第21話 アレ? ボクの感性って小学生から変わってない?


 馬車って嫌いなんだよねー。

 だって、ガタゴト揺れて気持ち悪いし。夏は暑いし、冬は寒いし。

 公道がちゃんと整備されてる訳でもないこの世界じゃ、先進国の自動車みたいに快適な環境はない。エアコンの機能くらいなら、普通に魔法で再現できるよ? でも、それを馬車に備え付けてるのって、めちゃめちゃリッチな人たちだけ。

 いや、贅沢なのは分かってるさ。

 ボクだって、四百年以上この世界と付き合ってるんだ。

 その気になれば大地震の中で睡眠したり、火山口で座禅したり、雪山の天辺で遊ぶくらいは出来る。

 ん? これはこの世界の不便さと文明の発展具合は関係ないか?

 まあ、空調も効かずに揺れまくる馬車の中で過ごすより、よっぽど過酷な環境でも活動可能って話。

 でも、揺れてないならそれに越したことはないし、暑いもんは暑いし、寒いもんは寒い。

 我慢の幅が広いっていうだけのこと。


 だからさあ、本当に馬車って嫌いなの。

 環境がもうホントに悪いのなんの。我慢してても、イライラは溜まっていくもんじゃん?

 いやまあ、百歩譲ってそれは良いとする。めちゃめちゃ腹立つけど、まあ良いとする。

 それでも何が嫌かって、馬車って遅いんだもん。

 馬車なんて用意するくらいなら、普通に走ったほうが速いじゃん。

 自分よりも遅いものに身を委ねて移動するって、なんていうか非効率じゃん?

 

 しかも、密閉された空間っていうのも気に食わない。

 密閉されてるってことは、どこにも逃げ場がないってこと。

 つまりは、



「アインは、出身はどこなんだ?」


「…………」


「どこで生活してきたんだ?」


「…………」


「休日は何をしているんだ?」



 こういう事である……


 おかしくない?

 いや、まあ確かに幸薄ちゃんがお金持ってないのは知ってるよ?

 でも、流石に四人まとめて一つの馬車ってさあ。

 貴族くんなんて、一応上級の貴族でしょ?

 普通にそこは見栄を張って高級馬車を用意したり、そうでなくても一人一馬車だったりとか、そういうのを期待してたよ。

 なのに、何でこんなことになってるん?


 ていうか、クロノくんも遠慮しろよ!

 ボクは静かなのが好きなの!

 黙って景色眺めてるんだから、何となく察してくれよ頼むから!

 


「おい、もうよせ」



 そうだぞ、貴族くん、もっと言ってやれ!

 その箱入り息子を叱ってくれ!

 


「え、でも折角だしさ! いつも気付いたら居ないし、こんな時じゃないと聞けないと思って……」


「……無視されてるぞ、ずっと」


「うん、でも嫌とも言われてない! 俺も学んだ! この手の相手は、しつこいくらいに行かないと絆を結べないだろうから!」


「…………」



 しまった、嫌って言ったら黙ってたのか。

 前と違って、本気で相手の事を知りたいと思ってるし、自分の事も分かって貰おうとしてる。

 互いの理解を求めてるのは、前進ってことで良いだろうさ。

 まあ、ボクにとってはよりタチが悪くなったって話なんだけどね!

 ヤベヤベ、はよ断って会話を、



「お前も、ある程度は話せることは話せ」


「?」



 え、貴族くん、まさかの裏切り?

 君がクロノくんの手綱握ってくれるんじゃないの?



「コイツは、しつこいぞ? 今嫌と言っても、別の方法で近付くこうとしてるに違いない」


「…………」


「俺も見張るが、常には無理だ。手が離れたコイツが何をするかは分からん。なら、訳の分からん事になる前に、ある程度はコイツの希望を通した方が良いのではないか?」



 うっわ、百理くらいあるわ。

 クロノくんはなんか『心外だなあ』って顔してるけど、君はやるでしょ?

 まあ、ややこしいのは勘弁だしなあ。

 


「……出身は隣、ロレンシア大陸。特に決まった住処はなくて、色々な所を旅してた。休日は学園の付近でボーッとしてる」


「…………!」



 感動すんなよ、こんな事で!

 なんだこの子犬みたいな奴は?

 邪険にしてるボクが悪いみたいな気持ちになってくるわ。

 ていうか、コレで良くね?

 ホストの幸薄ちゃん? 君はいったい何をニコニコ微笑んで控えてるんだい?

 元はと言えば君のせいだかんね?

 何を、自分が知りたかった事を代わりに聞いてくれる人が居るからラッキー、みたいな面してんのさ?



「俺も休日は学園の近くをぶらついてるけど、会ったこと無いよな!?」


「うわー凄い偶然(棒)」



 お前がそうしてるから、ボクもぶらついてるんだよ!

 ボクは基本的に一日中、彼の監視を怠ってない。

 基本、彼のそういう部分はざるだから、気付かれることはなくて楽でいいけど。

 でも、休日の過ごし方もクソもない。

 毎日毎日仕事漬けのクソブラック環境さ! 

 バカ正直に答える訳にはいかんけどな!



「いつもどの辺りを歩いてるんだ? 俺はレリア街の骨董屋に良く行くんだ! そこの骨董品が、面白いのが揃っててさあ!」


 

 擦り切れた魔法書やら、曰く付きの魔剣やら、用途の分からない魔導具やら。

 そんなガラクタばっか見て何が面白いんだ?

 二つに折りたたんでやろうか、この野郎?

 お前のせいで、変な変な商品名覚え始めてきたわ。嫌でも聞こえてくるからな!



「何だったら明日か明後日にでも……」


「却下」



 何だテメェ?

 もう、本当にさあ……


 良い子なのは分かるけど、懐きすぎだろ。

 ボクってそんな好感度あげるような事したか?

 あ、いや、逆か?

 好感度が低すぎるから、ボクのことを攻略しようとしてるのかな?

 ……今回の件、正式に付いてきて良かった。

 ある程度好感度稼いで、付き纏われんでも良いようにするか。『取り敢えずコイツの好感度はこれくらいでええか』って思わせとこう。



「えー、じゃあ、他にも色々聞いて良いか?」


「……はあ、分かった」


「やった! じゃあ、じゃあ、」



 小動物に懐かれるのって、癒やされるけど途中で飽きてこない?

 最初の一分くらいは可愛いなぁ、と思うんだけど、しばらくすると煩わしくなってくる。

 これってボクだけ?

 もしかして、ボクの他人への興味のなさがそのまま現れてる?

 自分のろくでなし加減は分かってるんだから、これ以上は要らないんだけど?



「お土産は何が良いと思う? リリアとラッシュにあげたいんだけど……」


「虫の餌でもやってろ」


「なんで虫の餌……? あの二人、もしかしてクラッシュスタグビートルとか飼ってるのか?」



 んな訳ねぇだろ。

 あ、クロノくんが言ったのは、この世界のクワガタみたいなもんね。

 ていうか、アイツ成長したら体長三メートルくらいあるだろ? 室内飼いするにはちょっとどころじゃなくデカすぎるわ、常識で考えろ。

 


「良いよなあ、アイツ。虫系の魔物はなんか大体カッコいいけど、ミュータントビートルとクラッシュスタグビートルは別格だもんなあ……」



 ……いや、分かるけど。

 カブトムシとクワガタがカッコいいのは分かるけど。

 ついでに言うとボクはクワガタ派だけども。

 ていうか、虫って一般的にはキモいのでは? 脚いっぱいあってカサカサしてるのがカッコいいとか、感性小学生か?

 中学生くらいにはなってくれよ。

 


「キーホルダーとかどうだ? 骨董屋で見たんだ。剣と盾がクロスしてるんだ。カッコいいだろう?」



 キーホルダーってあるんだ……

 そういうカッコいい系のキーホルダーってこの世界にもあるんだなあ。

 あるんなら一個買ってもいいな。

 はっ! まさか、木刀が置いてたりするのか?

 意味の分からん御守りとか、龍の置物があったりするんだろうか?

 ……ボクは何故ちょっと興奮してるんだろう?

 


「はいはい、そうだね」


「他にも色々候補があるぞ?」


「ていうか、王都から離れる訳じゃないよね? 学園も王都にあるの、忘れてない? 土産って要る?」



 うん、本当に何の話をしてたんだ?

 クライン王国の国立魔法学園は、王都エーレに建っている。

 で、王都にある別邸って最初から言ってたし、ボクらはそもそもエーレを離れない。

 おんなじ都市に住んでるのに、その都市の土産とか要るか?

 何でお土産でこんなに盛り上がる?



「必要だろう? 自分の選んだお土産で喜んで貰えたら嬉しいじゃないか?」


「……十中八九、迷惑がられるのがオチだろ」


「えー、そうかなあ?」



 そうだよ。

 そういう小学生男子が選ぶようなお土産は、基本的に見た目以外の価値ないから。

 あげるにしても、役に立つものにしなさい。

 


「あげるなら、お菓子とかにしとけ」


「でも、それじゃ面白みが……」



 何を気にしとんねん。

 


「まあ、分かったよ。じゃあ、他にも聞きたい事があるんだけど……」


「なんだよ……?」



 もう、どうにでもなれ。

 別邸とやらに着くまでくらいは付き合ってやろう。

 どうせ、一時間もしないだろうし。



「仲良くしてた奴は居ないのか? 俺たちの他に、誰か友達とか……」



 ……これ、本当に答えなきゃ駄目?

 嘘言ったらバレるかな?

 取り敢えず誤魔化してみようか。



「居ない」


「あ、嘘吐いたな。もしかして、あんまり言いたくないのか?」



 何で分かるんだよ。

 表情変えてないし、声色とか心音とかいつも通りだったはずだけど?

 見た所『虚偽看破』の魔法は使ってないみたいだし。

 神候補だからか?


 ん〜〜〜?

 

 あ、なるほどね、そういうこと。

 じゃあ、ウソ吐いても分かるんじゃん。

 これはボクでも誤魔化せないな。何と言っても、領分が違うんだから。

 いや、メンドクセー。

 この先、まともに嘘は言えないって事じゃん。



「二人、居たよ」


「そうなのか! どんな奴らなんだ?」


「根暗と、バカさ」



 これ以上言うつもりはないぞ。

 流石に察してくれよ、クロノくん?


 腕を組んで、目を閉じる。

 もう何も喋らんからな。ていうか、結構色々喋っただろ。

 まあ、そんな大した事は言ってないけど、ボクにしては色々喋った。

 流石にもう満足してくれ。

 ていうか、幸薄ちゃんにもその手の質問してろよ。

 お互いの事を知り合うなら、その子がおすすめだぞ。ボクは攻略不可能キャラだからな。



「……そうか」


「そうだよ。だから、ボクに友達は必要ない」

 


 今のお前じゃレベルが足りんのさ。

 それくらい、わきまえてるだろ?

 じゃなきゃ、お前、貴族くんの時から何も変わってないぞ?

 


「分かった。誘うのはまた今度にするよ」



 ……もう誘うなよ。


 ようやっと、クロノくんはボクをターゲットから外してくれた。

 すると、随分と雰囲気が丸くなる。

 焦りすぎたのを自覚してくれたかな?



「で、なんでアリシアは俺たちを誘ったんだ?」


「はあ……やっと本題……」



 さて、気を取り直そう!

 馬車の中で、今回の招待側である幸薄ちゃんが何かを喋ろうとしてる。

 ということは、今回の本題。

 大体のことは調べちゃったけど、どの情報をどう渡すかで幸薄ちゃんがどの程度やるのか見たいなあ。


 ていうか、幸薄ちゃんなんか疲れてね?

 ずっと本題に入りたかった?

 でも君、ボクのこと根掘り葉掘り聞こうとしたクロノくんのこと、普通にありがたがってたよね?

 ボク、ミステリアスが過ぎるから、まあ気になるのは分かるよ。

 まあ、こうしてクロノくんを放っておいたのは、それ以上にこの子の性質が出てるよね。

 分からないものを知って、先手を打とうとする。

 小心者の典型的な在り方だ。

 タイプ的には、エセ神父に近いよなあ。

 


「今回、皆さんを呼んだのには理由があります」



 さて、さてさて。

 何を言うのか、なかなかに楽しみだ。

 ボクは何をすれば良いのかな?



「今回、皆さんには私の両親の相手をして欲しいのです」


「相手?」


「はい、軽く話して、食事して、私と仲良くやっている事を話してくれれば大丈夫です」



 あら? そこは正直に言うんだ……

 出来るだけ家の恥は隠そうとするかと思った。

 まあ、誤魔化しても時間の問題だしなあ。

 それなら、最初から正直に言った方が良いっていう判断かな?



「私は、その間に両親の不正の証拠を掴みます」


「…………は?」


「先日、帳簿に不自然な収入を確認しました。さらに別口で探ると、借金の急速な返却や妙な羽振りの良さが目立ちます。多少のことで、こんなことはあり得ません。ですから、私は両親が何をしているかを調べたい」



 え?



「ですから、お願いします。私は、我が家の汚点を雪ぎたいのです」



 え、え、えー…………?



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