクは今、自分のチカラの大部分を封印していまーす。


 別に厨二病とかじゃないよ?

 ホントにやんないとマズイからしゃーなし。

 気持ち悪いから嫌なんだけど、本当にしゃーなし。

 現状、ボクは肉体に溜めてたエネルギーの九割九分九厘以上を隠してる。

 多分『真眼』にもオンオフは付くだろうし、じっと見られる事はないと思うけど、やっておいて損はない。

 これで、いつ見られても安心って訳さ。


 うんうん、分かるよー?

 普通に隠して、体の中で使えないように封印してるだけなら、それこそ余裕で『真眼』で見通されるんじゃねって懸念でしょー?

 それに関しては大丈夫!


 ボクが見られて困るのは、生物じゃあ絶対に許容できないエネルギー量。それさえ隠せれば、ボクの怪しさはぐっと減ってくれる。

 で、ボクは考えた。

 一体どこに封印したエネルギーを隠せば、いざという時に引き出せつつ、クロノくんの目を誤魔化せるか?

 その答えがコレ。

 ボクのエネルギーは凍結状態でこの星の内部に隠してあるのさ。


 クロノくんの目は、それはそれは凄まじい。

 視界に入れば、どんな隠し事も見通される。

 だったら、視界に入らなければ良いじゃない。


 クロノくんが暴走状態になった時、ボクは手加減のためにエネルギーの大半を星の内部に保存した。そして、クロノくんはボクに襲い掛かってくれたわけだけど、その後は実力差を鑑みて逃げた。

 つまり、クロノくんの目から見ても、ボクは彼にとって打倒しうる相手にまで認識が落ちたんだよ。

 仮説だけど、クロノくんには封印してる分のエネルギーが見えなかったんだと思う。

 何故か? 多分、対象の規模がデカすぎるから。

 当たり前だけど、『真眼』は目だ。視界の中に捉えきれるものは、そもそも認識できないんじゃない? 星に隠してるんだから、不自然な増加分を全部見通そうと思ったら、星を全て視界に捉えるしかないと思う。宇宙から見渡したらバレるかもだけど、そんなんする意味がないからやらんだろ。

 つまりなんだけど、ボクの力はデカすぎてバレない。友達が二十キロいきなり分かるけど、この街の面積がめちゃくちゃデカくなりましたーとか言われても分からんでしょ?


 同様の理論で、多分小さすぎるモノもスルーするだろうね。

 ボクの場合、ボクが封印したエネルギーをそこまで小さくしたら、解凍する時に最悪爆発して星がぶっ壊れるかもしれないからやらないけど。

 どっちかって言うと、コレはアイツの領分だね。


 まあ、今のところはこんなもんか。

 もしかすればこの辺の事は、クロノくんの成長次第で見抜いてくるかもだけど、それでもしばらくは無理っしょ。

 辛口で見積もってだけど、この辺りのことが出来るようになるのは、レベル六十は必要だ。

 仮にそこまで成長したとしても、ボクは一応敵ではないんだし、そこまで警戒される理由もないでしょう。

 知らんけど。


 監視体制を改めた。

 なおも、強い意欲が求められる。

 もちろん、これから先も、クロノくんを神にするために全力を尽くす。

 ボクたちの目的は、成し遂げられなければならない。

 悪の組織の幹部にはなったけど、正直やってらんねーってなることは多いけど、それでもやっぱり、使命は果たさないといけないんだ。

 

 はい、ということで監視任務続行!

 

 あー、クロノくんクロノくん。

 君はどうしてクロノくんなのか?

 大いなる運命を背負わされているというのに、そんな少年らしい笑みをして。

 順調に友達が増えてて微笑ましいよ。


 貴族くんだけじゃなく、幸薄ちゃんまで加えやがって。

 仲良し三人組結成してる?

 これからの学園生活、三人で過ごすの?

 青春してるところ見てると、なんだか心が若返った気がしてくるね。

 あー、平穏に学園生活が終わって欲しいんだけど、それは出来ないしなあ。クロノくんはもっともっとトラブルに巻き込まれて、強くなって貰わないと。


 ん?



「クロノ・ディザウス」



 ツンケン娘?

 いきなりじゃん、どうした?

 ボクとしてはもうちょっと、貴族くんと幸薄ちゃんの皮肉合戦聞いてたかったんだけど?

 


「ロックフォード、さん? 俺になにか……」


「私と決闘しなさい」



 ………………

 …………

 ……


 なんで?



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