第35話 肝心な所は何となく


 あ、焦ったー!

 本気でヤバかったわ。

 まさか『空間転移』でどっか行くなんて想像できんでしょ。

 普通に屋敷の中でバチバチするもんかと思ってたのに、予想外過ぎてビックリした。

 見失った時は心臓止まりかけたわ。

 こんなにドキドキしたのって、マジで四百年ぶりくらいかもしれん。

 今もちょっと拍動が凄いことになってる。こんなにボクの心を乱すなんて、世界中探しても君くらいだよ。


 是非とも誇ってくれたまへー。

 まあ、分かってないだろうけども。


 ということで、二人の所へジャンプ。

 幸薄ちゃんを後ろから首トンで気絶させる。

 どうでもいいけど、普通にやったら、首トン気絶って物理的に出来ないらしいねー。

 でも、ボクなら出来ちゃうんだなあ、コレが。

 首トンの瞬間に過剰なエネルギー供給を行って拒絶反応によって意識をブラックアウト……まあ言っても仕方がないか、ここは。


 いやー、ホントに焦った焦った。

 これまでの教団の努力が水の泡になるところだったよ。そうなったら、ちょっと人類滅ぼしてたかもしれん。もうどうにでもな〜れって感じで。

 ボクが見ていない内に死んでたかもしれないとか、ホントに笑えんし。

 万一も許されないんだ。これでミスったとか、自害じゃ済まないよ。ボクとしては、そうなったら責任を取るために、目的を達成するための最短の道を実現させる他にない。

 分かってるけど、そんなのは誰も望んでないしね。

 やらなくて良かったー。教主の奴に、これ以上心労強いるのも忍びないし。


 あはは、危ない危ない。人類滅亡の危機だったね。

 かなり肝が冷えたけど、実際は何ともなかった。 

 結構焦り散らかして探知したんだけど、近場で助かったよ。

 最悪、世界の裏側まで探知するつもりで気を張ってたんだけど、そうはならなかった。

 保護するにも、一瞬未満で済むからね。

 どう気付かれないように保護するかの方が大変だったし、胸を撫で下ろした。


 子育てしてる親の気分だわ。

 クロノくんの行動の全てが怖くて、気が気じゃない。

 悪い意味でドキドキワクワクしてるね。

 この調子で、長い年月育て続けていかないとダメなんか。なんか、気が滅入ってきたな……


 まあ、今はそれはいい。

 悪いところばっかり目を向けてたら、怠くなる一方なんだから。

 今は良い所に見ようじゃないか。



「あ、ああ、あああああああ!!」



 クロノくんも、予想外のダメージを受けたせいで、『神気』を抑えるための意識がバカになったみたいだ。

 精神崩壊レベルの精神系の魔法を受けたのもダメだったみたい。

 クロノくん、自分の力のやばさは何となく自覚してるフシがあるからね。なんとか自分の力を使わないよう、無意識的に封印してたんだろうけど、そのタガも外れてる。

 自身の保護と、外敵の排除。

 そのために、出せるだけの力を用いてるのが今の状態みたいだ。

 

 喜ばしいねえ、嬉しいねえ。

 こんなに思い通りになったこと、未だかつて無いんじゃないかな?

 こりゃあもう、神様が『いい』って言ってるんだ。

 ボクらの目的を叶えていいって、さ。

 

 だって、前回よりもかなり『神気』に馴染んでるみたいだし。

 前は、まったく制御出来てなかったよね。

 思わず出した力が、軽く自身の限度を超えちゃって肉体が自壊してたし。

 今回は、肉体の限界強度が上がってる上に、ちゃんとその範囲内で暴れてるみたいだ。

 生物としての本能だけで、ここまで理想値を出してみせるとは。流石は神様候補って感じだよ、感動で涙が出そうになる。


 しかも、



「GAAAAAA!!!!」



 あの目だよ、目。

 来る途中からなんかおかしいなーって思ってたけど、こりゃあやってるでしょ。

 以前は無かったのに、今はある。

 あからさまに魔眼だよね、アレは。

 しかも、人間や魔物が時たま持って生まれるものとは、比べ物にならない。


 神っていう存在について、ボクたちが知る情報はめちゃくちゃ少ない。


 神代の時代っていうのが、あんまりにも前すぎるっていうのもあるけど、なかなか居ないんだよ、神のことを残そうとした文書がさ。

 当時の人間たちにとって、神ってのはもう恐怖の象徴だったわけ。大多数の人間が神を弑するために星に協力し、そんで返り討ちに遭った。残った人々も、神の存在そのものを禁忌として、歴史に消し去ろうとしたんだわ。

 過剰に恐れ、怯えて、忘れようとした。

 神を信奉して、神の再臨を願った信者たちもそれなりに居たらしいしね。そういう異端を消すために、生み出さないために、万一にも神が再臨しないように、そういう事をせざるを得なかったんだろう。


 ほんの僅かな、手がかりの数々。

 その中で、神の眼に関しては、幸い情報がある。



「『真眼』ね……」

 

 

 あらゆるモノを見抜く眼、らしい。

 魔法の術式、虚実、時、生、核、あらゆるものは、その眼の前では裸も同然。

 あらゆる事象に対して、優先情報開示権を有している、とのこと。

 流石は神様。ぶっ壊れチートな特殊能力を持ってるみたいで何より。

 面白いくらい『神気』に影響されて、なおかつ馴染んでいるようだ。


 まあ、



「暴走状態っていうのはいただけないけども」


「GAAAAAAAA!!!」



 クロノくん、凄いことになってるなあ。

 人間の目って二つのはずなんだけど、いつの間に六倍になったんだろう?

 顔も全体的に闇?でモヤッてるのに、目ぇだけはくっきりしててキモいな。人型な分、なんか余計に気味悪く見えるなあ。

 漏れ出てるエネルギーで地面めくれてるけど? なんてエネルギッシュな化け物でしょう。


 あからさまに『真眼』が暴走してる。

 いや、正確には最も強く神の力を引き出せる眼に力を集めて、そこを基点に敢えて暴走させてるのか。

 暴走させるにも指向性なんて持たせんなよ。

 クレバーな立ち回りされたら、処理が面倒くさくなるじゃんよー。



「おーい、エセ神父ー!」


『なんですか、第一使徒殿? 戦闘なら、さっさと始めてくれませんか?』



 何だよ、めっちゃ機嫌悪いじゃん。

 この子らの挙動見逃したのはお前もだろ?

 


「結界張ってー!」


『もう既に自分で張ってるでしょう? 別にもう良くないですか?』


「戦闘中に綻びたら困るし、外側に張って欲しいんだよー!」


『貴女なら万一も無いと思いますが、まあ仕方ありません』



 よーし、コレで完璧。

 ボクの結界でも十分クロノくんの『神気』を星から隠せるけど、僅かにでも綻びたら困るしね。

 念には念を入れたら良いんだよ。

 


『貴女がその程度の相手に苦戦するとは思えませんがね』


「バカ。なるべく戦闘を長引かせるんだよ。せっかく力に馴染んでいるんだから、機会は有効に使わないとさ」


『どちらにせよ、結界が綻ぶというのなら、貴女の怠慢以外はあり得ませんが』


「うるせーな、殺すぞテメー!」



 はー、うっさ!

 何でこんなにうっせーんだろうなあ!

 ボクのこと貶さないと会話できないのか?

 


「まあ、良いよ別に。とりま半時間は出てこないから、適当に空間隔絶して」


『人使いの荒い』


「一番働くのはボクなんだから、文句言うな」



 曲りなりにも、神との喧嘩だぞ?

 普通なら消し炭も残らんぞ?

 ボクだから、軽くスパーリングするみたいなノリで済ませられるんだぞ?

 お前結界張って待ってるだけやん。今のクロノくんなら軍隊壊滅がせいぜいだろうけど、それならお前でも余裕でやれるって。


 まあ、ボクが相手するのが一番良いんだから、言われても変わらんけども。

 お互いに楽な仕事なんだし、嫌なこと言い合わずに仲良くしようや。

 よし! 仕事しようか!

 


「さて、さてさてさて、さてだよ、クロノくん」


「アァァあAAAAAAAAAA!!!」



 人型、ではあるな、まだ。

 ちょっとエネルギーが溢れて歪な形になってるように見えるけど、大丈夫大丈夫。

 全然手の施しようはあるからセーフ。


 それにしても、これで力のほんの一部とは。

 見た限りじゃあ、現状で五パーってところか。

 どこまで強くなれるのか、楽しみで仕方がない。

 その手助けが出来るなんて、ホントに甲斐のある仕事だよ、こんちくしょう。



「君は力の使い方がなってない。使い慣れない力を無意識で上手く制御してるけど、まだまだ足りない」


「AAAAAA!!」


「そこで、手本を見せてやろう。すると君は無意識下で学習し、力の使い方を改善する。それは、神への第一歩になるだろうさ」

 

 

 そんな上手くいくかは知らんけど。

 まあ、多分上手くいくでしょう。


 そんな都合の良い事が起きるかって? 

 知らん。カン。多分上手くいくじゃろ。




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