第18話 貴族ヤバいわ。こりゃあ腹芸じゃ勝てん
さて、やってきました授業回。
退屈極まりなく、将来これが何の役に立つか一切分からんクソイベだ。
もう眠くて仕方が無くなるの。
ボクってば、この世界に生まれ落ちる前から、授業は全部寝てた気がする。
生理的っていうか、魂的に授業が嫌いなんだ。
眠りという行為、状態に対する耐性を数値にすれば、ボクのはほぼ完全なんだけどなあ。催眠の魔法だって跳ね返せるのに、ボクが授業で寝てしまう理由は何なのか?
その理由を探すため、我々はアマゾンの奥地、には向かわないんだけども。
「何故、我々は魔法を使えるのか?」
でも、実際眠気ってどうしようもないんだよね。
いつの間にか訪れるというか、訪れを感じた時には手遅れっていうか。
お前はもう死んでいる状態なのよ。
これは、もう呪いなんじゃないかな?
誰かがボクの任務を妨碍するために、ボクに授業中は寝るように仕向ける呪いをかけたに違いない。
まあ、そんな事が出来る奴、この世界に一人も居らんけど。
「知っての通り、魔法は魔力と陣が必要になる。後者は人の想造によるものだが、では、前者は何なのか? 今日はそれについて教えよう」
授業中って、どうやって眠気覚まししてた?
手を
それで眠気が覚める?
この、クソ重たい眠気に抗わなきゃいけないのって、本当に苦しいよね。
今すぐ寝たいけど、流石に気が引ける。
ちょっとだけ努力してみることにしようかな?
「魔力は個々人にあるものだが、その源は究極、この星にある」
じゃあ、まずは息を止めてみよう。
…………
いや、ボクって息する必要ないんだったわ。
いつまで経っても苦しくならないから、おかしいと思ったんだよなあ!
まさか、この世界に空気を必要としない生物が居るだなんて!
初耳すぎて、耳の存在の根源を疑うわ!
……いや、もうちょい付き合ってよ。
ちょっとフザケただけじゃん。
「星は、定期的にエネルギーを吐き出す。土地の活性を行うため、地下に巡るものとは別の、いわば余ったエネルギーを『龍脈』と呼ばれる口を通して地表に吐き出す」
じゃあ、空気椅子。空気椅子してみよう!
…………
別に疲れないなあ。
うん、疲れない。
年単位でぶっ続けても大丈夫だわ。
はー、クソクソ! 誰だよ、授業中に眠い時は空気椅子すりゃあ良いとか言ったやつ!
「空気に混じったそれを、魔素と呼ぶ。魔素を生物が取り込み、体内で己の特色に染め上げたものを、我々は魔力と呼ぶのだ」
手を、抓ってみようと思ったけど止めとこ。
ボクが痛いって思うレベルにしたら、グロい光景をお茶の間に放送することになる。
気配消して、最悪寝ても大丈夫なようにしてるけど、存在を気付き難くしてるだけだ。ちょっとインパクトのある事をしたら流石にバレる。
で、授業中にカフェイン取る訳にはいかんよね。
ていうか、カフェインなんて手元にねぇし。
詰んだの? もしかして?
もうボクはこのまま眠るしかないのだろうか?
「他の性質に染まりやすい魔素はともかく、生物から搾取した魔力を活用出来ないのはこうした部分が大きい。どうしても、本人の肉体を通さない魔力の活用は効率が悪くなる」
ていうか、全然話変わるんだけど、この先生、名前なんだったっけ?
確か担任だったような気がするんだけど?
あ、そうだわ、この先生の名前思い出すのに集中したら、眠気覚めるんじゃね?
「魔法は、理と力によって星の法則を捻じ曲げる技術。何故ソレがまかり通るかと言われれば、力の元が星の力だからという説が強いな。星は素直で、寛大だ。生物が世界を弄っても、大概は許してくれる」
ね? ね、ね、ね?
ネックレス? いや、違うなあ。
ネッ、ネッうんたら先生だったような気が……
「だが、だからこそ、魔力以外の力は使ってはいけない。例えば、呪いや神聖術。コレらは、特別な許可を得た人間が、僅かな機会に、監視付きで初めて行使する事が出来る技だ」
ネット、なんたらだった気がする。
えー、思い出せー。
もうホント、ここまで出かかってるんだけどなあ。
喉元まで来てる気がするんだけどなあ。
「諸君らにはあまり関わりのない話だが、留意しておくように」
あ、ネットハイン先生だ。
ファーストネームはもう頭の片隅にもない。
うん、どうでもいい事に時間使ったな。
※※※※※※※
神とは何か?
この問いは、シンプルだけど難しいんじゃない?
だって『普通に』考えるなら、超自然的な何者かだったり、偶像そのものだったりするだろう。
シンプルっていうのは、神を何となく想造する事が出来るくらいには馴染んでいるから。誰が想像しても、『凄い』とか『恐い』とかが共通してるものだしね。
けど、あくまでソレは想造の中の何かであって、具体的な定義がない。難しいっていうのは、そういう、定義というものに幅があるから。
名前や姿があるならまだマシだろうけど、神を人の定義に貶める事を嫌う宗教とかもあるしね。
神を拝する事が当たり前の人間にとって、神を排する世界っていうのは不自然に見えるんじゃないかな?
ボクも、剣と魔法の世界の常識は馴染むのには時間がかかったよ。
すぐに『へー、そういうもんなんだ』っていうラノベ主人公がどんだけ適応能力高いか分かったね。
で、ここで言う『普通』はボクだけの話。
異なる世界の常識を知る、ボクだけのね。
でも、この世界は違う。
この世界では、神の定義がちゃんとしてる。
ここで言う神っていうのは、『神気』を操る事が出来る生命体以外にはない。
さっきの授業でもチラっと言われてたけど、魔力を使う魔法以外にも、超常的な力を起こせる技術はある。
例えば、呪力を使った呪術、或いは呪詛。
人を傷付け、苦しめるためだけの力。他者を害したいという感情がトリガーとなる、人間由来のもの。
例えば、神聖力を使った神聖術。
人を守り、癒やすための力。何かを信じる、いわば信仰心から生み出される、やはり人間由来のもの。
この『神気』っていうものは、そういう例外のカテゴリだ。
ただ上の二つと違うのは、使えたとしてもその存在は人間だし、そこから逸脱する事もない。
プログラミングが出来るからって、ソイツが人間じゃないなんてあり得ないよね? 全体から見れば使える人間は少ないけど、他に居ない訳じゃないし、使えたって他と外れてると認識出来るほど凄い事じゃあない。
当たり前だけど、多少他と人と違う事が出来るからって、人間は人間を辞められない。
でも、『神気』を使える存在は神だ。
人間でも、犬でも、猫でも、『神気』を使えるのなら、その存在は神である。
カテゴリを抜け出て、強制的に神という存在に成り上がる。
そういうもんなんだよ。
他ならぬ星が、そう認識してるんだから。
じゃあ、『神気』ってなんぞやってなるよね?
そんな意味分からん力の根源は何か、とか。
それを使えば何が出来るのか、とか。
気になるだろうから、説明してしんぜよう。
まず、『神気』とは何なのか?
これは、この星の外側から来た力らしい。
魔力もそうだけど、呪力や神聖力というものも、この星の生命体から生まれるものだ。
根本的に、この星の中の出来事でしかない。
でも、『神気』だけは違う。
この力だけは、この世界にあったものではない。この世界とは、何の関係もない力だ。
ソレがどこからやって来たのか?
あんまりにも昔のこと過ぎて、真相は誰にも分からない。
その昔、神代の時代を覗いたとか言う天才魔法使いが居たらしいけど、見た瞬間に狂ったらしい。意味の分かる言葉を抜き出し、何とか理解しようとした人間も居たけれど、それが正しいかは分からないからなあ。
まあ、一般に通ってるのは、こんな話だ。
人間がまだ魔法を使えない時代。
今よりも遥かに文明の水準は低く、非力で、それでもまま平和であった遠き過去。
星を揺るがすような事件など起こりようもなく、とても穏やかな日々が続いていた。
そんな中で、突然、この星にかつて神とやらが降り立ったらしい。
どこかの果てからやって来たソレは、この星を住処と定めて、星を統治した。魔法も使えない現地人が、強大な力を持つ神を退けられるはずもなく、人間を含めた全ての生物が、その日の内に神の支配下に置かれる。
でも、この星は寛大で、そして素直だ。
星の寛大さを通り越した行いは、躊躇なく処罰しようとする。地表に住まう生命どころか、星そのものすら支配しようとした神を、星は赦しはしなかった。
神と星とが全面戦争になり、神は全力をもって星を支配しようとし、星は数多の『裁き』と『星霊』を消費した。
戦況は拮抗。何十年も、戦争は続いたらしい。
そんな中で、星が目をつけたのは、己の地表に住まう生命体たちだった。
星は『龍脈』から、元来住まう生命体のためにエネルギーを吐き出すようになった。人間を含め、今で言う魔素を取り込むようになった生物たちは独自に進化し、力を得て、『星霊』たちと共に神に反抗したらしい。
長い長い戦いの末、ようやく星は神を追い出す事に成功した。
それ以来、星は神の存在を禁忌と定めた。
どんだけ神がヤバかったかは、何となくだけど分かるね。
だから、そんなヤバい存在が使う力を星は許さない。
今も、神が当時使っただろう残滓は残っているんだ。世界の何処かには、眠ったままの『神気』が存在している。
星も、それには気付いていないらしい。
神と戦った後は、傷を癒やすために永い、本当に永い時間が必要だったろう。
神が去った直後くらいなら何とかなっただろうけど、少なくとも数万年、下手すりゃあ数十万年は星も活動を抑制しただろうし。
しかも、『神気』の性質も厄介だ。器たる存在が居ない間、この力は眠りにつくんだから。こうなれば、もう遺跡に眠るミイラと変わらない。そこにあるだけの、無用の長物と成り果てる。星の感知から逃れるくらい、弱々しいものになっちゃうのさ。
あのエセ神父も、そうした神が取り零した『神気』を発見するのが一番の仕事だね。
器が無けりゃ大人しいが、器さえありゃあ暴れるのが『神気』の厄介なところ。大抵の器は耐えきれずに自壊する。大抵のっていうか、全部? まあ、仮に耐えられる器があったとしても、すぐに星が気付いて『裁き』案件。
遺跡発見家っていうか、トレジャーハンターじみてるんだよなあ、アイツ。
性格が悪すぎるのもそうだけど、こういう所も神父っぽくない。
で、『神気』を使えば何が出来るか、か。
概要しか分からんし、詳しく調べられもしないから、ざっくり言うね?
この力を使えば、星を支配できる。
ざっくりし過ぎ?
ごめんね? でも、ボクもいまいち分かんない。
だってボクには使えないし、本領発揮した『神気』なんて一瞬しか見てない。
出来るとすれば、文献を漁り、眠ってる『神気』を観察し、ほんの一瞬だけ見たモノホンの『神気』の様子を想像し、どういう事が起きるのかを予想するしかない。
で、星の支配の話か。
魔力を使った魔法ってものは、星の法則を一時書き換えるよね?
あくまで、一時的。さらに、星に存在する数多のルールの、ほんの一部のみ。
理屈、理論、力を尽くして、ほんの少し。今の魔法が使えるものだけをピックアップされていて、しかも分かりやすく体系化されてるから勘違いしがちだけど、魔法は別に万能じゃないんだよねえ。
でも、『神気』とはエネルギーとしての質が違う。
ただそう在れと思えば、それだけで形は成る。
思い通りの、自由度が違う。
あらゆるものを、支配するための力だ。
この力の前には、定められた絶対の摂理すら神の靴底を舐める。
何で星は神に勝てたんだろうね?
当時の記録があったら見てみたいわ。
まあ、それと似たような事は、これから見れるかもしれないけどね。
ボクたちの目下の最大の目標は、この学園の一年生首席クロノ・ディザウスくんを神にすること。
アレは、神になれる器がある。
どうやったか、どんな軌跡があって、奇跡が起きたのか、分からない。
でも、彼はいずれ神に至る。
ボクはその手助けをすればいい。
その末にあるのは、多分、神と星との大戦争だ。
神が大人しく殺されてくれるなら良いけれど、流石にそれはしないでしょ?
訳の分からん地獄が展開されるだろうね。
あらゆる文明は踏み潰され、戦争の余波で死ぬ人間も万じゃあ利かない。
ボクは、それを先導する立場にある。
嗚呼、本当に胸が痛むよ。
平穏なこの世界を、下手すりゃあ滅ぼさなくちゃいけないんだから。
ま、それでも、やらなきゃいけない。
絶対に成し遂げなくちゃいけない。
だから、仕方がない。しょうがない。
さーて、これから何しようかな?
ここから先、あんまりイベントがないからなあ。
テストとかの、室内のものばっかり。
まあ、外でやるイベントでいきなりイレギュラーが起きたんだから、やりたくても出来んか。
でも、ずっとは流石にないだろうね。
いつかは、何かしらのイベントをするはず。
今のところはボクもすることがないから、ゆーくり待つとしようか。
じゃあ、今日の授業も終わった事だし、クロノくんを遠巻きに観察しよう。
あ、学園の寮の部屋って未だに使ってないんだけど、ちょっとは使った方が良いか?
流石に怪しまれるのは本意じゃあ……
「あのぅ……」
うわ、気付かれた。
かなり注意深く観察しないと、ボクの事は見えもしないんだけど。
ビックリしたわ。よく見つけたな本当に。
なんだ、幸薄ちゃんじゃん。
「クラスの方々に提案しているのですが、今度の休日、私の王都の別邸に来ませんか?」
え、なになに?
本当にいきなりじゃん。
「これは、借り考えて構いません。是非、来ていただきたいのです」
嫌だけども。
普通にそんなことする仲じゃないだろ?
なんだ、距離の詰め方バグってんのか?
そんなコミュ障、関わるのは今の所、一人で間に合ってるんだけど?
「現状、アリオス様とクロノ様には承諾を頂いています。どうか、ご検討を」
………………
うーん、そうだね、うん。
すうぅぅ…………
是非行かせていただきます……
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